新型コロナウイルスの影響で、さまざまなイベントや行事が中止となってきたが、2022年は再開するものも増えてきた。その一つが、鹿児島・南九州市知覧町に伝わる「水車からくり人形」だ。
迷いの中で決まった3年ぶりの開催。コロナと経済活動の両立を目指して再開されるイベントが多い中、そこには他とは異なる事情があった。

始まりは江戸時代 舞台下に広がる「からくりの世界」

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南九州市知覧町にある豊玉姫(とよたまひめ)神社。近くを流れる水路には、赤い水車が回っていた。

この水車の動力を利用して動くのが「水車からくり人形」だ。

たくさんのひもや木の棒が複雑に組まれている
たくさんのひもや木の棒が複雑に組まれている

幾重にも仕掛けられたからくりは、水車の回転と連動して舞台上の約20体の人形たちの手足を動かし、命を吹き込んでいく。

舞台の下に広がる空間はまさに、人形を動かす「からくりの世界」だ。

始まりは江戸時代ともいわれる、豊玉姫神社の水車からくり人形。途中、戦争などで途絶えていたが、1979年に復活し、その4年後には県の有形民俗文化財に指定された。
毎年、神社の六月灯(ろくがつどう・鹿児島県内各地の神社で旧暦6月に行われる祭りに合わせて、「神話」や「おとぎ話」が上演され、地域の人に親しまれてきた。

中止の2年間で変化…「文化財を守るため」再び動き出す

この水車からくり人形、2020年と2021年は新型コロナの影響で中止されたが、2022年は上演することになった。理由は「文化財を守るため」だという。

知覧水車からくり保存会・赤崎大輝さん:
製作者も高齢の方が多く、これ以上止まったら、なかなか(復活が)難しかったかなとの思いがあります

中止になった2年間で、水車からくりの複雑な仕組みを忘れてしまったり、後継者を募る機会が失われたりした。2022年も中止となれば、伝統が途切れるかもしれない。そんな危機感が保存会のメンバーにあった。

そんな中、迎えた本番1週間前。保存会のメンバーは、確認作業に追われていた。

「やっぱり緩いね」

劣化して、伸びてしまったベルトが外れてしまった。すぐにその場で長さを調整していく。
すると、今度は…

抜けたひもを修理する様子
抜けたひもを修理する様子

「これ(ひも)が抜けてるな」

魚を引っ張るひもが抜けてしまっている。金具を付け替えて動作を確認する。

知覧水車からくり保存会・森敏孝さん:
失敗だらけです。失敗の積み重ね(笑)

約2カ月間、毎日のように作業を続けたという。そして、何とか3年ぶりの上演にこぎつけた。

水の力だけで織りなす「不思議」な人形劇

豊玉姫神社に浴衣を着た子どもが集まった
豊玉姫神社に浴衣を着た子どもが集まった

境内に並ぶ出店に、浴衣姿の子どもたち。3年ぶりに、豊玉姫神社に「六月灯」の風景が戻ってきた。

「海幸山幸 豊玉姫の物語」
「海幸山幸 豊玉姫の物語」

そして、主役の水車からくり人形が動き出した。2022年の演目は「海幸山幸 豊玉姫の物語」。
登場するのは、兄・海幸と弟・山幸の兄弟。ある日、山幸が兄の大切な釣り針を海の中に落としてしまう。困った山幸はわだつみの国へ行き、そこで豊玉姫と出会う。

豊玉姫は魚たちを集めて釣り針を探し出し、山幸は無事、兄に釣り針を返すことができた。

水の力だけで織りなす人形劇。3年ぶりの上演は無事、成功した。訪れた親子に話を聞いてみると…

子ども:
おもしろい

(Q.どうやって動いているか知ってる?)
子ども:

水!不思議だなって思った

父親:
前も見たんですけど、やっぱりすごいなと思いますよね

母親:
自分も両親に連れてきてもらって見てきたので、自分の子にも見せたいなという思いがあって。一緒に見られて良かったと思います

知覧水車からくり保存会・赤崎大輝さん:
皆さん楽しみにしてくださっていたんだと思います。夏になると見たいなと思ってくれるような水車からくり人形にしていきたいですね

空白の2年間で途絶えかけた豊玉姫神社の伝統は、何とか2022年、持ちこたえた。その一方で、2022年も開催を見送る伝統行事が鹿児島にもある。

コロナ禍3年目。イベントを再開すべきか、中止すべきか。鹿児島県内各地で、伝統の存続をかけた関係者の選択が続けられている。

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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