岩手・北上市にカシミヤニットの工場を構える会社「UTO(ユーティーオー)」。2024年から日本のメーカーで初めてロンドンの高級店で販売されることが決定した。世界一を目指す挑戦を続けている宇土寿和社長を取材した。

ふるさと納税の返礼品に選定

北上市下江釣子に工場を構える会社「UTO岩手工場」には、30代を中心に従業員13人が勤めている。

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ここから生み出されるのは、高級カシミヤ製品。大阪の紡績会社から仕入れる世界最高級のカシミヤ糸を使用し、確かな技術でセーターやストールなどを生産している。

セーターの価格は1枚5万円以上で、北上市のふるさと納税の返礼品に採用されていて、過去10年で毎年2億円ほどの寄付を集める人気となっている。

会社を率いるのは宇土寿和社長(73)。カシミヤ製品の生産に熱い思いで取り組んでいる。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
世界一の原料を使って自分たちで手作りすれば、ちゃんと戦える土俵に上がれる。大谷君じゃないですけど、どうせやるんだったら世界一になりたい。

長崎県出身の宇土さんは、かつては旅行会社の添乗員を務めていて、ファッション業界のツアーに出向くうちにカシミヤの魅力に引き込まれた。

「カシミヤを触ったときに衝撃的な驚きがあった、柔らかくて。それを突き詰めていったら、いつの間にかこうなった」と宇土さんは話す。

旅行会社では、アマチュアの音楽団に海外公演の機会を提供するツアーなど、独創的な企画を次々実現させたという宇土さん。そうした精神が、今の会社にも生かされている。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
人がやらないことをやれば、あまり競争する必要ない。世界でどこもたぶんないだろうという“オーダー”をやるっていう形は、唯一だと思う。結構“へそ曲がり”なところがある

難度が高い職人技「リンキング」

UTOが取り組んでいるのはニットのオーダーメードだ。一人一人の体形や好みに合った、世界に一枚だけのセーターを生産する。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
着丈やえり幅とか全部(顧客に)聞いて1枚1枚作る。(発注書が)1枚あったら1000枚作っても1万枚作っても同じだが、1枚ずつだから、そこがたぶんどこもやらない。やりたくないことだと思う。

UTOのセーターは最初に機械で生地を編む工程以外はすべて手作業だ。特に難度が高いのが、袖や前身ごろなどのパーツを緻密につなぎ合わせる「リンキング」という工程だ。

ユーティーオー・玉澤宏美工場長:
伸び縮みして着心地良いとなると、リンキングをした方がすごく着心地の良いニットになる。一目一目針に刺して、縫いとめる作業をしています。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
一つ一つに入れ間違うと、ほどけてしまう。

このリンキングをできる職人は全国でも少なく、実はUTOでもかつて山梨県に工場があった当時、職人不足などで閉鎖に追い込まれた。

しかし偶然同じ時期に、北上市にあった別のニット工場が閉鎖し、職人が勤め先を探していると聞きつけた宇土さんは、その職人を雇用するため工場を岩手県に移した。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
彼女を求めて山梨から岩手まで来た、“張本人”です。

高校卒業後、この道一筋の舘下愛美さん(37)は「自分の技術を生かせる職を探していた時だったので、リンキングが続けられると思って、うれしい気持ちでした」と当時を振り返った。

集中力やセンスが求められるというリンキング。

ユーティーオー・舘下愛美さん:
真剣に一目一目ずれないように、きれいな商品が作れるよう心がけています。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
東北特有って言ったらおかしいかもしれないけど、ここの職人たちは本当に真面目にきちっとものづくりをしているのは、大きい要素。

北上産ニットがついに世界へ

北上市で丁寧な製品づくりを重ね12年が経過した2023年5月、ついに世界からその品質が認められた。

世界のセレブ御用達、1849年創業のロンドンの高級紳士服店「ハンツマン」での取り扱いが決まったのだ。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
ハンツマンと言えばレーガン元大統領とか、アラブの王さまがお客さまみたいなところ。(ハンツマンが)柔らかいけどすごくしっかりしている。こういうのがあるんだと感動してくれた。ウチにとってうれしいこと。

ハンツマンでの販売が決まった後には、それを聞いたシドニーの高級店「J.H.カトラー」での取り扱いも決まった。

「UTO」の職人たち
「UTO」の職人たち

現在は5人がリンキングをできるようになっているUTO、職人たちの士気も高まっている。

ユーティーオー・舘下愛美さん:
世界に行くんだなと思って、すごく認められたようなうれしい気持ち。

北上産ニットの海外進出。「J.H.カトラー(シドニー)」では2024年春、「ハンツマン(ロンドン)」では2024年秋に販売開始予定だ。

宇土社長は、この一年でさらにその魅力を広めたいと意気込んでいる。

ユーティーオー・宇土寿和社長:
今からがスタート。ウチなりの世界一を求めていく。それを世界で認めていただけるのが一番いい。(世界一が)岩手から出ているというのが一番うれしい感じがしますね。

(岩手めんこいテレビ)

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