「カスタマーサクセス」。コミューン代表の高田優哉さんはこのキーワードに仕事人生を賭ける。単に「売りっぱなし」ではなく、購入したユーザーの体験を良くする為に様々な施策を継続する。

なぜ今、カスタマーサクセスに取り組むべきなのか?特集「スタートアップ・リポート」2022年末特大号として実施した、フジテレビアナウンサー山中章子との対談を通じ、コミュニティを活用した最新事例と共に紐解いてみたい。

雑談のなかで「これだ!」と思った瞬間

山中:コミューン株式会社をつくられたのは2018年ですが、御社が提供している同名のサービス「commmune(コミューン)」を始められたのはいつ頃ですか?

コミューン株式会社 代表取締役CEO 高田 優哉(たかだ ゆうや)
コミューン株式会社 代表取締役CEO 高田 優哉(たかだ ゆうや)
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高田:有料で提供を開始したのが2019年のはじめです。なので、うちはまだピヨピヨの会社です。

山中:ピヨピヨ(笑)。ですが、ご実績はすでに出されていますね。コミューンを始める前までは何をされていたのですか?

高田:私は2014年にコンサルティング会社に入り、以後、戦略コンサルをしていました。しかし、もともと起業するつもりでしたので、4年間勤めたのちに会社を“卒業”。サプリメントの通販ビジネスを立ち上げました。でも、半年で終わってしまいました。

山中:えっ。こう言っていいのかわかりませんが、かなり短いですね。

高田:「自分たちが人生を賭けてやるものではないかも」と心が揺らいでしまったんです。起業って、じつは始めるのは簡単で、数万円あれば誰でも登記してスタートできる。でも、事業を継続するのは難しい。特に、うまく行けば行くほど途中でやめられないし、うまく続くことが前提になってきて、さらに止まれなくなる。

そのときに「情熱」というか「気持ち」が揺らいだらマズいなといいますか…。ほんとうに大事なのは、「その事業で何かに本気で貢献したい」という気持ちなんだと学びました。戦略コンサルをやっていましたが「最後は気持ちだ」と(笑)。

山中:でも、起業しなければその気づきとも出会えなかったのですよね。その後、どのようにコミューンの事業に至るのでしょうか。

山中章子(フジテレビアナウンサー)
山中章子(フジテレビアナウンサー)

高田:最初は正直、やることがなくなってしまって(笑)、共同創業者とホワイトボードに向かって「何かできることはないか」と議論しました。2、3カ月くらいそれを続けたんです。そのなかで、ある日ふとしたことからサービスの種が見つかりました。

共同創業者の橋本翔太がSoup Stock Tokyoをすごく愛好していまして。ある日、雑談のなかで彼が「(おれは)プロ顧客だから、プロの客として、やっぱりオペレーションはここをこう改善して、シフトはこうして、この限定メニューはこうすればもっとおいしいよねって言いたい」と語ったんです。

「でも、その意見をどうすればSoup Stock Tokyoに伝えられるかがわからない」「サービスを良くしたいのに、うまく貢献できないんだよね」と。その瞬間、私は「これだ!」と思いました。

山中:と、言いますと…。

高田:サービスの改善って、会社のなかにいれば意見を伝えやすいですけど、一消費者から伝えるのって難しいんです。カスタマーセンターに電話しても、クレームとして処理されてしまうことも。でも、ほんとうは消費者が「何が良いか」を一番わかっているんですよね。その意見を活かさない手はない。

一方で、確かに私たちがサプリメントの通販事業をしていたときも、わずか100人くらいのお客さま対応ですら大変でしたから、「ご意見をサービスに活かす」ところまで至らないことは想像できました。

それなら、お客さまと密にコミュニケーションして、お客さまと共にサービスを改善する「共創関係」を築けるプラットフォームができたらいいなと思ったんです。で、この企画をダメ元で知り合いの経営者たちに持っていったら、すごく反応が良くて。

山中:みなさんも同じ課題感を持っていらっしゃったんですね。

高田:サプリメントのときは頭を下げてようやく試してくれるくらいだったのに(笑)、こちらはみなさんグイグイ来る。それで、新規事業を立ち上げました。

お客さまと企業の共創コミュニティ

山中:改めてコミューンとはどのようなサービスなのでしょうか。

コミューンを導入したユーザーコミュニティ「BASE FOOD Labo」
コミューンを導入したユーザーコミュニティ「BASE FOOD Labo」

高田:キャッチフレーズは「企業とユーザーが融け合うコミュニティサクセスプラットフォーム」です。サービスを使ってくださるお客さまと提供企業が垣根を越えて、それこそ「溶け合う」ようにコミュニケーションを行える、そんなコミュニティを創出・運用できるプラットフォームをつくりました。

また、私たちはコミュニティ運営を何度もしてきているので、その知見をベースに、コミュニティをうまく動かすためのアドバイスもご提供します。

山中:いま、ユーザーコミュニティってすごく求められていますよね。

高田:そうなんです。でも、企業側からすれば「お客さまと『共創』はしたいけど、どうやったらいいのか、どんな場所をつくって、どう運用したらいいのかがわからない」という状態で。だから、その課題に応えるものとして弊社のサービスができました。いわゆる「カスタマーサクセス」という仕事ですよね。

山中:カスタマーサクセスという言葉がでましたが、どのような意味なのですか。

高田:シンプルに言えば、「(商品を)売った後のお客さまの体験をめちゃくちゃ良くすること」です。従来の企業の活動は「買ってもらうまで」がメインでした。どうやって購入してもらうか。どうすれば興味を持ってもらえるか。そこは科学されてきた。でも、私は「買ってもらうこと」がゴールではないと思っているんです。仮にお客さまが1個商品を買ってくれて、「微妙だな」と思ったとします。

すると、そのお客さまが「ふたたび買う」ということがなくなってしまう。でも、買ったあとのフォローをしっかりやれば、その「1個買ってくれた」の「1個」が「10個」や「100個」になるかもしれない。ここがカスタマーサクセスの活きるところです。

特に日本は人口が減っています。新しい顧客自体が生まれにくい環境になっていっている。なのに新しいお客さまを開拓するために興味を引こうとしても、難易度はどんどん上がるだけです。コストもかかる。

山中:確かに…。

高田:「それよりは、1個買ってくれた人を放置するんじゃなくて、もう1個買ってもらえるようにした方が良くないですか?」というのが発想の起点です。経済合理性とか収益性の観点から見ても、カスタマーサクセスはこれから重要度が増してくると思います。

山中:実際にいろいろな企業がコミューンを導入されています。反響はいかがですか?

高田:最初に導入を決めてくれた完全栄養食を提供するベースフードは、現在まで3年半ほどコミューンを利用し、コミュニティを10人、100人から2万人規模にまで広げました。そこでは、ベースフードについて「どうしたら毎日継続して楽しく食べられるか」とか、「ラーメンを食べたかったけど、こっち(=完全栄養食)を食べました!」みたいな発信が共有されています。食生活や健康の改善につながったというユーザーさんも出て、喜んでいただいています。

山中:そういったお手伝いを、これからもっと続けていきたいと。

高田:はい。じつは弊社には、日本の競合会社がほとんどいなくて、世界的に見ても競合と呼べる企業は弊社と同程度の規模感のところしかないんです。いま、そのなかから「どこが抜け出すか」の勝負をしている。ここが弊社の事業のおもしろいところです。ほとんどのスタートアップは海外に先進事例がありますが、うちは市場づくりからやっている。刺激的で好奇心も満たされる仕事です。

「カスタマーサクセス」を「マーケティング」と同じ知名度に

高田:とはいえ、日本の市場には、カスタマーサクセスという言葉を聞いたことがあるという人が少ない現状があります。

山中:まして、意味がわかる人となると…。

高田:もっと少ないです。まずは、「マーケティング」と同じくらい「カスタマーサクセス」があたり前になる世の中をつくりたいです。究極を言えばコミューンはその一手段にすぎません。

我々のサービスが使われるか否かはもちろん大事ですが、私たちはあくまでも黒子で、もっと大切なのは「カスタマーサクセスを通じて成功する企業がたくさん出ること」「(企業がより)お客さまに目を向けて、お客さまを大事にするという状況が生まれること」なんです。カスタマーサクセスの概念がさらに広まれば、より良い社会になると思っています。

山中:ゼロからイチをつくるお仕事をされている高田さんですが、幼少のころから特有の性格をお持ちだったのでしょうか。

高田:私は岩手県野田村という人口が4000人くらいの村で育ちました。で、人口がそれしかいなかったからか、「自分はすごい子なんじゃないか」って、勘違いするんです(笑)。外国人なんていないし、世界について知る機会もまずない田舎でしたから、世界に対して逆に興味が出たという感じでした。

そんな環境の中である時、中学校の先生から「ノブレス・オブリージュ」という言葉を教わります。家庭や資質にめぐまれた豊かな人は、世のなかを良くするために人生を使うべきだという話なのですが、これが胸に残って、私は国連を目指すようになりました。

山中:中学生の段階で、そのような言葉と出会っていたのですね。

高田:ところが、大学4年生のときに国際機関のインターンシップに参加をして、私はある結論に至ります。当時は食料廃棄の問題をレポートする仕事に携わっていました。そこで正論だけでは社会を変えられないと思ったんです。

何かが抜け落ちているのではないかと。それは何か。私は「お金だ」と考えました。たとえば「地球環境のために食べ物を捨てないように」と言っても、話を聞いてくれない人はいます。そんな人であっても、「食料廃棄を何キロ減らしたら、5万円あげます」と言われたら、おそらく変わるでしょう。

山中:確かに、報酬があると変わるかもしれません。

高田:要するに、お金を力にして世のなかを変えるのもアリだと思ったのですね。そこで、進路を国連から変更して、最終的にボストンコンサルティングという企業に入りました。ビジネスを学び経験を積んだら、起業しようと決めていました。

山中:人生の岐路に立ち、方向転換をしていく高田さんに対して、ご家族や周り方の反応はいかがでしたか?

高田:おそらく家族は、私が地元にずっといたら「もったいない」と思っていたのでしょう。親からは「絶対に地元に残るな」と言われていました。加えて「その後も絶対帰ってくるな」って(笑)。あえて退路を断ってくれた。そのおかげでいろいろなチャレンジができたと思うので、すごく感謝しています。

その恩返しとして“外”で活躍したいです。大リーガーの大谷翔平選手に並ぶような知名度を目指したいですね(笑)。同じ岩手出身なので、商談のアイスブレイクでよく彼の話をするんです。彼ぐらいになれれば、親孝行になるかなと思っています。気持ちは大きく持っています。

<インタビューを動画で見る>

制作:プライムオンライン編集部

山中章子
山中章子

先入観を持たず、何事もまずやってみる、聞いてみる。そして、そこから考える。気力は体力で補う、体力は気力で補う。人間万事塞翁が馬。人生何が起きるかわからない。

フジテレビアナウンサー。2009年入社。現在「とくダネ!」、「めざましどようび」、「FNNプライムニュースデイズ」(週末)、「週刊フジテレビ批評」など担当。2015年からFNSチャリティキャンペーンに携わり、マダガスカル、トーゴ、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを取材、系列局などで講演会も行う。