アメリカ大統領選に向けた民主・共和両党による予備選挙の最大の山場「スーパーチューズデー」は、それぞれバイデン氏・トランプ氏の圧勝で終わった。「BSフジLIVEプライムニュース」ではアメリカ人の識者3氏を迎え、両候補の弱点、共和党支持者がトランプ前大統領に熱狂する背景、トランプ氏が当選した場合の日本の備えについて議論した。

“トランプで行かざるを得ない”共和党のジレンマ

新美有加キャスター:
3月5日の「スーパーチューズデー」は、2024年11月の大統領選に出馬する民主党・共和党の候補者を決める州ごとの予備選が集中する天王山。民主党はバイデン大統領が15勝1敗、共和党はトランプ前大統領が14勝1敗で指名獲得への流れを決定づけ、再対決の見通しに。トランプ前大統領が圧勝した理由は。

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ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士:
トランプの支持基盤が共和党の40%ほどを占める。民主党が裁判によって彼を選挙妨害しており、トランプ支持者からすれば、これはいじめで断固支持すると決意する。2020年の選挙はトランプが勝つべきだったと考える支持者は多い。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
予備選と本選の性質が違うことを認識すべき。予備選は投票率が低く、思い入れのある右派のトランプ支持層は投票するが、中道派は投票に行かない傾向。予備選で圧勝したから本戦も勝つとは限らない。

新美有加キャスター:
ヘイリー氏(共和党指名候補を争ったニッキー・ヘイリー元国連大使)が撤退するとの情報。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
共和党の選対幹部によれば、本選ではバイデン対ヘイリーとなれば圧倒的に共和党が強い。トランプで勝てるかどうかは半々。だがトランプが候補者にならない場合、トランプが第三政党から出たり共和党に票を入れるなと支持者に言えば共和党は100%負ける。トランプで行かざるを得ないジレンマがある。

新美有加キャスター:
今回の結果を受けたトランプ前大統領の演説。「バイデンによる移民の犯罪に圧倒されている」「我が国は尊敬されていない。3年前は世界で最も尊敬されている国だった」など。支持者は熱狂的で崇める雰囲気すらあった。

ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長:
事実関係を訂正したい部分が多々あった。例えば、移民による犯罪率の増加を裏付けるデータはない。とにかく感情に訴える演説。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
ある語学の研究者によれば、トランプの言葉を分析すると小学6年生レベル。難しい言葉を使わずわかりやすい。全部妄想でも、巧みに一般国民の不満に対し、いいところを突いている。

ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士:
トランプの言葉は日本語で言う「やまとことば」。演歌のように刺さる。

反町理キャスター:
一方、バイデン大統領はトランプ氏を「不平と欺瞞にかられ、アメリカ国民にではなく自分自身の復讐と報復に集中している」と批判。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
トランプは人々の前に出て語りかけており、バイデンは声明文。これが二人の差。またトランプは、予備選では右派層に刺さる保守的なことを言うが、中絶問題などでは微妙に中道寄りにスタンスをずらしている。演説も感情的になっていない。トランプ陣営の選対本部でかなり優秀な人がマネージしていて、非常にうまい。

トランプの政策への支持と人間性への不支持

新美有加キャスター:
ゲストのお三方にどちらが次期大統領にふさわしいか事前に伺ったところ、ケントさんはトランプ氏、クラフトさんはどちらもふさわしくない、ピーターさんは中立の立場。その上でまず「トランプ前大統領を支持する理由・しない理由」を伺った。ケントさんは「支持する理由は政策、支持しない理由は性格」。

ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士:
政策的にはエネルギー自立を取り戻し、南の国境の問題を解決する。外交問題は、イランや中国に対して強くなるだろう。インフレに関しても、お金の使いすぎについて国会に対し拒否権を発動するかも。

反町理キャスター:
性格は直しようがないか。

ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士:
ちゃんと抑えることができれば。

新美有加キャスター:
クラフトさんは「支持する理由は外交・移民問題・治安、支持しない理由は大統領の資質」。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
トランプ政権時、不法移民の数や凶悪犯罪率はバイデン政権時に比べ圧倒的に低かった。また欧州・NATOとの外交は支持しないが、特に中国への強硬姿勢は支持できる。ただ人間としてどうか。彼は究極のナルシスト。人種差別主義者だと言う人がいるが、違うと思う。彼に服従する人は黒人だろうがアジア人だろうが好き。白人でも刃向かう者は敵。これは病的。

反町理キャスター:
ピーターさんは「支持する理由はアメリカファーストであること、支持しない理由は民主主義の脅威であること」。

ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長:
例えば移民がアメリカを悪用しているとか、外国の政府にアメリカが利用されているとして、アメリカを第一にする姿勢は評価される部分があると思う。支持しない理由は、2021年1月に議会への乱入を誘発して正当な選挙結果を尊重せず、負けたのにもう一度大統領になろうとした。検察官が犯罪ではないかと判断し起訴した。トランプが再選されれば民主主義の脅威だとバイデン大統領も主張している。

バイデンの実績への支持と高齢であることのリスク

新美有加キャスター:
バイデン大統領について。ピーターさん、「支持する理由は経済での実績、しない理由は高齢・インフレ」。

ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長:
今はアメリカの景気がかなりいい。株価は日本同様に高値を更新しており、成長率の推移は順調。インフレも収まってきているが、9%ほどにまで上がった2年前の強い記憶が残っている。高齢が最大の弱点だろう。

新美有加キャスター:
大統領選に出馬するのに高齢すぎるかという世論調査。81歳のバイデン大統領に対してそう思うと答えた方が73%、77歳のトランプ大統領に対しては52%。

ピーター・ランダース ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長:
スーパーボウルというアメリカ人のほとんどが見るアメリカンフットボールの試合があったが、放送局からのインタビューの提案をバイデン大統領は受けなかった。高齢で失言の恐れがあり応じられなかった疑いがある。プロンプターも間違えて読む。

新美有加キャスター:
クラフトさん、「支持する理由は大統領の資質、しない理由は健康問題・外交」。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
失言はするが嘘つきでもなく人を脅したりしない、いわゆるエスタブリッシュメントな政治家。ただエネルギーがないのが最大の健康問題。ウクライナのための予算で議会が分断されたときに率先して議員たちを説得してまとめるとか、積極的に海外に出て同盟国を増やしロシアを追い込むといったエネルギーがない。

反町理キャスター:
ケントさんは、バイデン大統領を支持する理由は「なし」。

ケント・ギルバート 米カリフォルニア州弁護士:
何もない。経済が良くなっていると言うが、クレジットカードの借金がものすごく増えている。株価が上がったからといって一般の人たちには関係ない。

外務省のエースを大使に据え“もしトラ”に備える日本

新美有加キャスター:
もしトランプ前大統領がまた大統領になったらという想定で、日本はどれだけ備えられているか。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
水面下でかなり動いている。外務審議官だった山田重夫氏がいきなり駐米大使になった。岸田総理のウクライナ訪問を手がけるなど外務省のエースと言ってよい人物。また麻生太郎元総理が1月に訪米し、トランプの義理の息子のクシュナーに接触した。自民党の幹部もトランプに関するヒアリングなどを行っている。

反町理キャスター:
バイデン大統領が勝った場合、日本は二股かけてたよね、とはならないか。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
例えば岸田総理がいきなりトランプに会うようならまずいが、政権が表立って動いているわけではなく、政治家ならばそんな動きは当たり前。アメリカが怒る理由はない。

反町理キャスター:
麻生さんは岸田さんの意を受けて動いているか。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
共和党側からアプローチがあったと聞く。岸田さんより麻生さんが保守だと見られており、安倍政権でも副総理だったことでアプローチしやすいこともあった。覚えていればの話だが、トランプの麻生さんへの評価は決してネガティブではない。

反町理キャスター:
安倍晋三総理とトランプ大統領の関係は非常に良かった。アジア情勢をはじめ外交について安倍総理がレクチャーする関係にあった。岸田総理とトランプの関係は。

ジョセフ・クラフト ロールシャッハ・アドバイザリー株式会社代表取締役:
岸田さんに不利なのは今、バイデン・岸田関係が非常に良いこと。トランプは「俺の仲間になれるかなれないか」。岸田総理は一定程度の偏見を克服する必要がある。トランプに対する巧みな接し方を、岸田総理や次の総理がうまくやれるか。
(「BSフジLIVEプライムニュース」3月6日放送)