熊本県南部を流れる球磨川の支流、川辺川に建設が計画されている流水型ダムについて、貯水時に一部が水没する五木村は4月21日に村民集会を開き、木下丈二村長がダム建設を受け入れる意向を表明した。
集会に参加した村民からはダム建設への賛否や村の振興策について意見が挙がった。

環境と振興「ダム前提としたむらづくり」

五木村の五木東小学校で開かれた村民集会には村民など143人が参加した。

流水型ダムの容認を表明した木下村長
流水型ダムの容認を表明した木下村長
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五木村の木下丈二村長は、川辺川に建設が計画されている流水型ダムが環境に極限まで配慮されたものであることや、村の振興策についても国や県から最大限の回答があったことなどを踏まえ、「流水型ダムを前提としたむらづくりに向けて、新たなスタートラインに立つべきであると判断した」と述べ、村長として流水型ダムの建設を受け入れる意向を表明した。

50年以上ダムに翻弄された五木村

川辺川へのダム建設をめぐっては、頻発していた球磨川の水害を受けて、1966年に当時の建設省が計画を発表したが、村の中心部が水没する五木村は反対を表明。

ダムに反対する熊本・五木村(1970年)
ダムに反対する熊本・五木村(1970年)

その後、賛成と反対で村を二分する状況が続いたが、国と地権者との和解が進み、村は1996年に本体工事着工の協定を結ぶ。

ダムに合意した五木村(1996年)
ダムに合意した五木村(1996年)

しかし、社会情勢の変化や反対運動などによって着工には至らず、計画発表から42年後の2008年、蒲島前熊本県知事が「白紙撤回」を表明。

ダムを白紙撤回した蒲島前知事(2008年)
ダムを白紙撤回した蒲島前知事(2008年)

その後、2020年7月の豪雨で球磨川などが氾濫し甚大な被害が出たことを受け、蒲島前熊本県知事が再び方針を転換し、流水型ダムの建設を容認した。

2020年7月豪雨で氾濫した球磨川
2020年7月豪雨で氾濫した球磨川

貯水時に一部が水没すると想定されている五木村は、木下村長がダム建設を容認したことで着工に向け前進した形となる。

ダムの賛否を問う村民投票は行わない

4月21日の集会では、「これから村の振興策をする上で流水型ダムの有無では雲泥の差。私は村長の意見と同じ」や「ダムを前提としなくても振興策は進めていいのでは」など、ダム建設への賛否や村の振興策について意見が挙がった。

村民投票は行わない考えの木下村長
村民投票は行わない考えの木下村長

一方で木下村長はダム賛否を問う村民投票は行わない考えを示した。

集会に参加した前の村長・和田拓也さんは「全体的には村民の考えと一致していると思っている。水没地域も含めてダム事業も絡ませながら振興計画が具体化できるのでスピードが上がる状況になった」と、現村長の決断を前向きにとらえた。

木村知事「村民と向き合い振興実現へ」

集会では振興計画の課題となっている平地の確保について、国が盛り土などを行い最大20ヘクタールの整備を検討していることを発表。整備することが決まれば、宅地や企業の誘致先、貯水時に水没する施設の移転先などに活用される見込みだ。

五木村への思いを述べる木村熊本県知事
五木村への思いを述べる木村熊本県知事

また、流水型ダムを含めた「緑の流域治水」を進める考えの木村熊本県知事は、22日朝に木下村長と電話で会談したことを明らかにし、「清流を守るダムがどうあるべきかサポートし住民に説明していくと(木下村長に)約束した。県として村民と向き合いよりよく具体的に振興計画を実現したい」と述べた。

国は、2027年度に本体工事に着手し、2035年度の完成を目指している。

(テレビ熊本)

テレビ熊本
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