犯罪の被害に遭っても、損害賠償の支払いや十分な補償を受けられない。そんな現状を変えようと、被害者や遺族たちが国に訴えた。

21日、関西から東京にやってきたのは、犯罪の被害に苦しむ人たち。警察庁の担当者や国会議員たちに対し、犯罪被害者への給付金の拡充や、損害賠償を加害者に代わり国が立て替えて支払う制度の創設を求めた。

■将来の夢は「ゴルフのプロ」 最愛の息子失った父にのしかかる経済的負担

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和歌山県紀の川市の森田悦雄さん(76)。 息子の都史くん(当時11歳)は2015年、近くに住んでいた中村桜洲受刑者(31)に刃物で切りつけられ、命を奪われた。

息子を殺害された森田悦雄さん:
何でこんなことで、おいてけぼりにするようなことをしているのか。やっぱり悔しくてたまらないので、なんとかいい答えが出るように考えていきたいと思います。

お父さんっ子だったという都史くん。「自己紹介カード」というプリントに書かれた「将来の夢」は、森田さんに褒められて好きになったゴルフのプロで、「大切なもの」の欄には、いのち、かぞくと書かれていた。

息子を殺害された森田悦雄さん(当時2023年):
宝物は“いのち・かぞく”って。こんなん5年生で書くか。小学生ぐらいの子が。

事件から裁判まで、仕事を休まざるを得ない中、森田さんには葬儀や弁護士費用などの経済的負担がのしかかり、ローンの支払いは、7年間続いた。

息子を殺害された森田悦雄さん(当時2023年):
印紙代、控訴審の時でも色々要る。そんなものは、みんな私。150~160万円やったと思う。向こうから1円も出ていない。あんな被害に遭っているけども。

「せめてもの償いを」と、森田さんは民事裁判を起こした。その結果、2018年におよそ4400万円の賠償命令が下されたが、現在も全く支払われていない。

■加害者の賠償金「踏み倒し」 10年たつと時効 理不尽な現実

実は、森田さんのように加害者からの賠償金が「踏み倒される」ことは珍しくない。

日本弁護士連合会によると被害者側が受け取った賠償金は、殺人事件では、裁判などで認められた額のたった13パーセント程度。強盗殺人事件ではわずか1.2パーセント。ほとんどが支払われていない。

さらに判決から10年たつと時効を迎え、加害者側の支払い義務がなくなってしまうため、阻止するには再び裁判を起こす必要があり、遺族には、さらなる負担がかかる。

息子を殺害された森田悦雄さん:
うちも10年たったら再提訴する…そういう気持ちで今日は来ています。

森田さんたちは長年、国が被害者に賠償金を立て替えて支払い、その後、加害者から回収する制度を求めていて、21日も会場で訴えた。

夫を殺害された大竹有利子さん:
加害者が満期出所し、家の前で偶然会いましたが、体がこわばり声も出ませんでした。被害者側が直接、加害者に(賠償金)残りの金額を請求することはできませんでした。怖かったです。

息子を殺害された森田悦雄さん:
国が(賠償金の)立て替え払いをして、そういうことになったら、もっと私らも幸せになるのかなと。子どもの納骨もできると思っている。

国への働きかけを続ける森田さんたち。被害者や遺族の声が徐々に国を動かしつつある。

■遺族の声が国を動かす 給付金の最低額320万円が1000万円に

3年前、大阪・北新地の心療内科クリニックの放火殺人事件で、夫を亡くしたAさん。夫は復職を目指してクリニックに通っていた。

犯罪被害者遺族への給付金は直前の収入などに基づいて金額が決まるため、その見直しを訴えてきた。

2月5日、国は、Aさんたち遺族の声を受けて、給付金の算定基準の見直しや、最低額を320万円から1000万円程度まで引き上げる方針を固めた。

夫を亡くしたAさん:
先日、給付金の最低額が320万円から1000万円に引き上げられることであるとか、聞いてくれているのかなとか、分かってくれているなっていうような意見があったりとか、その積み重ねが今回の引き上げの結果につながっているのかなと思います。でもそれで終わりでなく、ここからかなと。

 犯罪の被害で苦しむ人がさらに苦しめられることがないように、より充実した補償制度の実現が必要とされている。

■“国が主導で支援”スウェーデンやノルウェーの例 明石市の支援に課題も

裁判で命じられた損害賠償が、これほど支払われていないという現状を変えようという動きもある。

兵庫県明石市は、犯罪被害者への支援を2014年から実施している。

支援の内容は、被害者遺族への賠償金を市が立て替え、その後、加害者から財産を差し押さえするなどして、市が回収するということだ。

上限は300万円で、利用は明石市民に限り、これまでに3件利用されている。ただ課題もあり、回収する際の情報収集力など、自治体では限界があるということだ。

一方で海外に目を向けると、被害者が補償を受けられるよう、国が主導して支援しているところもある。

スウェーデンでは、国が賠償金を立て替え、「強制執行庁」が加害者から回収する。ノルウェーでも、国が立て替え、「回収庁」が加害者から回収。

Q.スウェーデンやノルウェーは、どのような方法で加害者から回収するのか?

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
弁護士に話を聞くと、両国とも基本的には強制執行で財産を差し押さえる、といった方法で回収するそうです。ただ、最近ノルウェーでは、加害者と会話をしながら回収するやり方を大事にしていて、「今月どれくらい払える?」「それでは今月は〇〇円払ってくださいね」といった形で、少しずつ払っていく方法をとっているということです。このスタイルは、払うとその都度、罪に向き合うことになります。これがいい方式だとして、日本でも採用してほしいという声が遺族からも上がっています。

これまで置き去りにされてきた問題。被害者・遺族の負担をいかに軽減してゆくのか、対策が求められている。

(関西テレビ「newsランナー」)

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