米大統領選挙は候補者選びの山場「スーパーチューズデー」を終えて、共和党はドナルド・トランプ前大統領、民主党はジョー・バイデン大統領の対決の構えが定まったようだが、11月の本選では、いずれも当選に必要な選挙人の過半数を取れないという異常事態になるかもしれないと、米マスコミが身構え始めた。

当選には「選挙人270人以上」の獲得が必要

米国の大統領選挙は、各州に人口に比して割り当てられた選挙人の過半数を獲得したものが当選者とされると合衆国憲法で定めている。

選挙人の総数は全米50州と首都ワシントンDCで538人なので、その過半数の270人を得る必要がある。米国の大統領選挙は、伝統的に共和、民主二大政党の候補者の対決なので、勝者は選挙人を270人以上獲得するのが常だった。

1968年大統領選に出馬したジョージ・ウォレス氏。アラバマ州知事を4度務めた。
1968年大統領選に出馬したジョージ・ウォレス氏。アラバマ州知事を4度務めた。
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例外的に1968年の大統領選で、第3党のアメリカ独立党のジョージ・ウォレス候補が南部5州を制して46人の選挙人を獲得したことがあった。しかし、この時民主党は、最有力とされたロバート・ケネディ氏が遊説中に暗殺されて、混乱のなか出馬したヒューバート・ハンフリー候補が力不足で、選挙人を191人しか獲得できなかったのに対して、共和党のリチャード・ニクソン候補が301票を獲得して当選したので、「過半数割れ」の問題にはならなかった。

しかし、今年はその可能性が考えられる状況になっているらしい。

「過半数割れ」の場合、下院で「やり直し選挙」へ

「もし、どの候補者も選挙人270人を獲得できないとどうなるか?」

米国の政治専門ニュースサイト「ザ・ヒル」は2日、このような表題の記事を掲載した。

「アメリカ人の70%が、主要な大統領候補は行き詰まっているので支持できないと世論調査に回答している。民主党有権者の相当数と共和党有権者の過半数が、バイデン大統領の年齢と認知能力に問題があるとして出馬を望んでいない。一方、共和党の有権者の相当数と民主党の有権者の過半数は、トランプ前大統領には法的問題があるとして出馬を望んでいない」

ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏
ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏

そうした中で「ザ・ヒル」が注目するのが、無所属で出馬したロバート・F・ケネディ・ジュニア候補の存在だ。   

「2020年の選挙では、バイデンは306人で、トランプの232人を上回り勝者となった。2024年、バイデンとトランプの争いはさらに接戦になると多くの人が予想している。もしそうなったとして、ケネディが選挙人を確実に獲得できたとしたら?」

ケネディ候補が270人をとるのは無理だとしても、1968年のウォレス候補のように46人獲得すれば、トランプ前大統領やバイデン大統領が270人を目指すのは極めて難しくなる。

トランプ氏、バイデン氏、いずれも選挙人の過半数を取れないという異常事態に?
トランプ氏、バイデン氏、いずれも選挙人の過半数を取れないという異常事態に?

そうなった場合、合衆国憲法第2章第1条第3項は次のように規定している。

「(獲得した代議員が)過半数に達した者がいないときは、得票者一覧表の中の上位得票者5名の中から、同一の方法で下院が大統領を選出する。但し、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は1票を投じるものとする。この目的のための 定足数は、全州の3分の2の州から1名または2名以上の議員が出席することを要し、大統領は全州の過半数をもって選出されるものとする」 (アメリカン・センター訳)

つまり、下院で「やり直し選挙」が行われ、各州(ワシントンDCは州ではないので含まれない)1票で投票が行われ、過半数を得たものが大統領に当選するということになる。 

「Buckle up(シートベルトをしっかり締めろ)」

「ザ・ヒル」の記事はこの一言で終わっている。今年の大統領選は「大揺れに揺れるかもしれない」という警告のようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。