野生のイノシシやシカの肉、いわゆるジビエ。鹿児島県内でも、毎年多くのイノシシやシカが農作物の鳥獣対策として捕獲されているが、実際に食肉として利用されるのはその10%にも及ばない。
ジビエの利活用拡大を図る鹿児島県内の取り組みを取材した。

ジビエの食肉加工の割合が低い鹿児島

鹿児島・日置市日吉町にあるジビエ処理加工施設、「ジビエ研究所レイビッグジャパン」。

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2022年6月に開業し、猟師が捕ったシカやイノシシを食肉として加工し、ジビエとして県内外の飲食店などに卸している。

この日、向かったのは薩摩川内市の山中。小さなシカが、わなにかかっていた。
猟師が「被害は多い。田んぼに入って稲の穂を食べる」と話す通り、この地域では山から下りてきたシカにより、田んぼに被害が出ているという。

野生のイノシシやシカによる県内の農作物の被害は、年々減少傾向にあるものの、2022年は約3億3,000万円に上った。

その対策として、野生動物の捕獲が進められ、イノシシとシカだけみても、その数は5万7,000頭を超える。しかし、そのうちジビエとして食肉加工されるものは、わずか2,800頭余りで、割合にして5%ほど。全国平均の10%を大きく下回っている。

加工や調理でジビエのイメージを覆す

「ジビエのイメージも臭みが強いとかで、悪い」と話すのはレイビッグジャパン・峯夕子代表だ。ジビエの良さを知ってもらいたいと、薩摩川内市で飲食店を経営する傍ら、処理加工の会社を立ち上げた。

特徴は、猟師が捕ったシカやイノシシを直接引き取りに行くこと。

峯代表は「血抜きや鮮度がまばらになり、ひどいところでは3割ぐらいの鳥獣しか肉にできない」と現状を話す。「なるべく多くの鳥獣を活用したい」との思いからジビエ処理のプロが自ら現場に行き、冷凍車などを駆使して鮮度を保ち、より良質なジビエに加工している。

レイビッグジャパンでは、この手法で年間約1,000頭の野生動物を処理。質を高めたジビエは東京の高級店などにも卸されていて「鹿児島のジビエはすごくポテンシャルも高く、おいしいと言われる。今まで鹿児島にジビエがあるのを知らなかったというシェフも多い」と、峯代表は手応えを感じている。

この会社で処理された食材を味わえる店を取材した。鹿児島市の繁華街・天文館の一角にあるイタリア料理店「イルチプレッソ」。こちらでは定期的にジビエ料理を取り入れたメニューを提供している。

オーナーシェフの古畑圭一朗さんは13年ほどイタリアにいた。「冬場、現地の郷土料理として提供されたイノシシのミートソースを通して、ジビエ料理に慣れ親しんでいた」という。

レイビッグジャパンから仕入れたイノシシの肉をミンチ状にしてできたのがイノシシラグーのラザニア。※ラグーとはミートソースのこと

店でジビエのメニューを提供する理由についてオーナーシェフの古畑さんは「処理するだけでなく、それを食べて、自分たちが生きていく糧にできるという循環型のシステム」と話す。

イタリアではスーパーに行くと、牛肉や豚肉と同じようにイノシシやシカの肉が並んでいるほどポピュラーな食材だという。「食べる人がどんどん多くなり、ジビエがスーパーに並ぶ存在になればいいな」と、ジビエの将来性に期待している。

薩摩半島南西部・南さつま市坊津町にはジビエを地域の魅力として発信する、処理加工施設「めんどり」がある。地元の猟友会にも所属する草野敏さんが立ち上げ、食肉処理したイノシシをふるさと納税の返礼品にした。

これまではイノシシを捕獲しても破棄することが多かったことから「これを地域活性化のためになんとかならないか」と感じていた草野さん。

焼き肉や鍋用としてイノシシ肉のロースやモモ、ウインナーなど、ふるさと納税用だけでも年間200万円ほどの売り上げとなっている。

草野さんは「南さつま市のイノシシをおいしいと言ってくれるから、全国の皆さんに食べてもらいたいと思って。できる限り頑張っていきたいと思う」と笑顔で語った。

より多くのジビエを…利用拡大目指す

2024年1月18日、日置市でジビエの利活用に関する研修会が開催された。市町村や猟友会の関係者が参加し、座学やジビエメニューの試食会が行われた。

「味がいいね、さすがです」「おいしい」と話す参加者。研修会はレイビッグジャパンの施設も会場になり、ジビエ処理の実演も行われた。

今、全国には約700カ所、鹿児島県内には10カ所のジビエ処理加工施設があるが、レイビッグジャパン・峯代表は全てが順風満帆とは言えないと話す。

レイビッグジャパン・峯夕子代表:
(処理加工施設の)90%くらいは経営がうまくいっていない状態。猟期だけ処理加工施設を動かすとか、これだけで生きていくことは難しいのかなと。

峯代表は、経営していた飲食店をたたみ、2024年からはジビエ一本で勝負することを決断した。

「消費を増やしていかないとなかなか難しい。おいしいお肉にして、それを食べてもらい、ジビエのイメージをもっとよくできたらと思う。(ジビエは)鹿児島が誇れるものだと思うのでもっと広めたい」と決意を語った。

より多くのジビエを、よりおいしい状態で消費者へ届けたい。それぞれが利用拡大を目指し、工夫を続けている。

(鹿児島テレビ)

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