イスラエルとイスラム組織ハマスの武力衝突が激化している。イスラエルが設定したガザ地区の住民に対する退避期限を大きく過ぎ、イスラエルによるガザ地区への大規模な地上侵攻の緊張が高まっている。

現地の状況やいつ地上侵攻が始まるのかについて、ガザ地区で子供の教育支援などを行う「NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン」スタッフの手島正之さんに聞いた。

ガザ地区住民避難は極めて困難な状況

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手島さん自身もガザに滞在したことがあり、現在もガザに事務所があるということだ。現在、現地のスタッフの方と連絡はとれているのだろうか?

NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン 手島正之さん:爆撃が始まった当初は1日に40件ぐらいのテキストメッセージがありました。今は1日にメッセージが届くか、届かないか。連絡をしても既読にならず、返事があるのが1日たってぐらいという状況です。通信状況も壊滅的な状況ですが、この瞬間にも空爆が行われていますので、逃げなければいけない、またはいろいろな状況に対応しなきゃいけない中で、メッセージどころではないという状況だと思います。

現地のスタッフの状況は少しずつ入ってきていまして、1人は爆撃にあって、がれきに埋もれたんです。そこで子供たちを守りながら、やっとガザ中部にたどり着いたと、日本時間で15日午後3時時点で確認できています。

ガザ地区の住民の避難の状況について整理すると。

・先週金曜10月13日には、イスラエル軍から、北部に住む110万人以上の住民に24時間以内に南部へ避難するよう通告が出された。
・14日、午後4時から午後10時までという時間制限で、2つの避難ルートが設置された。
・そして15日に新たな避難ルートを設置。時間制限は午後4時から午後7時までとされた。

イスラエル軍は約60万人が南部に避難したと発表している。現地の方の感覚では、実際の避難の状況はどうなのだろうか?

手島正之さん:まず、この瞬間にも爆撃は止まっていません。爆撃は30分おきとかではなく、昼夜問わずひっきりなしに行われています。そういった状態で現地のスタッフと話をしまして、「今は逃げられない」と15日の時点で聞きました。爆撃がなかったとしても、がれきの山どころか、粉砕されている状態です。主要道路のみならず、ガザにいっぱいある小さな道が遮断されているんですね。だから逃げようがないと、スタッフから報告を受けています。

避難ルートが設置されているという話だが?

手島正之さん:避難ルートも爆撃がまだ行われているという話です。公式の発表では、爆撃はせず、その道を使えば安全に避難できると発表されていますが、実際には爆撃が終わっていませんし、避難できにくい状態です。

SNSではハマスが避難している人を邪魔しているという情報もあったが?

手島正之さん:これには注意が必要なんですけれど、現場ではそのような状況は確認ができません。命からがら逃げる人がほとんどです。誰が道をブロックしているとか、冷静に分析する状態ではない。とにかくがれきの山を避けて、なるべく安全に歩けるルートを確保するということだけで精いっぱいです。 この瞬間にも、モバイルバッテリーなどを使いながらコミュニケーションを取っている方が多いので、そういった方とやり取りをして、なおかつ自分の子供や家族も守りながら逃げていくという状態で、(伝わってきている情報については)注意が必要であると私は考えます。

「ガザ地区」 武力衝突によって「生きる術を全くなくした」状態

そもそもパレスチナの「ガザ地区」はどういった地区なのか。

・面積は365平方キロメートル、淡路島の3分の2ほどの大きさ。
・ここに約222万人が暮らしていて、世界でもトップクラスの人口密度。
・パレスチナ人が多く住んでいて、半数近くが14歳以下の子供。

NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン 手島正之さん:国連の発表によれば、もう2000人以上が亡くなっているとのことです。半分以上は子供であるということも想像できるんですけれども、大多数の子供が犠牲になっているというのは間違いないのかなと思っています。

ガザ地区は、武力衝突以前はどのような状況だったのだろうか?

手島正之さん:2007年からイスラエル軍による軍事封鎖が行われ続けています。軍事封鎖というのは人の往来、物の往来、緊急物資・医療物資、食料・水、そういったものの移動が極端に制限されています。そういった中で経済活動が停滞して失業する人がいて、そしてライフラインの確保も、戦争以前に危機があり、難しい状態であったと言えます。つまり人道の危機の状況にさらされている方が、さらに攻撃によって、生きる術を全くなくしたと言っても過言ではありません。

避難の話があるが、南部に避難したからといって、食料や水が確保されていないように思うが、仮に避難されたとして、その後生存していくことは相当大変な状況なのだろうか?

手島正之さん:たった今なんですけれどもテキストメッセージが偶然届いています。私がコミュニケーションをとっていたスタッフによれば、南部も爆撃にさらされているんです。もともと南部にもライフラインがありませんでして、水の確保や通電もガザ全部にはされていません。そういった状況にもかかわらず、南部でも爆撃が続いているということです。

(南部を爆撃しているのは)当然確認はできないんですけど、イスラエル側であると私は聞いています。ガザ地区を自らハマスが爆撃するとは考えられないです。

「ハマス」 慈善団体を持っていて政治団体の側面もある

今回の武力衝突のきっかけをつくった「ハマス」とは、ガザ地区を実効支配する武装勢力だ。欧米諸国からは“テロ組織”に指定されている。一方でガザ地区の住民には熱心な慈善活動を行っており、一定の支持があるとも言われている。ハマスの目的は、パレスチナ人によるイスラム国家の樹立だ。ハマスに対して、手島さんはどんな印象を持っているだろうか?

NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン 手島正之さん:ここで注意が必要なのが、ハマスは日本を含めた欧米諸国からテロ組織として指定されています。しかし慈善団体を持っていたり、あと政治団体であるという側面もあります。2007年のパレスチナの統一地方選挙によって、議席数を半数以上確保した経緯もあります。

関西テレビ 神崎報道デスク:ガザ地区で失業率が高かったりする問題を含めて、一部ハマスの統治に対して反対する人たちがいて、抗議デモが起こったりしています。またヨルダン川西岸地区にあるハマスの拠点をイスラエルに攻撃されて、ハマスのイスラエルへの感情は非常に悪くなっています。さらにサウジアラビアとイスラエルの関係正常化の動きがあり、アラブの盟主がイスラエル寄りになってしまうと、ハマスはアラブ社会で見放されてしまうのではないかという危機感があって、止めたいという状況で攻撃に踏み切ったのではないかという見方があります。

イスラエル、ハマス 双方の思惑

ハマスとイスラエルの対立が深まっているが、双方どんな思惑を持っているのだろうか?

関西テレビ 神崎報道デスク:イスラエル、ハマス、双方の目的を紹介します。
・イスラエル側 今回、境界線を超えてロケット砲による攻撃を受けた上に、自国民が拉致され、人質にされるというような状況。ここでハマスをせん滅させる。
・ハマス側 自分たちが攻撃したら何倍もの報復をされることを分かっていながら、あえて攻撃。ガザ地区の住民が被害を受けることによって国際社会に自分たちの状況を知らしめる。さらに少しでも世界を味方につけたいという狙いもある。
そのように思います。

地上侵攻は確実に行われる

イスラエルによる地上侵攻はいつになるのか、パレスチナ問題に詳しい慶応義塾大学の錦田愛子教授によると、「“地上侵攻”は確実にやる」として、その時期は早ければ16日夜にもと話している。

NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン 手島正之さん:うわさレベルもしくは現地の人の話では、もう昨日かおとといに始まってもおかしくなかったと、危機感が非常に迫っている状態です。この瞬間に何かが始まったとしても驚きではない、そこまで危機迫る状態であると私たちは考えています。

ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問を紹介する。

Q:日本はどうする?どこまで関与するべき?

NPO法人 パレスチナ子どものキャンペーン 手島正之さん:ハマスによる人質の解放、それと地上侵攻どころか爆撃含めた戦闘行為の即時停止、これらについて政治的な働きかけをさらに強めていただきたいと私は考えております。

Q:ガザ地区への支援がハマスへの支援につながる恐れはないのか?

手島正之さん:私どもはガザ地区での支援を35年近くやっています。現地の提携団体とともに医療行為、心理社会的サポート、子供の居場所の提供しています。その提携団体の選定、それから被益者つまりサービスを受ける側の方も、注意をして政治思想・宗教・その他の利益に全く左右されない団体を選定しています。人道支援に関しては現場でモニタリングもしていて、ハマスの支援につながる恐れがない形で支援していますので、問題ないと思っています。

地上侵攻は確実に行われるとみられ、予断を許さない状況となっている。

(関西テレビ「newsランナー」2023年10月16日放送)

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