島嶼県で長年にわたって製造業不毛の地とされてきた沖縄だが、いま全国の企業がこぞって進出している。

これまで、輸送にかかるコストなどが大きなネックとなっていたが、それをも上回るメリットがあるようだ。

沖縄で加速するモノづくりの最前線を取材した。

求められる産業構造の多様性

観光施設の中を移動しながら、さまざまな映像体験を楽しめる自動運転車両。

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現実世界の中に仮想の世界を投影するMR・複合現実。

実は、これらの最先端の技術について、沖縄で研究開発や商品の製造が進められている。

これまで”製造業不毛の地”とされてきた沖縄で新たな”モノづくり”が加速しているなか、ものづくりネットワーク沖縄の金城盛順代表理事は「それぞれの産業の強みをさらに引き出して付加価値を生む」と力強く語る。

沖縄の基幹産業として位置づけられている「観光業」。県内の産業別の内訳では、観光業を含む第3次産業が85パーセントと大きな比重を占めていて、第2次産業の製造業は5パーセント未満と、その比率は全国で最も低くなっている。

一方、コロナ禍によって沖縄経済が観光業に偏り過ぎたことへのリスクも顕在化したことから、製造業をはじめとする産業構造の多様化が求められている。

法人税最大40パーセント控除の経済特区

そんななか重要な役割を果たすのが、うるま市にある中城(なかぐすく)湾港新港地区だ。

製造業の法人税が、最大で40パーセント控除になるなど、さまざまな税制優遇プログラムが用意された経済特区。

京都市に本社を置く上場企業「I-PEX」は、沖縄県が企業誘致のため経済特区内に建設した工場に、2019年から入居している。

I-PEXの西山朋宏執行役員は、「工事にあるのはプレスの金型の加工するもので、80トンプレス機は沖縄にはない精密なプレス機」だと説明する。

国の助成金も活用して最先端の機器を導入し、1万分の1ミリという精密さで金属加工などを行っている。

I-PEXの西山朋宏執行役員は、「電子部品に使われているコネクタ、パソコンや携帯電話の中にあるようなものを作っている」と説明する。

Q. 現代の生活に欠かせないものを作っているということですか?

I-PEX 西山朋宏 執行役員:
皆さんが知らない間に私どもの製品を使っているということです

税制の優遇以上に大きなメリットとは?

精密な加工とともに力を入れているのが、研究開発分野だ。

I-PEX 西山朋宏 執行役員:
こういったセンサーが20素子入っていまして、この素子によって「におい」をデジタル化できる技術があります。泡盛の生産工程でもにおい、温度などいろいろ(人が)測って作られていると思いますが、生産工程内でデータが変わってきたら、次の工程に行きましょうといったかたちです

税制の優遇以上に大きなメリットについて、西山執行役員は「沖縄には工業系の学校が多いのに、工業系の就職先が少ないというのを聞いたため、地元に残ってしっかりやってくれる人材がいるということが一番魅力的」と話す。

沖縄では工業系の教育機関から若い人材を毎年3000人近く輩出しているが、これまでは県内で製造業の就職先が少なく、本土に出ていかざるを得ない状況だった。

以前、岐阜県の自動車部品メーカーに務めていた福原将弥さんは、「私が就職活動をしていた時は、工業系の企業がなくて、どうしても県外でということで就職していました」「地元に帰りたいなと思って転職先を探していたところに、沖縄のうるま市の中でも働けるようなところが出てきた」と話す。

沖縄ならできるという場所になりたい

うるま市はこれまでの取り組みで260社の企業誘致と6600人の雇用を生んでいて、この中には沖縄県出身の工業系の人材も多く含まれている。

うるま市の中村正人市長は、「今後新たに20ヘクタールを用意して企業誘致を図って製造業を活性化させたり、企業同士のコラボレーションで商品開発をしたりするなどを続けることによって、自力的な力をつけていきたい」と将来について語る。

同じく、うるま市で金型の製造やデジタルコンテンツの制作を行う「ものづくりネットワーク沖縄」。

加工の難易度が極めて高い「5軸加工」と呼ばれる技術を扱っていて、大手自動車メーカーからも部品の試作品の制作依頼が舞い込む。

沖縄工業高校を卒業後、2022年に入社した外間広之慎(ほかま ひろのしん)さんは、首里城再建時に使用される赤瓦の金型作りを担った。

これまで、赤瓦の金型は沖縄県外の企業が製造していたため、今回、地元企業の一員として再建に携われることにやりがいを感じている。

ものづくりネットワーク沖縄 外間広之慎さん:
首里城の瓦の金型が実際にプレスされて、首里城に使われることがありがたいうれしいです。沖縄のものは沖縄でできるようになっていけたらなと思うので、業界を引っ張っていけたらなと思います

次世代のモノづくりもここで進められている。

ものづくりネットワーク沖縄 吉居誠 専務理事:
仮想空間の中でモノづくりをすることになりますが、これは新人の教育用に作ったコンテンツなんです。「自分の考えていることをまずやってみなさい。そこで失敗したら、そこから学びなさい」という教え方が、安全にコストをかけずにできるというやり方になります

この技術を教育や医療の現場で活用できないかという開発依頼も、全国から寄せられている。

製造業振興のために用意された優遇措置と優秀な地元人材の活用。

これらを通して高付加価値な商品を生み出すことができれば、これまでネックとなっていた輸送コストの影響を最小限に抑えつつ、東アジアの中心地という利点を活かし、人口20億人に及ぶ巨大マーケットを相手にすることが可能となる。

ものづくりネットワーク沖縄 吉居誠 専務理事:
台湾では半導体産業も盛んなので、こういう加工を沖縄でもできますよというアプローチをしています。沖縄ならできるという場所になりたい、そこを目指しています

沖縄で進む、沖縄だからこそできる新たなモノづくり。

より足腰の強い沖縄経済の構築に向け更なる発展が期待される。 

観光を出口にした製造業戦略

製造業と観光の緊密性について研究する琉球大学の金城盛彦教授は、沖縄県内の製造業が県外・海外の市場に目を向けることも重要だと話す一方、「観光を出口にした製造業」という視点も大切だと話している。

金城教授が例に挙げていたオリオンビールは、県外・海外への輸出も行うが、メインターゲットは沖縄を訪れる観光客と県民。

年間1000万人訪れる観光客をターゲットにすれば、そもそも輸送のコストがかからないうえに市場規模も非常に大きい。

このメリットを活かすことが沖縄の製造業において重要ではないかと金城教授は話している。

地元の製造業者が観光客のニーズに合った商品開発と製造を行えば、それが観光業にも好影響を生み出す。

そういった産業の垣根を越えた相乗効果も今後期待されている。

(沖縄テレビ)

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