夏の甲子園・大会初日に登場した宮城代表・仙台育英。強豪・浦和学院と壮絶な乱打戦を制し、2回戦にコマを進めた。須江監督は甲子園に発つ直前、「連覇の権利を持っているのは僕たちだけ」と取材陣に語っていた。再び東北の地に歓喜を。連覇を成し遂げるため、指揮官はある新しい試みで、チームの結束力を高めようとしていた。
この記事の画像(13枚)いつでも開いている「ベンチ入りへの扉」
仙台育英が2年連続30回目の甲子園出場を決めた翌7月24日。まだ興奮冷めやらぬ中、野球部のグラウンドには汗を流す選手たちと、それを見守る須江監督の姿があった。行われていたのは、甲子園のベンチ入りメンバーを決めるサバイバル、紅白戦。3年生にとってはまさにラストチャンスだ。
指揮官が注視していたのは「打撃」。「ここ一番で一打出せる選手は誰なのか見極めたい」と目を光らせていた。
チームは、この夏の県大会5試合51得点と圧倒的な成績を残した一方、代打として起用された4人のうち、安打を放ったのは1人だけだった。
「150キロ投手」を複数揃えるだけでなく、全国を勝ち上がるためには、継投策がカギを握ると指揮官は考えていた。そのうえで、特に投手交代のタイミングで起用する「代打枠」を最重要視していたのだ。
3年生の夏「ラストチャンス」
一部のレギュラー選手も出場した紅白戦。ここで名乗りを上げたのが、紅白戦2試合目で3安打2打点と気を吐いた寺田賢生選手(3年)だ。
今春のセンバツでは、レギュラーとして全試合で3番打者を務めた寺田選手。しかし、結果は11打数無安打。その後も思うような成績を残せず、県大会でメンバー外となっていた。試合後、寺田選手は「勝負するならここしかなかった」と振り返った。
そして迎えた、7月26日。全73人の選手たちが集結したミーティングで甲子園メンバーが発表された。
冒頭、「6試合勝ち抜けるメンバーでいきたいということで選んだ」と選手たちの目を見ながら話した須江監督。連覇を目指す戦いであることを改めて強調した。
次々と名前を呼ばれる中、紅白戦で猛アピールした寺田選手の名前が呼ばれた。背番号は15番。ラストチャンスをものにした寺田選手は「背番号をもらえる喜びは、自分が一番わかっている。自分のできることをやっていきたい」と喜びをかみしめた。
「部活を完結させて」全員野球の集大成へ
3年生でベンチを外れたのは15人。メンバー発表後、その全員に対し、バッティングピッチャー、マネージャーといった、メンバーをサポートする役割を与えていく須江監督。
一人一人の名前を呼びながら、それぞれがすべきことを明確に伝えていく。現役時代、メンバー入りすることができず、学生コーチになった経験を持つ指揮官だからこそ“裏方”への気遣いを忘れることはない。チーム全体の結束力が強いチームの条件なのだ。そして、最後に須江監督はこう語った。
「甲子園には、登録された2年生と3年生全員で行く。これは初めての試みです。3年生を仙台に残さない。全員で勝つぞと強く思っている。ベンチを外れても、最前線で最後までやってもらう。大学で野球を続ける、続けないかは関係ない。部活動を完結させてください」
(仙台育英野球部 須江監督)
指揮官が選手全員に語った強い決意。チームの結束力は確実に高まっていた。
夏連覇へ…指揮官と選手の固い絆
そして、真夏の強い日差しの中で行われた仙台育英の初戦。相手は強豪の埼玉代表・浦和学院。須江監督が仙台育英野球部を指揮して初めて夏の甲子園に出場した2018年、1回戦で対戦し、0-9で完敗した、因縁の相手だ。
そんな、史上7校目の連覇の行方を占うと言ってもいいこの試合で、須江監督の代打起用が見事にはまった。6回には、代打で登場した伊藤達也選手(3年)がスクイズを成功。
8回には、紅白戦でラストチャンスを勝ち取った寺田選手が代打で登場。
見事レフト前ヒットで出塁した寺田選手。一挙4点を奪う火付け役となった。
指揮官が重視した「代打枠」の3年生の躍動もあって、勝利をつかんだ仙台育英。次戦は12日、去年決勝進出をかけて戦った、同じ東北・福島代表の聖光学院と対戦する。
レギュラー、控え選手、ベンチ外となった部員も、連覇に向け見据える方向は一つ。
固い絆で結ばれた指揮官と選手たちの「濃密」な時間はまだ終わらない。
(仙台放送)