特集は物流の2024年問題のその後。トラック運転手の時間外労働の新たな規制が4月、スタートした。主な規制は「時間外労働は年960時間まで」「1日の拘束時間は原則13時間以内(最大15時間)」といった内容。運転手の長時間労働を防ぐのが目的だが、同時に輸送力の低下や担い手不足などの影響も懸念されてきた。これが2024年問題。規制が始まって1カ月。運送会社の運転手に密着し、2024年問題の今を取材した。

時間外労働の規制
時間外労働の規制
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「行けるところまで行きたいが…」 拘束時間にらみながら

長野県小諸市の運送会社「まるひろ」。

食品から精密機械まで、さまざまな荷物を全国に運んでいる。

運転手は28人。

運送会社まるひろ(長野県小諸市)
運送会社まるひろ(長野県小諸市)

その一人、大池佑弥さん(37)が10トントラックに乗り込んだ。

午後3時過ぎ、本社を出発。

午後3時過ぎ、長野県小諸市の本社を出発
午後3時過ぎ、長野県小諸市の本社を出発

東御市で荷物を積み翌日、茨城県の食品工場に届ける業務。

大手運輸会社の倉庫で食品の加工品を積み込んで、上信越道へ。

目的地は茨城県の取手市だ。

長野県東御市で荷物を積み込む
長野県東御市で荷物を積み込む

食品工場がある取手市までは約230キロ。さほど長距離ではないが、既に午前中から働いているため、途中で9時間ほどの休息を取ることになっていた。初日の高速道の運転時間は2時間ほどにしかならない。

大池さんは「気持ち的には、正直、行ける所までは行きたいというのはありますね」と話した。

4月からの「改善基準告示」で1日の拘束時間は「原則13時間以内」、休息時間は「9時間以上」と決められており、これらを守らなければならない。

改善基準告知(2024年4月~)
改善基準告知(2024年4月~)

残業削減で「もう稼げなくなるかと…」

大池さんは小諸市出身で、運転手になって約20年。全国を飛び回る仕事を気に入っていて、やりがいも感じている。
「これぞ働く車。いろんな県に行けるというのもあるし、いろんな県のことを知れるというのが一番面白い」と話す。

長時間労働を防ぐ今回の規制については、「もう稼げなくなるかなと最初に聞いた時は思いましたね。(時間外労働の)上限が決まっちゃうので。うちは社長がちゃんと働きかけてくれているので、(給料は)変わらないようにという形になっている」としている。

運転手になって約20年 大池佑弥さん
運転手になって約20年 大池佑弥さん

2024年問題見越して、社長が取引先と料金交渉

2024年問題では長時間労働が改善される一方、結果的に時間外の手当が削減されて賃金が減り運転手を辞める人が増えるのではとの指摘がある。

1人当たりの輸送力も低下するため、運送会社にとっては「人材確保」と「賃金の維持」が大きな課題。

「まるひろ」の中込裕幸社長は「『1週間に5回、関東に走れました。だけどもう4回しか走れません』となれば、やっぱりドライバーさんの給料は少なくなってしまう。全体の物量も今までのようにこなすことがちょっと不可能になってしまう。そこが一番やっぱり大きい」と話す。

2024年問題を見越して、中込社長が力を入れてきたのは取引先との料金交渉。2023年4月から地道に交渉を重ね、5~10%、運賃を上げることができたと言う。

中込社長は「直接(取引)のお客さんが多いが、運賃を交渉しながら、高速代も含めていただくようにしているので採算は何とか保っている」と説明している。

まるひろ・中込裕幸社長
まるひろ・中込裕幸社長

「荷持ち」に時間 社長も以前から改善したいと考え…

中込社長も元は運転手。実は以前から長時間労働は何とかしたいと思っていた。

運送業界では、荷物を運んだ近くで帰りの荷物を積んで戻るのが一般的だった。その方が効率が良く収益も期待ができるからだが、いわゆる「荷待ち」に時間がかかり、長時間労働の原因になっていた。

「まるひろ」は以前から、帰りの荷物を積むことなく戻る運行に取り組んでいる。規制に支障なく対応できているのは、1度の荷下ろしで採算が取れる「下地」があったからとも言える。

「まるひろ」は以前から長時間労働の改善に取り組む
「まるひろ」は以前から長時間労働の改善に取り組む

中込社長は「やはりどんな状況でもトラックが好きだという子はいる。そういう若い子たちを育てていくためにも、なるべく家に帰ることができる、そういうもの(会社)をつくってみたかった」と振り返る。

会社の方針に大池さんは「ドライバーファーストでやってもらっている。ドライバーを大切にしてくれてるなと分かるので、そこはうれしい」と話した。

SAで休息 他の運転手からは規制に疑問の声も…

午後5時半、トラックは関越道の高坂サービスエリアに到着。

午後5時半、高坂SAに到着
午後5時半、高坂SAに到着

ここで夕食と休息。「ご飯食べて、携帯いじったりして、寝る」という。

約1時間後、店から出てきた大池さんは、スマホで撮った夕食の「生姜焼き定食」を見せてくれた。

この日の夕食
この日の夕食

トラックに戻り、「おやすみなさい」と言って、運転席後ろの仮眠スペースで体を休めた。

仮眠スペースへ
仮眠スペースへ

夜のサービスエリアは多くのトラックが駐車していた。

人手不足の中、始まった規制。

ある運転手に声をかけると、「無理があるんじゃないですかね。(運転手不足で)荷物が余って、持っていけない荷物があるのに。今度それで時間が制限されて、なおさら荷物が余る状態になるから」と規制を疑問視した。

高坂サービスエリアに多くのトラックが…
高坂サービスエリアに多くのトラックが…

ドライバーの本音は… 「国はもっと寄り添って」

9時間後の午前3時前-。

「おはようございます。これで出発です」と声をかける大池さん。

午前3時前、再び出発
午前3時前、再び出発

7時間程度の睡眠をとってトラックは取手市へ。

高速道を降りて一般道を走り午前4時半ごろ、目的地の食品工場に到着した。

受付は6時半から。それまで工場の敷地内で待機だ。

目的地の食品工場に到着
目的地の食品工場に到着

荷物を下ろして工場を出てきたのは午前7時半だった。

「これで会社に戻ります」と言って帰路へ。

荷物を下ろして帰路へ
荷物を下ろして帰路へ

今のところ会社の取り組みもあって、仕事に大きな変化はないと話す大池さん。

ただ業界全体に「変化の波」が押し寄せていることには「どの稼業もつらい部分はたくさんあると思うけど、もうちょっと国が寄り添って、荷主さんにも、国からちゃんと働きかけてもらいたい。あと下ろし先ですよね。ちゃんと下す時間がかからないように」と話した。

茨城県取手市から長野県小諸市の会社へ
茨城県取手市から長野県小諸市の会社へ

帰りは休憩を含め約5時間。午後1時前、会社に到着した。

女性スタッフから「お疲れさまでした」と声を掛けられ、業務は終了した。

会社に到着 業務終了
会社に到着 業務終了

輸送力低下の兆し 社長は業界の今後に危機感

規制が始まって1カ月。今、中込社長が心配しているのは一般消費者への影響。実際、業界の輸送力低下の「兆し」を感じ始めている。

「当社にも『今まで頼んだ業者さんが運べないので運んでもらえないか』という問い合わせがある。配送時間が翌日に着いていたというところも翌々日になってしまうとか、そういう一般の消費者の方に影響が出てくると思う。1社1社が単独でつくり上げられるものではない。荷主さんも絡む話。少しでも賃金の交渉の場に立っていただけることも考えていただけるとありがたい」と語った。

トラック運転手の時間外労働の新たな規制が4月からスタートした
トラック運転手の時間外労働の新たな規制が4月からスタートした

(長野放送)

長野放送
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