合志市にある国立療養所菊池恵楓園で１９５０年代の園選抜チームのユニホームが復刻されました。入所者自治会の太田明副会長がこのユニホームを着て、先日、中学生とキャッチボールを楽しみました。
国立療養所菊池恵楓園の歴史資料館です。
１月、入所者自治会の太田 明 副会長のもとに小包みが届きました。中身は・・・野球のユニホームです。１９５０年代に園内で選抜された選手たちのものを当時の写真などから復刻しました。そのチームは『オール恵楓』と呼ばれていました。
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「ドラフト１位で！」
このユニホームは太田さんが子どもの頃からずっと憧れていたものでした。
恵楓園では１９３０年から野球が盛んになり、入所者の３つのチームと職員チームが試合をするようになりました。
入所者にとって、野球は大きな楽しみで選抜チーム『オール恵楓』は園外から訪れるチームと対戦し、園内の人気者だったといいます。
太田さんは１９５２年、小学２年生のときにハンセン病の治療のために入所しました。野球が大好きでした。
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「脚に小さな斑紋がありました。それだけでした。あとはどうもなくて、いたって元気で。自分が病気だという自覚はなかったですね」
（以前の野球場跡地にて）
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「ここにバックネットがありましたね、Ｌ字型。ホームベースはこのあたりでしたね。ちょうど、こんな感じですね。北側が１塁、２塁、３塁ですね。藤棚があるでしょう、あれが３塁側のベンチになっていました」
ハンセン病の特効薬ができたにも関わらず、患者たちを園内に閉じ込め続けた国の誤った隔離政策。その歴史を伝えようと残されたコンクリート塀、『隔離の壁』です。
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「やっぱりこの場所から外に出てはならないんだなという精神的な精神的な抑圧は感じていましたよね」
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「ここ、分かります？ここに足をかけて、ボールを拾いに行くんですよ」
太田さんが金づちでたたいて開けた穴です。
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「野球少年だった頃の痕跡がこうして残っているというのはなんとも言えんですよね」
太田さんが入所した年の９月、オール恵楓チームはこの『隔離の壁』を越えて鹿児島県鹿屋市にある療養所『星塚敬愛園』に遠征。オール敬愛チームと交流試合を行ないました。
当時、恵楓園の東側には新しい野球場が完成し、園内の野球熱は大いに高まっていました。
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「バックネットもダッグアウト（ベンチ）も整備されていますし、何よりも外野に芝生がずっとあるじゃないですか。これは本格的な野球場だなと思って。『わあ、ここで野球やりたいな』とまず思いましたよ。『これは立派な球場だな』と思いました」
（１９５３（昭和２８）年、鹿児島県鹿屋市からオール敬愛が菊池恵楓園を訪れた）
【国立療養所菊池恵楓園 歴史資料館 原田 寿真 学芸員】
「若い時代を療養所の中で過ごされていますので、入所者の方が限られた環境の中で精いっぱい体を動かして白球を追ったことは人生において非常に大きな意義があったと思いますし、また、その活動の中で外部の方々と交流する機会を得たことはハンセン病療養所としても意義があったことだと思います」
この野球場は以前、社会人や少年チームの練習や試合のために貸し出されていました。選手たちのかけ声やボールを打つ快音がほんの数年前まで園内に響いていました。しかし、コロナ禍以降使われず、施設の老朽化が進んでいます。
７月、野球場に選手たちのかけ声が響きました。
園の隣にある合志楓の森中学校野球部がキャッチボールをしていました。
その中に、オール恵楓のユニホームを着た太田さんの姿がありました。
合志楓の森中学校は２０２１年に開校。しかし、コロナ禍で生徒と恵楓園の入所者が交流する機会がありませんでした。
今回、園内でかつて野球が盛んだったことを知ってもらおうと自治会が呼びかけました。
太田さんにとって４０年ぶりのキャッチボールです。
１年生の黒木桃仁朗さんが着ているのは園内にあった少年チームの復刻ユニホームです。このユニホームも太田さんが憧れていたものでした。
【合志楓の森中学校１年生 黒木 桃仁朗さん】
「太田さんの思いが伝わった球が来きました」
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「当時の思いがよみがえりますよ。やっぱり野球やってよかったなとつくづく思います」
（聞き手）当時、着ていた方たちもこれを見たら喜んだでしょうね。
「みんなに見せたかったですよ、生きとるうちに。１０年くらい前に作っときゃ、みんな喜んだと思います」
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「これからもよろしく。これから、このグラウンド、使っていいから、やってください。空いているから」
【合志楓の森中学校野球部】
「ありがとうございます」
【入所者自治会 太田 明 副会長】
「４０年ぶりにまさかユニホーム着て、８０のおじさんが・・・僕は結構、軟式でもライトに流し打ちしよったんですよ。軟式で流し打ちというのはものすごく難しいです。こうしてグラウンドが残っているし、これからもこのグラウンドが復活すればいいですよね。また、次の少年たちに夢を与えられる場所になってほしいですよね」
太田さんがキャッボールで使っていた青いグローブは馬原孝浩さんが福岡ソフトバンクスホークスで使っていたものを自治会にプレゼントしたものだそうです。復刻されたオール恵楓のユニホームなどを展示している『私のそばにあった宝物展』が菊池恵楓園の歴史資料館で開催中です。【休み 月曜・祝翌日】来年２月２９日（木）まで。
