全日本フィギュア選手権が12月23日からさいたまスーパーアリーナで始まる。

北京オリンピックの代表最終選考会でもある今大会。シングルでは男女ともに3枠をかけた激戦が予想される。

しかし、より熾烈な戦いが繰り広げられるのはアイスダンスだ。

2020年の全日本
2020年の全日本
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たった1枠しかない五輪代表の座をかけ、北京オリンピックの夢をつかもうとする村元哉中・髙橋大輔組。

結成から2年という短い時間の中で驚異の進化を続けてきた2人が全日本選手権、そして北京オリンピックへの思いを語った。

「全く違う」ものを見せたい

髙橋大輔
髙橋大輔

今シーズンが始まる前、髙橋大輔は今季に込めた思いをこう語った。

「“超進化”じゃないですけど、『今シーズン全く違うね、何があったの?』と言われるくらいのものを見せていきたい」

2019年秋、髙橋はアイスダンスへ転向
2019年秋、髙橋はアイスダンスへ転向

2014年に現役を引退した髙橋。その4年後の2018年に衝撃の現役復帰を果たすと、発表からわずか1年半後の2019年秋、アイスダンスへの転向を表明。

パートナーの村元哉中とイチから新たな道を歩き始めた。

転向初年度から2人は唯一無二の世界観をつくり上げ、見るものを魅了してきた。

2020年の全日本選手権
2020年の全日本選手権

2人で初めて出場した2020年の全日本選手権では、結成1年目ながら、息の合った演技を披露。

公式練習で村元が負傷するアクシデントを乗り越え、3連覇を成し遂げた小松原組に次ぐ2位となり、表彰台に上がった。

結成1年目で2位という好成績で終えた全日本だったが、試合後、髙橋の心には常に頂点を目指し戦ってきた以前の現役時代の気持ちがよみがえってきたという。

全日本の後、心境の変化について語る髙橋
全日本の後、心境の変化について語る髙橋

「前の現役の時は、『優勝したい、勝ちたい』という中で毎年過ごしていた。すごくリアルに、今回の全日本で『また真ん中に立ちたい』という気持ちがより一層、明確に見えた。前の現役の時はこういう気持ちだったな」と心境の変化が生まれたことを明かした。

五輪シーズンはこだわりの“和”のプログラムで勝負

2021年、練習拠点のフロリダへ戻ると、2人は徹底的にアイスダンスと向き合った。

フロリダで練習をする村元・髙橋
フロリダで練習をする村元・髙橋

まず重点的に行ったのが筋力トレーニングだ。シングルにはないパートナーを持ち上げるリフトの強化のため、髙橋は肉体をいじめ抜いた。

シングル時代に比べその体は一回りも二回りも大きくなったが、それでも「まだパワーが足りないんです」とどこまでもストイックな髙橋。

トレーニングに励む髙橋
トレーニングに励む髙橋

リフトでは持ち上げられる女性にも体幹を始めとする筋力が求められ、村元も髙橋とさほど変わらないメニューをこなすというから驚きだ。

一方、氷上ではスケーティングの細部にまでこだわった。

アイスダンスではシングル以上にスケーティングスキルが要求され、その上2人の同調性が求められる。

時にはお互いに意見をぶつけ合いながら、2人だけのスケーティングを磨き上げていった。互いに一切の妥協を許さないその姿からは、今シーズンにかける覚悟が伝わってくる。

さらに2人は今年、オリンピックシーズンという特別なシーズンに、こだわりのプログラムを用意した。選んだ曲は北海道の民謡「ソーラン節」と和楽器の琴を用いたヒップホップ調の曲。

村元は「オリンピックシーズンなので、和のテイストを入れたら面白いんじゃないかと。日本代表だからできるプログラムでもある」と語り、その世界観は「日本の伝統的な浮世絵の絵」をイメージしているという。

見どころとしては「ミッドラインステップ」を挙げ、髙橋も「あれがバチバチに決まったら、めちゃくちゃカッコイイと思う」と明かす。

「ソーラン節」は漁師が魚を水揚げする時にうたわれた歌でもあり、村元は「リフトも見どころ。ソーラン節からの流れでヒップホップに入って、そこで魚が釣られているようなユニークなリフトをやります」と話した。

初戦で「自信」得た2人が躍動

今シーズンの2人は大会を経るごとに進化し続ける。

髙橋は「先シーズンは“こなすこと”だったけれど、今シーズンは確実に魅せていく。細かい部分を着実に仕上げていきたい」と考えを明かした。

今シーズン初の公式戦となったGPシリーズ・NHK杯ではこだわりの新プログラムを国内初披露。リズムダンス、フリーダンス、合計得点のすべてで日本歴代最高得点を記録すると日本勢最上位の6位となり、初めて小松原組を上回った。

この大会で、これまで積み重ねてきたことが結果として表れてきたことで2人の「自信」につながる。

ワルシャワ杯に出場した村元・髙橋
ワルシャワ杯に出場した村元・髙橋

その翌週にポーランドで行われたワルシャワ杯では、時差や連戦の疲労がある厳しいコンディションの中、さらに勢いを増した演技を披露し、海外の観客を魅了。NHK杯で更新した日本歴代最高得点を10点以上更新し、2位。ISU公認の国際大会で初の表彰台に上がった。

2人を指導するマリーナ・ズエワコーチも、彼らの成長ぶりに目を見張る。

「2人は週を重ねるごとにどんどん成長を続けてきました。誰もが魅了されていたし、短期間での大輔と哉中の成長に驚いていました。(全日本に向けて)滑りに磨きをかけて、自信をもってレベルの高い演技をしてほしい」

マリーナ・ズエワコーチ
マリーナ・ズエワコーチ

そんな2人は、日ごろからズエワコーチの言葉に支えられていた。

村元は、ズエワコーチの「何をするかじゃなくて、今自分たちがどう見せるかが一番大事」という言葉に背中を押されていると話す。

髙橋も「『自分たちはまだまだだ』みたいなところの気持ちはあるんですけど、(ズエワコーチが)『何を言っているの?』みたいな。『良いもの持ってるじゃない』って、すごく自信をつけてくれたり、目標を高く持たせてくれたり。“そこを目指さなきゃいけないのかな”みたいな感じで持ち上げてくれてる」とその存在の大きさを語った。

全日本の先に五輪がある

有言実行の「超進化」を遂げた2人、試合を重ねる中で確かな手応えを感じていた。

「自分が滑る自信はかなりついてきているので、本当に良いスタートが切れているなと感じています」と髙橋。

村元哉中
村元哉中

もともとアイスダンスで実績がある村元も、結成2シーズン目の成長に関して、「それこそ“超進化”ではないですけど、理想というか、進化しているスピードが早い」と話す。

結成わずか2シーズン目で見えてきたオリンピック出場。

今年5月に行ったインタビューで「全日本の先に北京オリンピックがある」と話していた2人だからこそ、全日本選手権への思いは強い。

村元は「リズムダンス3分間、フリー4分間を自分たちの舞台で観客を魅了したい。それが絶対、結果につながると思う」と語る。

髙橋大輔
髙橋大輔

髙橋も「全日本は表彰台の真ん中に立ちたい。全日本優勝は目標にある。それには100%の演技をしないとそこには立てないので。その時にできる全力をやるしかない」と意気込んだ。

35歳の髙橋と28歳の村元が目指す北京オリンピック。“超進化”した2人が全日本選手権の舞台でどんな姿を見せるのだろうか。

そして北京への切符を勝ち取るのはどのカップルか…、クリスマスの夜12月25日にすべてが決まる。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班