長崎は、2023年8月9日で原爆投下から78年を迎えた。平和企画「伝えたいナガサキ」。
被爆体験を語り継ぐための新たなツールとしてAI=人工知能を活用し、証言を収録した被爆者と対話ができる、そんな試みが進められている。

世界中の人に被爆体験を…

2023年10月22日、雲仙市に住む被爆者・宮田隆さん(84)は、長崎市内のフォトスタジオを訪ねた。

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宮田隆さん(2023年10月取材当時):
ピカッと光って、ドーンときた。私の小さな体はその爆風で吹き飛ばされて、気づいたときは母親の胸の中で息をしていた

宮田さんの被爆体験を動画でカメラに収める。あの日から長崎で何があったのか、将来にわたり、世界中の人が宮田さんとの対話を通して理解できるようにする試みだ。そしてAI=人工知能の技術も活用する。

宮田さんは、5歳の時に爆心地から2.4キロの現在の長崎市立山の自宅で被爆した。電機メーカーを定年退職した後は、平和活動に力を注いでいる。

2022年6月には、核兵器禁止条約の締約国会議が開かれたオーストリアに渡り、被爆者としての思いを発信した。

さらにその2カ月後、長崎原爆の日の8月9日に平和公園(長崎市松山町)で開かれた平和祈念式典で宮田さんは、「核兵器禁止条約は私たち被爆者と全人類の宝です。今こそ日本は核の傘からの価値観を転換し、平和国家の構築に全力を挙げるべきです」と、被爆者代表として「平和への誓い」を読み上げた。

AIが質問を判断し動画を再生

AIを使った被爆者との「対話」は、被爆者に対する質問をAIが瞬時に内容を判断して、その答えにあう動画が再生されるという仕組みだ。

動画を制作するために被爆者に投げかけられた質問は150ほど。収録には丸1日かかった。

被爆体験の収録に、地元の高校の平和学習部から1年生2人がやってきた。
2人は収録を終えた宮田さんに、いくつもの質問を投げかけた。

活水高校 平和学習部1年生:
次の世代に伝えたいことは何ですか?

宮田隆さん:
机の上で、教室で平和、平和と言ってもダメです。平和は作るもの。生きる希望、自分で作っていく勇気、努力、くじけない。そういうことを皆さんに切にお願いしたい

被爆者と対話しているかのように思いを…

AIを使った「対話」は、静岡県に本社を置き、ソフトウエアの開発やデータの収集・分析などを行う会社が企画した。
2年後の2025年までに、被爆者50人の収録を目標にしている。

「2025年までに被爆者50人の収録が目標」というシルバコンパス 安田晴彦社長
「2025年までに被爆者50人の収録が目標」というシルバコンパス 安田晴彦社長

シルバコンパス 安田晴彦社長:
(被爆体験を)話す、長い収録時間に堪えていただくことを考えると、今後3年が限界ではないか。そういう意味では、本当に時間がなくなってしまってきている

被爆者の高齢化が進む中、コロナ禍で3年余り作業が遅れた。体験した生徒や宮田さんは、次のように語っている。

活水高校 平和学習部1年生:
私たちの世代が、被爆者の話を聞ける最後の世代。私たちには質問できる特権がある。(後の世代が)聞きたくても聞けないことを、今の技術を使って残せることがうれしい。今後の人たちにもいい影響がある。平和な世界につながればいい

宮田隆さん:
非常に感動しています。少なくなっている被爆者として、これは非常に大きな武器。世界共通のAI技術が使える。どこでも被爆体験談が出ていくシステムは夢

動画は、いくつもの外国語に翻訳される予定だ。AIを使った被爆者との対話というツールで長崎に限らず、国内、世界の若い世代が、平和や核兵器廃絶を願う宮田さんたちの思いを未来に届ける。

(テレビ長崎)

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