2020年7月の豪雨で被災し、一部区間で運休が続いているJR九州の肥薩線について、熊本県とJR九州は4月3日に、鉄道での復旧で基本合意した。
基本合意の前には、熊本県とJR九州のトップ同士が会談し課題整理が行われていた。

2020年7月豪雨で被災した肥薩線

JR肥薩線は、2020年7月豪雨で橋や線路が流されるなど甚大な被害を受け、今なお、八代ー吉松間が運休している。

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国と熊本県、JR九州の3者は、2022年3月から復旧に向けた検討会議を開催。これまでの議論で、“JR九州過去最大”といわれる約235億円の復旧費と、復旧後の持続可能性が課題となっていた。

2023年12月に熊本県が復旧費の約9割を国と県が負担し、『観光』を柱とした復興方針案を提示。2024年2月にJR九州が「『観光』だけではなく『日常利用』の2本柱で考える必要がある」と意見を述べていた。

JR九州「方向性について合意」

田嶋徹熊本県副知事:
JR九州には、我々の肥薩線にかける強い思い、そして、将来に向けた持続可能性のある鉄道の私たちの提案をしっかりと受け止め決断してほしい

4月3日の会議は非公開で行われ、熊本県は、県や地元の12市町村の職員の移動で肥薩線を優先的に使うことや、駅周辺のバスやタクシーなどの2次交通の拡充など日常利用案を示したという。

JR九州・松下琢磨総合企画本部長
日常利用について熊本県や地域の皆さまの考えを示していただいた。私どもとしてはこれに納得し、肥薩線を鉄道で復旧させることについてその方向性について合意させていただいた

JR九州によると、3月中旬に古宮洋二社長が熊本県庁を訪れ、蒲島知事とトップ同士の対談を行い、肥薩線の鉄道復旧への課題を整理。4月3日に熊本県からの日常利用案を受け、八代ー人吉間の鉄道での復旧で基本合意した。

今後、復興方針案にある観光対策や日常利用策について、熊本県とJR九州で具体化して2024年度中の最終合意を目指している。

蒲島知事「県民との約束を果たせて安ど」

この決定を受けて、人吉市の松岡隼人市長は「沿線自治体と共に鉄路での復旧をお願いしてきたが、今回、大きく一歩前進したことは喜ばしいこと。復興は、災害で途切れたものを紡ぎ直すこと。基本合意はまさに復興への一歩につながる」と話した。

また、地元の人吉市民も「また電車が見られるので通ってくれるとうれしいが、その後、市民が利用するかにかかっていると思う」や「せっかく立て直してもらっても利用しないなら市民に負担がくるので、何かのときには利用するように心がけると役立つと思う」と、課題となった復旧後の持続可能性に注目していた。

一方で、これまで任期中に肥薩線復旧の道筋を付けたい考えを示していた蒲島知事は、4月15日の任期終了前にJR九州と基本合意に至ったことについて、「どうにか、球磨川流域の皆さまをはじめ、県民との約束を果たすことができてとても安堵(あんど)している」と話した。

課題の復旧費と持続可能性は?

鉄道での復旧が合意に至ったJR肥薩線については、2020年の豪雨で被災したJR肥薩線は、八代駅(熊本)から吉松駅(鹿児島)の間の約87kmで、今なお運休が続いている。

課題の一つとなっていた復旧費については、線路などのインフラを自治体が管理する上下分離方式を導入することが決まり、総額約235億円のうち9割を国と熊本県が負担。JR九州は1割にあたる25億3000万円の負担となる。

合意の裏には復旧費の問題に加え、もう一つ、復旧後の持続可能性が課題として残されていた。

このため熊本県は『観光』を柱とした復興方針案を提案したが、これについてJR九州は『日常利用』も考えてほしいとし、鉄道での復旧についての最終的なカギは『観光』と『日常利用』の両立となった。

基本合意の裏にトップ同士の会談

これをめぐって、3月にJR九州の古宮社長と蒲島知事の会談が行われ、その場で、蒲島知事が『日常利用』について固い決意を示したということだ。

その取り組みでは、県庁職員が「出張はまず肥薩線」として積極的に利用することや、住民などへの喚起策として「グループでの利用運賃に対する助成」など複数の具体策を出している。

JR九州はこれらの具体策を踏まえて、「観光と日常利用、その施策を県が示したことで合意へ向け一定のめどが立った」と語った。

(テレビ熊本)

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