「国際女性デー」が制定されている3月から、フジテレビのアナウンサーが自分の視点でテーマを設定し取材し、「自分ごと」として発信します。
2024年7回目の担当は奥寺健アナウンサーです。

3月8日の「国際女性デー」は、ロシアでは「国の祝日」だ。女性の権利や社会参加、地位向上について、ロシアではどのように扱われているのか。

世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ指数」で、ロシアが最後に記載された2021年版では世界156カ国中81位で、120位だった日本よりかなり高い順位だった。

2023年秋からFNNモスクワ支局長を務める土井若楠さんに「ロシアで初めて迎えた国際女性デー」の印象やロシア社会における女性の働き方などについて聞いた。

土井若楠FNNモスクワ支局長
土井若楠FNNモスクワ支局長
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ーーモスクワ市民の「国際女性デー」の過ごし方は?

国際女性デーは特に大きなイベントがある日ではありません。恋人や家族と一緒に過ごす人が多いようです。

街を歩くと、普段から花束を持つ男性に良く出会います。町中には24時間営業の花屋さんも多くあります。花は、妻や彼女と喧嘩の後の仲直りや、空港で女性を出迎える時などに必携です。ロシアの女性にとって花はとても大事で、特に国際女性デーではマストアイテムです。

ロシアで花を贈る機会は多々ある
ロシアで花を贈る機会は多々ある

ーーバレンタインデーのような位置づけとは違う?

同じく祝日である2月23日の「祖国防衛の日」は、女性から男性へプレゼントを贈るという点で、バレンタインデーのような感じです。ただ、女性が男性に贈るのは小さなケーキか小物程度なのに対して、3月8日「国際女性デー」で男性が女性に贈るプレゼントは気合いが入っています。

ロシアにおける国際女性デーは1917年のロシア革命のきっかけとなった女性運動と結びついているといわれる。国の祝日となったのは、ソ連時代の1966年。土井支局長によると半世紀が過ぎた現在は商業性が色濃い印象だという。

働く女性の立場は守られている

ーーモスクワの女性を取り巻く環境はどのように映る?

就職して20~30年働き続ける女性は珍しくありません。ロシアは全体的に所得が低く共稼ぎ家庭も多いです。基本給が少ないため、残業をしないと生活できないという家庭も少なくありません。女性側に「男性に養ってもらう」という感覚はあまりないと思います。

そして、働く女性の立場は守られていると感じます。例えば、「3歳未満の子どもを持つ女性」などについて企業は特定の理由がない限り解雇できません。また、産前・産後の休暇の扱い、双子の場合は育休期間を長くできることなどが「労働法」に明記されています。

一方で、ロシアは何かと「レディーファースト」です。
ドアの開け閉めやエレベーターのボタンを押すのは男性であるのが「普通」で、ロシアの女性の中には男性が近くにいる時はそれを待っているように見える人もいます。「自分は女性」という思いは、日本の女性より強いと感じます。弱さを見せつつ、主張もするイメージです。

反政府運動は女性の方が“リスク”が低い?

ーーニュースなどで政府批判をする“強い女性”を目にするが、拘束のリスクは考えないのか?

政府に批判的な声を上げることによる拘束などのリスクは、女性より男性の方が高い印象があります。毎週土曜日には動員兵の家族たちが花を手向けるセレモニーが行われますが、現場で拘束されるのは男性が多いです。こうした状況なので特に男性は声を上げにくいかもしれません。

ロシアの女性は、個人差はありますが、権力に屈しない振る舞いが印象的です。2月に死去した反体制派指導者ナワリヌイ氏の妻ユリアさんや、国営テレビ局で反戦のプラカードを掲げた女性たちは象徴的です。ナワリヌイ氏の葬儀の参列者、花を手向けた人、動員兵の妻、SNSで発信している人たちからは、監視や拘束のリスクを認識しつつも自分の意志に従って行動する、強い意志を感じます。

死去したナワリヌイ氏と妻ユリアさん
死去したナワリヌイ氏と妻ユリアさん

3月17日の大統領選では、政府に批判的な有権者が、その意思表示として投票日の正午に投票所に集まり、長い列ができました。危険を顧みない行動の理由を聞くと、多くの人が「自分自身のためにやっていること。戦争反対、平和を求めていることを証明するために来た」ということを口にしました。「意思表示」をしに来た人には老若男女いましたが、やはり女性が多かったです。

土井支局長に話を聞く奥寺アナ
土井支局長に話を聞く奥寺アナ
 

女性には主張の強さを感じる一方で、男性側には「女性は守られるべき存在」という意識が垣間見えます。基本はレディーファーストで、女性に優しい男性・・・。当局の職員は大抵が男性なので、女性を拘束する時は、男性に対する時ほど手荒なことはしないだろうと考える人がいるかもしれません。

ロシアは女性を効果的に「見せて」いるのか

ーー「ジェンダーギャップ指数」で「経済」「教育」「保健」は世界の平均かそれ以上なのに「政治」は著しく低い

現在、ロシア上下両院に登録されている女性議員は全体の2割未満です。一方で、上院議長、副首相、報道官など目立つポジションに女性がいます。絶対数では男性が圧倒的に多いですが、女性が印象に残りやすいと思います。

(左から)マトビエンコ上院議長、ゴリコワ副首相、ザハロワ外務省報道官
(左から)マトビエンコ上院議長、ゴリコワ副首相、ザハロワ外務省報道官

サッカーW杯や五輪誘致も含め、ロシアは国際社会でプレゼンスを高める努力をしています。治安の安定や経済の回復、そして女性をうまく見せる方法にも気を遣ってきたはずです。

また、プーチン大統領は今回、国際女性デーに女性受刑者52人に恩赦を与えました。対象となったのは、未成年の子どもを持つ女性や、軍事侵攻に参加している兵士の親族などでした。

国際女性デーに合わせたメッセージ動画ではプーチン大統領の横に花が飾られていた
国際女性デーに合わせたメッセージ動画ではプーチン大統領の横に花が飾られていた

ーーロシアは、男女平等な面がありつつ、男女の立場の違いがはっきりした社会にも見える

近年のロシアは、日本同様に出生率の低さが問題となっていて、プーチン大統領は2024年を「家族の年」と位置づけました。子育て世代への支援を手厚くする方に舵を切ったわけですが、『何よりもまず、女性たちに天から与えられた才は、子どもを産むことだ。母性は女性の持つ最良の使命だ」と述べました。更にゴリコワ副首相は「家族を作り始める理想的な年齢は18歳から24歳の間で、子どもを産むのに適した年齢は24歳までだ』と話すなど、女性の役割について踏み込んだコメントが目立っています。

土井支局長は「もしかしたらロシアは今、男女平等や女性のキャリア形成崩壊の入口に立っているような、転換期を迎えているのではないか」とも感じているという。

今回の取材で国際女性デーが「国の祝日」であることは、必ずしも本来の価値観を必ずしも共有するものではなく、場合によっては国が伝えたい“メッセージ”を広めるのに有効な道具にもなり得ると感じた。

今後のロシアにおいて、女性の権利や社会参加、地位向上への流れはどうなるのか。また、ロシア同様、国際女性デーを「祝日」としている他の国の状況はどうなのか。女性の立場をめぐる様々な動きは、気づかぬところで続いているかもしれない。

(取材・文/フジテレビアナウンサー 奥寺健) 

「ジェンダーについて、自分ごとを語る」
2023年に続き、フジテレビアナウンス室では、アナウンサーが自主的に企画を立ち上げ、取材し、発信します。

「私のモヤモヤ、もしかしたら社会課題かも…」まずは言葉にしてみることから始める。
#国際女性デーだから
性別にとらわれず、私にとっての「自分ごと」、話し合ってみる機会にしてみませんか。

奥寺 健
奥寺 健

舞台⇒音楽⇒物理⇒音声⇒アナウンサー こんな志向の中で生きてきました。 スポーツは自然科学と地域文化、報道は社会への還元と考えています。 そして人が好きです。
北海道大学と電気通信大学大学院を経て93年フジテレビ入社 「めざましテレビ」スポーツコーナー、 五輪取材団6回(アトランタ、長野、シドニー、ソルトレイクシティ、アテネ、トリノ) 現在Live News Days、 Live News it、スピードスケート取材・実況(97年~)等担当