藤枝東高校サッカー部などの宿舎として経営してきた藤枝市の“ホテルシルビア”が、2023年7月31日、約半世紀の歴史に幕を下ろした。同校の服部康雄 元監督とともに“シルビア”の藤枝サッカーへの功績を振り返る。

現役部員やOBの“第2の我が家”

ホテルシルビア外観
ホテルシルビア外観
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“シルビア”が開業したのは今から約50年前。菊川一夫 社長(80)と妻の千枝子さん(79)とで切り盛りしてきた。2人は知人の依頼を受け、1985年に静岡県立藤枝東高校サッカー部の生徒を自宅で受け入れると、1996年からは生徒たちの部屋を“シルビア”へと移す。そして2023年まで“藤枝の父母”として計158人の部員を見守り、支えてきた。

シルビアを切り盛りした菊川千枝子さん
シルビアを切り盛りした菊川千枝子さん

しかし、時代が流れる中で自前の寮を完備する高校が増えるなど経営が先細り、2023年夏での閉館を決意。それは苦渋の決断だった。ついに訪れた生徒たちとの別れ。悲しみに暮れる菊川さん夫妻に感謝を伝えようと、営業最終日の2023年7月31日、OBや現役部員ら約50人が集まり「ありがとうシルビアの会」が開かれた。

「ありがとうシルビアの会」集合写真
「ありがとうシルビアの会」集合写真

「藤枝サッカーを下支えしてくれた」

自身も藤枝東高校サッカー部のOBであり、日本代表で主将を務めた長谷部誠 選手(ドイツ1部:アイントラハト・フランクフルト)など数々のプロを輩出してきた名将・服部康雄 元監督もシルビアの閉館を惜しむ1人だ。服部 元監督とシルビアとの縁は、自身の高校時代にまで遡る。

インタビューに答える藤枝東高校サッカー部・服部康雄 元監督
インタビューに答える藤枝東高校サッカー部・服部康雄 元監督

藤枝東高校サッカー部・服部康雄 元監督:
県内の5支部が集まる国体の県選抜選考会が2日間にわたって藤枝で行われる際に、各支部の選手やサッカー関係者が宿泊させてもらったり、私の恩師・長池実 先生が、全国の中心に位置するサッカーの街・藤枝で始めた“春のサッカーフェスティバル”では、毎年3月下旬から4月上旬までの約2週間、配宿の中心として藤枝に訪れる多くのサッカー関係者たちを受け入れ、支えてくれていた。

その縁は、母校・藤枝東高校の監督に就任してから、さらに強いものになったという。

藤枝東高校サッカー部・服部康雄 元監督:
指導者たちがシルビアに集まって「これからどう静岡を、藤枝を強くしていくか」を話し合う、指導者や審判などの研修の場としても、菊川さん夫妻が快く場所を提供してくれた。コロナ禍の現在ではなかなかできなくなってしまったが、私自身、こうした場での先輩指導者との交流で学ぶものも大きかった。菊川さん夫妻がものすごくサッカーが好きだったから、県内外のサッカー関係者を進んで迎え入れてくれて、県外の指導者も「お世話になりました」と電話をかけてきたとも聞いている。

ありがとうシルビアの会でOBと談笑する菊川さん
ありがとうシルビアの会でOBと談笑する菊川さん

「功績を何らかの形で…」

静岡県内では2022年、静岡市清水区の旅館“日本閣”が閉館。名門・清水市立商業高校(現:清水桜が丘高校)時代の小野伸二 選手(北海道コンサドーレ札幌)、川口能活 氏(ジュビロ磐田GKコーチ)、名波浩 氏(日本代表コーチ)ら、元日本代表の高校生活を支えてきた旅館も、新型コロナウイルスによる業績悪化には抗えず、半世紀余りの歴史に幕を下ろしたばかりだった。

静岡の、そして地域のサッカー界の成長を支えてきた“常宿”の相次ぐ閉館。服部 元監督は「日本閣が清水のサッカーを支えたように、シルビアが藤枝のサッカーを支えてくれていた。寂しいが、これまでの功績が何らかの形で残るといい」と言葉を紡ぎ、さらにこう続けた。

藤枝東高校サッカー部・服部康雄 元監督:
(菊川さん夫妻は)生徒たちをただ泊めるだけではない、親と同等の対応をしてくれていた。遠征で帰りが遅くなると、JR藤枝駅からタクシーチケットを使わせてあげたり、体調が悪くなれば病院に付き添って診断結果を聞いてくれたり…。そして毎年、卒業の時を迎えると「(生徒を)預かるのが嫌ではなくて、別れるのが寂しいから、これで最後にしてほしい」と昔から私に何度も言っていた。それでも「藤枝東でサッカーをやりたい」という生徒たちがいる限り、我々の下支えを続けてくれていた。本当に感謝しかないし、シルビアを巣立った生徒たちは、一回りも二回りも大きくなった姿を、菊川さん夫妻に見せてあげてほしい。

シルビアでの最後の食事を楽しむ藤枝東サッカー部の現役部員
シルビアでの最後の食事を楽しむ藤枝東サッカー部の現役部員

シルビアでの3年間を土台に、医者になった者、教師になった者…OBたちはそれぞれの道を歩み続けている。社会に出て活躍するOBの姿も、シルビアの立派な功績の1つだ。そのうちの1人、服部 元監督曰く「入ってきた時はマッチ棒みたい(に細かった)」少年は、今やジュビロ磐田の大黒柱となり、「ありがとうシルビアの会」ではOBたちを束ねる発起人として、菊川さん夫妻に成長した姿を見せてくれた。

<服部康雄(はっとり・やすお)藤枝東高校サッカー部 元監督>
1956年4月28日生 藤枝市出身 県サッカー協会副会長・東海サッカー協会会長
選手歴:藤枝中学→藤枝東高校→筑波大学→県教員サッカー団芙蓉クラブ
    全国高校サッカー選手権:準優勝(1972年度・1973年度)
ポジション:MF

指導歴:湖西高校→庵原高校→静岡南高校→藤枝東高校

    藤枝東高校監督時代(1995年~2008年)
    全国高校総体:準優勝(2001年)
    全国高校サッカー選手権:準優勝(2007年度)ベスト4(1997年度)
    全日本ユース選手権:優勝(1998年)

長谷部誠・成岡翔・大井健太郎・岡田隆・赤星貴文・山田大記・村松大輔・河井陽介ら数多くの選手をプロに輩出した名将

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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