10月、監禁などの疑いで、あるグループのメンバーの男ら14人が一挙に逮捕された。その名も「ナチュラル」。その言葉が持つ柔らかな印象とは全く異なる実態を有する、全国最大規模のスカウトグループだ。

歌舞伎町(東京・新宿区)
歌舞伎町(東京・新宿区)
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東京・歌舞伎町をはじめ全国の繁華街で、女性への違法な風俗スカウトを繰り返す暴力団をも恐れない組織だ。厳格な情報統制を徹底していることから、捜査幹部いわく「なかなかしっぽを掴めない」存在だったという。

警視庁はこのグループを既存の暴力団でも準暴力団でもない新たな“脅威”と捉え、部門の垣根を超えた“特命チーム”で捜査にあたり逮捕に至った。そんな「ナチュラル」の実態に迫る。

「制裁」と称しリンチ フライパンで“ボコボコ”に

「ナチュラル」幹部の沢田和哉被告(32)と兼子エディ被告(30)ら14人は2023年2月、グループのルールを破った“制裁”と称して、メンバーだった30歳の男性を新宿区歌舞伎町のマンションなどに10日近く監禁し、わいせつな行為をした疑いで、10月、逮捕された。

「ナチュラル」幹部の兼子エディ被告(30)
「ナチュラル」幹部の兼子エディ被告(30)

沢田被告らは男性を監禁中、ヘルメットやフライパンなどで全身を殴るなどしたほか、「それやんねぇと、終わんねぇぞ」などと脅迫し肛門に性玩具を入れるなどの行為を繰り返したという。

「ナチュラル」幹部の沢田和哉被告(32)
「ナチュラル」幹部の沢田和哉被告(32)

男性は顔面の抹消神経障害を引き起こすまでにおよぶ全治半年の重傷を負った。制裁の理由は金銭にまつわるルールを破ったということだが、なぜここまで壮絶な“リンチ”が行われたのか。それはピラミット型組織の中で徹底された情報統制だった。

「ウイルス(=警察)対策課」で捜査の目かいくぐる

捜査関係者によると、「ナチュラル」のメンバーは全国に1500人ほど。ほとんどがスカウトマンかと思いきや、まるで会社のように役割分担が細分化されているという。

まず本社のような役割を担う運営部門があり、スカウトを管理する「総務課」や店舗との契約業務を担う「契約課」、集金担当の「集金課」などが存在する。その下に5つのスカウト班があり、今回逮捕・起訴された沢田被告をリーダーとする「沢田グループ」は約700人が所属している最大の班だという。

まるで会社のようなスカウト軍団の組織(イメージ)
まるで会社のようなスカウト軍団の組織(イメージ)

スカウト達は主に路上で女性に声をかけるなどして風俗店などを紹介。店から「ナチュラル」に紹介料が入り、幹部を通じてそれが分配されるという仕組みだ。年間の売上げは数十億円に上るとみられるという。

その中で異様なのが、警察の捜査を避けるための徹底した“情報管理”だ。「ナチュラル」はグループ独自の「アプリ」を開発していて、メンバー間の報告や連絡は全てその「アプリ」で行われる。メンバーが警察に逮捕された場合は、遠隔操作し、アプリを起動させないようにすることなども可能だという。

独自アプリで警察対策(イメージ)
独自アプリで警察対策(イメージ)

新人は主にそのアプリで動画などを通じて新人研修を受けるが、叩き込まれるのはまず“警察対策”。グループ内で警察を“ウイルス”と呼び、本部「ウイルス対策課」からは、逮捕された場合には「フリーのスカウトと説明する」「担当弁護士を呼ぶ」などの対策を教え込まれる。

また、アプリ内では繁華街の取り締まりをしている私服警察官の顔写真なども共有。警察に捕まらない、万が一捕まったとしてもグループまで捜査が及ばない対策を第一に行っていた。

規則破りは「高額罰金」「制裁」逃げると“指名手配”

また、メンバーはお互いの本名を知らない。例えば沢田被告は「武藤」、兼子被告は「黒武」などいわゆる“源氏名”で互いを呼び合っていたという。また、グループの規則破りは一番の御法度。破ると数百万円にのぼる高額罰金を科されるほか、今回の事件のような暴力による制裁が行われる。逃げた場合でも、前述の「独自アプリ」で情報が共有され“指名手配”状態となる。身分証をもとに実家にまで危害が及ぶケースもあったという。

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目的は全て「警察にグループの情報を漏らさせない」ためだ。今回の事件では、監禁解放後に警視庁に被害相談した男性に対して被害届提出を断念させるために示談を迫った強談威迫の疑いで、グループ本部幹部の30歳の男も逮捕された。男性は相談後もグループからの「報復」を極度に恐れていたということで、いかにグループが“力ずくの情報統制”を行っていたかがわかる。

警視庁の本気 “特命チーム”で取締り・実態解明

2020年6月、東京・歌舞伎町でスカウトの引き抜きを巡る「ナチュラル」と暴力団との乱闘事件が発生。そこから警視庁は暴力団をも恐れないスカウト集団として「ナチュラル」を“マーク”していた。

しかし「ナチュラル」の徹底した秘匿性から、摘発はおろか、実態解明すら簡単なことではなかった。警視庁は2022年12月、風俗店やスカウトなどに関わり違法な資金獲得活動をしている“犯罪集団”の実態解明と取締りのために、暴力団対策課をはじめとした組織犯罪対策部と風俗店やスカウトの取締りを担当する生活安全部により垣根を越えて構成される特命チーム「風俗・スカウトタスクフォース」を発足。

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「ナチュラル」を治安対策上の“脅威”と捉え、それぞれの専門分野から情報を収集・分析し、取締りに向けて取り組んだ。そして監禁事件を端緒に、幹部メンバーをはじめとした検挙に至ったのだった。

暴力団との「共存共栄」関係に転換 全国に勢力を拡大

3年前までは暴力団と対立していた「ナチュラル」だが、捜査関係者は「今は全く違う」と話す。ここまで全国の繁華街に勢力を拡大しているのも、暴力団に「みかじめ料」のような形で金銭を渡すなどして、繁華街で“共存共栄”しているというのだ。

別の幹部は「違法行為を着実に摘発し、さらに実態解明を進めなければならない」と語気を強める。警視庁と「ナチュラル」との戦いはまだまだ続く。

(執筆:フジテレビ社会部・警視庁クラブ 風巻隼郎)

風巻隼郎
風巻隼郎

1996年新潟県出身。
社会部で、司法クラブ検察担当、コロナ取材班、千葉県警を担当。
現在は、警視庁捜査二課・暴対課を担当。