獣医師免許がないのに犬に麻酔をせず帝王切開したなどとして動物愛護法の殺傷や虐待の罪などに問われた元販売業者の裁判が1月15日、長野県松本市の地裁松本支部で開かれ、検察側は懲役1年、罰金10万円を求刑した。刑事告発した動物愛護団体の杉本彩理事長は求刑に「正直がっかり、納得いかない」などと述べた。

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検察側「極めて残虐で悪質な行為」 

起訴状によると、安曇野市の会社役員・百瀬耕二被告(62)は獣医師の資格を持たないのに2021年8月、松本市の自宅(当時)でフレンチブルドッグ4匹とパグ1匹を麻酔せずに帝王切開し、みだりに傷つけたなどとされている。

百瀬耕二被告
百瀬耕二被告
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1月15日の論告で検察側は「被告は2つの犬舎で多頭飼育に陥り、犬の管理も行き届かず、飼育ケージはふん尿で溢れかえって劣悪な飼育環境にあった。被告は会社の売上を維持するために犯行に及んでおり極めて悪質な行為と言える」「保健所の立ち入り調査に対して、従業員に犬舎内を清掃するように指示して状況を見繕うなどしていた」などと指摘した。

施設への家宅捜索(長野・松本市・2021年9月)
施設への家宅捜索(長野・松本市・2021年9月)

また帝王切開についてはー。

(検察側)
「被告は2021年6月の動物愛護法改正で帝王切開は獣医師が行うよう記載されたことを認識しながら、以前、知り合いの獣医師の手術を見て覚えたという不十分な技量で妊娠した犬の四肢をケージに強くしばりつけ、常習的に無麻酔で帝王切開を行っていた」「妊娠犬に極めて強い苦痛やストレスを与えることは明らかで、極めて残虐で悪質な行為と言える」

施設で飼育していた犬 
施設で飼育していた犬 

そして、「被告の刑事責任は重大でブリーダー業を廃業し、一定の社会的制裁を受けたとは言え、大規模な動物虐待事案であることや行為の悪質性、常習性から厳正に処罰すべき」として、懲役1年・罰金10万円を求刑した。

施設で飼育していた犬 
施設で飼育していた犬 

被告側「鎮痛剤を使った」

被告は検察官の論告を静かに見守っていた。

これに対し弁護側は、動物愛護法の「虐待の罪」と狂犬病の予防接種を受けさせなかった罪は認めた上で、動物愛護法の「殺傷の罪」については、「帝王切開は犬を助けるために行った正当な行為で、獣医師から教えらえた方法で鎮静・鎮痛効果のあるドミトールを使用しており「みだりに傷つけた」ことにはならないとして無罪を主張した。

家宅捜索時に運び出された犬
家宅捜索時に運び出された犬

そして、「動物を傷つける積極的な意図は持っていなかった」「飼育環境の改善に向け従業員の人員確保など可能な限り努力していた」「被告の妻による支えが期待でき再犯の可能性が皆無である」などとして執行猶予つきの判決を求めた。

犬舎から運び出された犬
犬舎から運び出された犬

被告「いつも犬たちの命を最優先」

最後に証言台に立った被告は、スーツの内ポケットから紙を取り出し「私はいつも犬たちの命を最優先に考え働いてきた。24時間365日、犬たちに向き合い無事に出産させることが私の仕事だった。これまでに犬を見殺しにしたことは一度もない。どうか無事に生まれてきてくれと願っていた。ただ、傷を負った犬を出してしまった、苦しませてしまった犬には謝ることしかできない。本当に申し訳なく思っています」と述べ、頭を下げた。

長野地方裁判所松本支部
長野地方裁判所松本支部

杉本彩さん「納得いかない」

被告を刑事告発し、傍聴を続けている「動物環境・福祉協会Eva」の杉本彩理事長は求刑について次のように述べた。

杉本彩理事長:
「(求刑1年は)やっぱりこの程度かというところで正直がっかりしてます。罰金10万円と懲役1年だけでは私たちだけじゃなく世の中の感覚としてこれが厳正に裁いていただいてるとは到底思えない。ブリーダー業の背景に非人道的な動物虐待が横行している。こういう動物虐待の『罪深い』ことがまだ司法には届いていない。動物虐待がこの社会にあってはならないひどい犯罪であることを社会的にもっと知っていただかなければ。利益をむさぼるために何してもいいのか、利益をむさぼって無免許で無麻酔で帝王切開する、私から言わせれば猟奇的としか思えない。こういった残虐な行為、自分の都合しか考えていない、動物を平気で犠牲にする行為に対して(被告は)言い訳の連続で到底許されない行為。動物愛護法が厳罰化されましたから、最低でも3年は求刑してほしかった。なかなか納得できない」

公判を傍聴した動物環境・福祉協会Eva・杉本彩理事長
公判を傍聴した動物環境・福祉協会Eva・杉本彩理事長

杉本彩理事長:
「ただ、刑事告発することによって事件化したことが唯一よかったなと思えるところではあるが、まだまだ動物虐待が厳正に裁かれる時代が来るにはまだまだやらなければいけないことはたくさんあるなと改めて感じています。一番心配なのは今後、判決がペット業界に与える印象。これだけの事をしても『あ、1年程度なんだ、狂犬病予防法違反で(罰金)10万円程度なんだ』これで終わっちゃったらペット事業者の動物虐待が軽んじられないか、業界が重く受け止めなくなるのではと危惧されます」

判決は5月10日。

(長野放送)

長野放送
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