全国でクマの被害が相次いだ2023年。宮城県内でもけが人が出たほか、冬眠時期の12月に入ってもなお、クマの目撃情報が寄せられている。野生のクマがより身近な脅威となる中、被害を防ぐために必要なこととは。

「動物園の人気者」もう一つの顔

仙台市太白区の八木山動物公園のツキノワグマ「アオバ」。
トレードマークは「ツキノワ」グマの名の通り、胸にある白い月の輪の模様だ。

八木山動物公園のツキノワグマ「アオバ」
八木山動物公園のツキノワグマ「アオバ」
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好物のりんごをむしゃむしゃと食べる愛くるしい姿に、園を訪れた子供たちは興味津々。人懐っこい性格のアオバは、動物園の人気者だ。

愛らしい一面もあるクマだが、2023年は野生のクマによる被害が全国各地で続出。宮城県でも11月17日、北西部に位置する色麻町で、70代の男性が自宅車庫で体長1メートルのクマに襲われたばかりだ。

男性は逃げようとしたものの、額や両腕を引っかかれたり、かまれたりして傷を負い、右腕の骨を折る大けがをした。

男性がクマに襲われた色麻町の現場
男性がクマに襲われた色麻町の現場

「わずか5秒で…」顔を10針

2023年、宮城県ではクマによる人的被害が3件確認されている。このうちの1人、大崎市古川に住む諏訪部椋大さん(26)。6月、野鳥観察のために訪れた加美町の山林でクマに襲われ、顔を引っかかれた。

クマに襲われけがをした諏訪部椋太さん(26)
クマに襲われけがをした諏訪部椋太さん(26)

クマの鋭い爪による一撃。諏訪部さんは顔を10針縫うけがをした。当時の写真を見ると、ガーゼに血がにじんでいて傷の大きさが覗える。被害に遭い半年。諏訪部さんの顔には、今もなおうっすらとその跡が残っていた。

当時の諏訪部さん【提供:宮城県警】
当時の諏訪部さん【提供:宮城県警】

当時草が生い茂っていたため、クマが近くにいることに気づかなかったと話す諏訪部さん。7年間山林などで野鳥観察をしてきたが、クマを見たのは始めてだった。

まさか出くわすことはない」そんな油断から対策は何も取っておらず、襲われた瞬間に頭の中が真っ白になったと話す。

諏訪部さんが襲われた山林
諏訪部さんが襲われた山林

「茂みからガサッという音がしてその方向を見たが、茂みの中に何がいるのかわからず、じっとその方向を見ていたらクマが飛び出してきて襲われた。襲われる直前まで、それがクマだということが認識できなかった
(クマに襲われ大けがをした諏訪部椋大さん)

出会ってから襲われるまでの時間は、「体感でわずか5秒ほど」だったと話す諏訪部さん。そんな一瞬で、クマから身を守る措置をとるのは不可能に近いと言える。

目撃急増背景に「ブナの実 大凶作」

宮城県内における2023年度のクマの目撃情報は、12月20日の時点で1280件。平年と比較して多くなっているのは言うまでもなく、2022年度と比べると2倍以上。11月で見てみると目撃情報は330件で、過去5年間の平均5倍以上にのぼり、1カ月の目撃件数としては集計を始めて以来過去最多となっている。

目撃情報が急激に増えた原因の一つと考えられているのが、クマのエサとなる山林にある「ブナ」の実。東北森林管理局の調査によると、今年は「大凶作」になっていて、エサを求めて人里に近づくクマが増えた原因とみられている。

県や市町村は、柿の木などがクマを呼び寄せているとして、収穫を急ぐことなどを求めた。

近づかせず いざという時の備えを

クマの生態に詳しい東北野生動物保護管理センターの宇野壮春代表は、「クマにとって人里は魅力的なえさの資源地」だとしたうえで「クマを近づかせないこと」が重要だと話す。

東北野生動物保護管理センター・宇野壮春代表
東北野生動物保護管理センター・宇野壮春代表

「柿やそのほかの果樹などは、クマにとって魅力的。集落で使っていない木を伐採したりしていくことは大切な作業。また、エサになりうる生ごみなどの管理をすることも大事です。
山を歩くのであれば、クマよけの鈴やクマ撃退用のスプレーを持っていくことが有効的だと思います。センターの同僚が実際クマに襲われそうになって、スプレーを噴射することでクマが逃げていったという事例もあります」
(東北野生動物保護管理センター宇野壮春代表)

野生のクマはすでに冬眠の時期に入っているが、県内ではいまだ連日目撃情報が相次いでいる。これを受け、県は目撃件数の多さなどから、年末まで「クマ出没警報」を出し続ける方針だ。

「クマは、これまでよりも身近な存在」意識を改める時を迎えている。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

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