強い陽射しの下で活動すると疲労を感じることがある。てっきり暑さにやられたのだと思っていたら、実はこれ、紫外線が大いに関係しているのだという。
「紫外線疲労」。聞きなれない言葉だ。5月から増えるという紫外線だが、どのような対策をとれば良いのだろうか。
「紫外線疲労は、肌より、目から浴びる影響が大きくて危険なのです」 こう話すのは、伊藤医院副院長で眼科医の有田玲子医師。対策などについて聞いた。
■目から入った紫外線は「W疲労」の原因に
この記事の画像(3枚)有田玲子医師:紫外線を浴びると、細胞内に大量の活性酸素が発生します。過剰な活性酸素は細胞をさびつかせ、細胞の機能を一時的に低下させる、これが疲労の正体です。
肌(皮膚)が紫外線を浴びると「筋肉疲労」を起こします。それに対し、目から入った紫外線は、「自律神経」と「筋肉」の両方に影響を与えるので、精神的な疲労と肉体疲労の「W疲労」を起こしてしまうのです。
■目は脳の一部 脳が直接紫外線を浴びていることに
有田玲子医師:目の奥にある網膜は、脳の一部です。ですから、目から紫外線を浴びると、眼球を通過して脳に直接、紫外線が入るのと同じことになります。脳は自律神経の中枢ですから、紫外線によって自律神経が炎症を起こすと全身の疲労を感じます。さらに、目から入った紫外線で発生した活性酸素が筋肉の細胞を攻撃し、筋肉の疲労も感じるのです。さらに、目から入った紫外線によって肌のメラニン色素が刺激され、肌の日焼けも促進されることが動物実験で明らかになっています 。
■サングラスは黒より透明を
有田玲子医師:皮膚から吸収する紫外線量は多いのですが、洋服を着たり日焼け止めを塗ったりと、防御はできます。しかし目に日焼け止めを塗るわけにはいきません。丸裸と同じ状態なのです。ではどうすればよいのか。やはり対策としては、眼鏡をかけるのがベストです。
ここで注意して欲しいのが、「色の濃いサングラスより、透明なUVカットされているものが良い」ということです。 人間は、まぶしいと目を細めたり閉じたりします。こういった、自然に行う反射的な行動は、実は凄く重要なものなのです。この動きで瞳孔がギュっと締まり、目の奥の方に入っていく光の量を少なくできるのです。
ですからサングラスも、まぶしさが感じられる、透明や色の薄いものが良いです。しっかりUVカット加工がされているものを選んでください。
■一番の薬は「自分の涙」
有田玲子医師:『今日は予想外に陽射しを浴びてしまったな…』という時は、できるだけ早く目を冷やしてください。冷たいタオルでひたすら冷やす。日焼けと同じですから、冷やすことが大事です。
その後、目をギュっとしたり、瞬きをしたりして、涙を出してください。涙には、免疫をあげる成分や炎症をおさえる成分、ビタミンやミネラルも入っている。実は、涙ってものすごい薬なんです。 しかし、目から紫外線を浴びることは、この大切な涙にも悪い影響を与えてしまいます。
■「白内障」も紫外線で発症・進行する
有田玲子医師:目から紫外線を浴びることは、様々な病気につながります。目が炎症を起こすことで涙が蒸発しやすくなって「ドライアイ」になったり、スキー場や海水浴場で強い紫外線を浴びて角膜が傷つく「電気性眼炎」などもよくあるケースです。これらは治療をすればある程度回復するのですが、そうはいかないものもあります。
50代以上の多くの人がかかる「白内障」も、紫外線によって発症・進行します。紫外線により水晶体がダメージを受けると、もう元には戻らないのです。外で働く職業やスポーツ選手などは、早くに白内障を発症するというデータもあり、白内障が紫外線の影響を大きく受けることが分かっています。
日本人の失明原因1位の「加齢黄斑変性症」の原因の一つも紫外線です。この病気は明確に原因と治療法が確立していません。こういう場合は、リスクファクター(危険因子)を減らしていくしかないのですが、紫外線は、加齢黄斑変性症のリスクファクターであることが分かっています。根本的な治療がない疾患は、ならないようにするしかないのです。
■一年を通して「目の紫外線ケア」を
有田玲子医師:日本では、まだまだサングラスやUVカット眼鏡をかける習慣が一般的ではありませんが、将来、大きな病気につながらないようにするためにも、一年を通して「目の紫外線ケア」を、しっかりしていって頂ければと思います。紫外線は目には見えないので、油断してしまいがちですが、毎日、少しずつでも気を付けることが健康維持につながります。早速、今日から実践してみましょう!
(関西テレビ 2024年5月3日)