ウクライナ・ロシア両国がドローンによる攻撃を活用し、情勢はドローン戦争の様相を呈している。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え、ドローンの攻防や宇宙・サイバー・電磁波の領域の戦いが変える最新の戦争について検証した。

ドローン戦ではウクライナが先を行き、ロシアが追う状況

この記事の画像(11枚)

長野美郷キャスター:
プーチン大統領は、国営軍事企業のトップと会談し「ドローンなど最新兵器の生産比率を高める必要がある。ドローンによる攻撃は強力」と評価。戦争が長期化する中、ウクライナ・ロシア双方のドローンへの依存度が増していると見える。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
前線が膠着状態にあり、双方が相手の補給路や指導層に近いところなど奥深くを攻撃したい。またウクライナは通常兵器によるロシア本土への攻撃を西側から禁じられており、通常兵器でないドローンでモスクワを攻撃しロシア国民に影響を与えたい。非対称性の中での手段として扱っている。

長野美郷キャスター:
ロシア製の「クブ」「ランセット」、イラン製の「シャヘド136」など、ロシアが戦場で使用しているドローンの特徴は。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
シャヘドは爆薬量が少ないが飛距離は長く、冬から春のインフラ攻撃にかなり使われた。ランセットは戦場で、空飛ぶ迫撃砲のように使われる。

佐藤正久 元外務副大臣:
ロシアはウクライナ軍のやり方を真似し始め徐々にレベルが上がっているが、やはりウクライナの方が一歩上。偵察機能を活用したり、迫撃砲を運んで落としたり、また自爆型ドローンを使うなど、組み合わせている。

佐藤正久 元外務副大臣
佐藤正久 元外務副大臣

反町理キャスター:
ウクライナの攻撃ドローンがロシア軍のGRU(参謀本部情報総局)近くに着弾。ロシア側の迎撃体制は。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
いくつか方法がある。例えば、ウクライナのドローンがモスクワまで飛ぶためのGPSの信号をカットする方法。また水上・空中ドローンを遠隔操縦するための衛星による通信を妨害する方法。ドローンが近くまで飛んでくれば、目視で発見し通常の機関砲などで撃ち落とすなどの方法も。だが今のところ、ウクライナのピンポイント攻撃が成功しているように見える。ロシア軍の近距離防御がうまくいっていないのでは。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
可能性は2つある。1つはウクライナがアメリカ製GPSではない、例えば中国やロシアのものなどロシア側があまりジャミング(妨害)したくないものを使っている可能性。もう1つはGPSに未知の信号変調方式があり、それを使っている可能性。

ウクライナとスペースX 民間企業が国の安全保障を左右する時代

長野美郷キャスター:
スペースX社が提供する衛星通信システム「スターリンク」にまつわる懸念について。米「ニューヨーク・タイムズ」紙が関係者の証言として報じた内容は「インターネットアクセスの遮断を決定できるのは(スペースXのCEO)イーロン・マスク氏だけ。政府や企業に匹敵するサービスがなく、懸念が高まる。マスク氏は3月にクリミア付近におけるスターリンクへのウクライナ軍のアクセス要請を拒否した」。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
イーロン・マスクは開戦直後にスターリンクの受信アンテナをウクライナに送ったが、ウクライナ軍が水上ドローンで黒海の軍港を攻撃した。これは明らかに通信衛星設備の兵器化になっており、こういう使い方はさせないと警告した。第三国の民間企業がウクライナとロシアの戦争に当事者として関わることになってしまうので。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
国家による暴力の独占が崩れつつある状況。軍事行動自体が民間企業の協力なしにはできなくなっている。サイバーセキュリティーでもマイクロソフトの協力などが必要。またスターリンクは、ロシアから衛星を攻撃されることを恐れている。つまり、国家レベルの攻撃を受けるときに、企業が国家レベルの防衛をすることは割に合わない。米軍が保証してくれるなら話は違うのだと思う。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
マスクの発言後、米国防総省とスペースX社が交渉し、軍事用途でスターリンクの衛星を使う契約を別途結ぶことにした。その上でアメリカ政府がウクライナに提供する。軍用と民生用を切り分ける手順を踏んだのだと思う。

反町理キャスター:
民間企業がここまで一国の安全保障に関わるような力を持っていいのか。

佐藤正久 元外務副大臣:
今はそういう時代。だから政府が責任を持って全体の枠組みを作らなければいけない。アメリカの「統合抑止戦略」も民間を含めた「統合」。軍だけで戦う時代ではない。

長野美郷キャスター:
スターリンクが他の衛星と比べ優れている点とは。通常の静止衛星は約3万6000kmの高度があり、3基で地球全体をほぼカバーできるとされる。一方、スターリンクでは約550kmの高度に4000基以上の衛星が連なり配置される。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
3基しかない通信衛星では特定の方向にアンテナを向け続けなければならず、移動するたびに調整が必要だが、多くの衛星があるスターリンクの場合はその必要がない。そして、圧倒的に通信速度が速い。光ファイバーとほとんど同じで、水上ドローンの映像をリアルタイムで送ることも可能になる。

中国のドローン制御技術は脅威 日本はどう対処するのか

長野美郷キャスター:
日本の2023年度の防衛白書には「ドローン等への対処を含む統合防空ミサイル防衛能力の向上」「ドローン・スウォーム(群)の経空脅威に対する技術獲得と早期装備化」が盛り込まれた。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
ドローンの使用についてのある種のイノベーションが戦場で起こっている。これを見ていくこと。数十のドローンが同時に展開して群れをなすように攻撃してくる「スウォーミング」は、この戦争でまだ起こっていないが対処は重要。中国はこの制御技術が非常に高い。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
中国の技術は脅威。高エネルギーの電磁波を面で全てのターゲットに当てることはできず、ドローンが集団で360度から襲ってくると対処不能になる可能性が高い。

佐藤正久 元外務副大臣:
スウォームは非常に防ぐのが難しく、しかもAIが搭載されて自律型となる時代が来る。また中国は、水中を泳ぐ魚型のドローンも作っている。多様化しており非常に頭が痛い。

反町理キャスター:
逆に、日本が攻撃する方法についての検討は。

佐藤正久 元外務副大臣:
攻撃型ドローンも研究項目にはあるが、偵察のため、またマイクロ波やレーザーによるドローンに対する守りの部分がメイン。ただウクライナ情勢を踏まえ、ドローンの価値は高くなっている。

反町理キャスター:
専守防衛という観点からは障害はないか。

佐藤正久 元外務副大臣:
ドローンについては反撃能力レベルまでなら大丈夫。だが、連動するサイバーディフェンスの問題がある。宇宙、サイバー、電磁波、AIなどとドローンは一体のものとして考えなければならない。その意味で乗り越えるべき法律の壁があるのは間違いない。

世界に遅れる日本のサイバー防衛 一刻も早い法整備を

長野美郷キャスター:
米「ワシントン・ポスト」紙によれば、中国人民解放軍のハッカーが、最も機密性の高い情報を扱う防衛ネットワークシステムに侵入したことを2020年秋にアメリカ国家安全保障局が把握し、日本に警告。またNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)は、2022年10月上旬から2023年6月中旬までの間に個人情報を含むメールデータの一部が漏えいした可能性があると発表。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
一番大きな問題は、日本側がサイバー攻撃を受けていることに気付けなかったこと。状況把握能力が欠如しており、深刻。

反町理キャスター:
政府の「大した情報は抜かれていない」という言い方はどうなのか。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
政治的にその答弁になった可能性はあるが、記録がなくデータが抜かれたかどうかもわからない可能性が高いと思っている。痕跡が記録として残っていないのはまずい。技術的な防御においても、司法訴追や外交交渉においても重要。

反町理キャスター:
憲法21条に「通信の秘密は、これを侵してはならない」とあるが、全て監視できるか。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
防衛省もNISCも自分たちのシステムやネットワークだけを見ており、これは21条に抵触しない。だがそれで十分か。電力会社や交通機関のモニタリングは、現状では憲法21条からくる通信事業法で禁じられている。すると攻撃を受けたときの状況把握が遅れる。

佐藤正久 元外務副大臣:
怪しいところは日頃から能動的に見に行くアクティブサイバーディフェンスが必要だが、まだできていない。憲法21条の問題や不正アクセス防止法・自衛隊法の改正などやることが多いが、整備しないと間に合わない。日本には技術はあると思うが、司令塔的な部分がない。

反町理キャスター:
その司令塔を防衛省、警察、経産省などのどこが取るかでもめているとも聞く。

佐藤正久 元外務副大臣:
縄張り争いをやっている場合じゃない。中国は官製ハッカー軍団だけでも3万人いるといわれる。北朝鮮のハッカーにも対応しなければ。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
日本の事態対処法制の大元は20年前に作られており、枠組みの中にサイバーセキュリティーが入っていない。自衛隊の責任範囲含め、国と民間の役割分担や権限関係などを整理し直す必要がある。

(BSフジLIVE「プライムニュース」8月11日放送)