全国屈指の畜産県として知られる鹿児島県。しかし現在、鹿児島の畜産業界は課題が山積みとなっている。そのカギを握る新たな施設の運用がスタートし、今回、カメラの潜入取材が初めて許された。

高齢化・農家の減少・医師不足…課題山積

農林水産省がまとめた農業産出額の品目データ。肉用牛、豚、ブロイラーの3部門で、鹿児島県は全国1位だ。

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鹿児島県にとって畜産業はまさに基幹産業だが、畜産農家の減少と、獣医師の不足という二重苦に直面している。

例えば畜産が盛んな鹿児島・曽於市では、2004年には2289戸あった農家が、2023年には3分の1以下の668戸に激減した。農家の平均年齢は67.5歳と、高齢化も進んでいる。

一方で獣医師の数も足りていない。鹿児島大学共同獣医学部の帆保誠二教授は「獣医師の中でも産業動物に行く学生がどんどん減っている」と危機感を示す。産業動物とは、牛や鶏など、食肉の売買といった経済活動を目的に飼育される動物のことで、畜産県・鹿児島にとっては大切な存在だ。

このような現状を変えようと整備されたのが、「南九州畜産獣医学拠点」。英語表記(South Kyushu Livestock Veterinary center)の頭文字をとってSKLV(スクラブ)と呼ばれる。曽於市と鹿児島大学が連携して、旧財部高校跡地にある約4万2000平方メートルの土地に整備され、2024年4月1日から運用がスタートした。将来の畜産業・獣医療を担う人材の育成などを目的にした施設だ。

SKLVの内部に初潜入!

最新鋭の設備がそろうSKLVの内部についてカメラ撮影が許されたのは、今回が初めてだ。取材班は防疫対策のため防護服を着たうえで、SKLVに勤務する今村祐介さんに案内してもらった。

まずは肉用牛を育てる牛舎。中に入って驚いたのは、牛舎特有のにおいをそれほど感じないことだ。今村さんは、「ファンが壁面についていて、牛舎の端から風を流すことによって、においが滞留しないように対策をとっている」と説明してくれた。

この牛舎は「次世代閉鎖型牛舎」と呼ばれ、ファンがついている場所以外は壁に取り囲まれている。牛舎は屋外にあるのが一般的だが、閉鎖型にすることで牛のストレスとなる虫などの付着を防げるほか、温度や湿度を最適な状態に保てるという。

今村さんによると、これまでは牛の病気が発生して食肉への影響が出ていたが、牛が育ちやすい環境を研究し、繁殖、肥育、出荷までの一貫した過程を学生が学ぶことができるようになるという。肉用牛の閉鎖型牛舎が整備されたのは、国内では初めてだ。

次に案内してもらったのは、閉鎖型の研究用鶏舎。天井にずらりと並ぶ45台のカメラを使って、鹿児島大学から遠隔で育成状況を確認でき、研究に役立てられる。今後5000羽の規模でブロイラーを飼育する予定だ。

産業動物の実習の場が少ない学生たちに新たな学びの場を提供するSKLV。希望があれば学生以外の畜産農家にも開放されることになっている。省力化や自動化を駆使した最新の畜産のカタチを見せることで、重労働というイメージを払拭し、若手農家に希望を届ける存在になることも期待されている。

帆保教授は、SKLVの役割は獣医師だけでなく、畜産農家の後継者を育てることにもあるといい、「SKLVは畜産農家の方たちが魅力を感じるようなシステムを提供しているので、ここである程度学んでもらい、それを自分たちの牛舎に応用してもらいたい」と次のステップを期待している。

10年先、20年先も畜産が鹿児島の基幹産業であり続けるために、一人でも多くの学生や若手農家がSKLVで学び、未来を担ってくれることを期待したい。

(鹿児島テレビ)

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