おととし10月、横浜市内で交通事故に遭い81歳で亡くなった仲本工事さんの妻で歌手の三代純歌さんが、出版社3社に損害賠償を求めて起こした裁判。

そのうち「週刊女性」を出版する「主婦と生活社」に対する裁判の第1回口頭弁論が23日東京地裁で開かれ、三代さん自身が出廷した。

「週刊女性」は仲本さんの事故後、加藤茶さんが三代さんに「お前のせいだ」「とんでもない女だ」と言い放ったなどとする記事を掲載したが、三代さん側は内容は虚偽だとして、主婦と生活社に1650万円の賠償を求めている。

裁判の争点や立証のポイントなどについて弁護士法人・響の古藤由佳弁護士に聞いた。

加藤茶氏の発言は虚偽か真実か

ーー争点となるのはどのような点?

今回の民事訴訟で争点になる点は大きく2つ考えられます。

1つ目は、「真実性の証明」、あるいは真実でなかったとしても週刊誌側がそれを真実と信じるにつき相当な理由があったのかどうかという点です。

2つ目は、「損害が発生しているかどうか」。
週刊誌側は、両論併記により損害の回復は認められると主張していますが、三代さん側の主張も記事に載せていることで損害が回復されているかという点です。

弁護士法人・響の古藤由佳弁護士
弁護士法人・響の古藤由佳弁護士
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ーー加藤茶さんが証人として呼ばれる可能性は?

加藤茶さんが三代さんを怒鳴った事実があったのかというところが争点になりますが、加藤さんが出廷して証言することは現実的には低いと思っています。

理由は、週刊誌側が加藤さんの証言によって事実であると証明できなかったとしても、「事実であると信じるにつき相当な理由」が認められた場合は、三代さんに対する名誉棄損が認められないためです。

おととし11月発売「週刊女性」の記事
おととし11月発売「週刊女性」の記事

そのため、加藤さんを呼ぶよりも、週刊誌側がしっかりと取材を尽くしたこと、また、真実であると認めるにつき相当な理由があるとの主張・立証が主になってきます。

その意味で、加藤さんが法廷に呼ばれる可能性は現実的には低いと思います。

主婦と生活社は「真実の相当性」立証へ

第1回口頭弁論後、三代さんは記者団に対し、「仲本さんのために戦いたい」と話したが、主婦と生活社側は、「原告が訴状で引用する記述は真実である」として、請求の棄却を求め、争う姿勢を示している。

取材に応じる三代純歌さん
取材に応じる三代純歌さん

ーーもし加藤さんが出廷して「怒鳴りました」と証言したら?

加藤さんが証言をしてくれるのであれば、それは重大な、ある意味決定的な証拠になるので、週刊誌の記事は「事実」と認められ、三代さんに対する名誉棄損は成立しない可能性があります。

ただ一般的には、加藤さんでなくても、訴訟に巻き込まれたくないと思う人がほとんどで、しかも自分の発言の有無によって訴訟の正否が決まってしまう場面で出廷したがる人はいません。

そういう意味で、加藤さんが出てきて「怒鳴りました」、「怒鳴っていません」ということをおっしゃる可能性は低いと思っています。

(イメージ)
(イメージ)

しかも、「真実性の証明」がされなかったとしても、真実であると認めるにつき相当であったという「真実の相当性」が満たされれば、結局、名誉毀損は成立しないわけです。

よって、週刊誌側は、「我々はしっかりと取材をして、真実だと認めるにつき相当な理由があってこの記事を出しました」ということを主張・立証するのが、通常の進め方になります。

「週刊女性」を出版する主婦と生活社
「週刊女性」を出版する主婦と生活社

ーー「真実の相当性」を満たすためには、その場にいた人の証言を集める?

そうです。例えばその場にいた人の証言や、会話を録音したもの。

または、LINEなどを通じて、「加藤さんもよくあんなに大きな声出したよね。びっくりしたよね」みたいな、その場にいた人のやり取りが残っていたとすると、加藤さんが大声で何かを言ったことを示す証拠になります。

捜査機関による新たな証拠に望み

三代さんは今後、「偽計業務妨害罪」で刑事告訴も行う方針だというが、それには狙いがあると古藤弁護士は話す。
 

ーー刑事告訴も合わせて行う意味合いは?

刑事告訴をして受理されれば捜査機関が動くことになるので、新たな証拠が見つかる可能性が大きくなります。

三代さんは週刊誌に比べると、自ら証拠収集をするのが難しい立場だと思うので、何らかの自分に有利な証拠が出てくればという一縷の望みにかけているのかなと思います。

ーー今後の展開は?

まだお互いが言いたいことを言い合っている段階ですが、これからおそらく週刊誌がどれだけ取材の手を尽くしたか、どれだけ情報源が確かなものなのかを主張・立証していく場面が出てくると思います。

その詳細さや、出てくる証拠によってどちらに有利になるのかというのが見えてくるのではないかと思います。