秋のアメリカ大統領選挙に向けた野党・共和党の候補者選びは大きなヤマ場となるスーパーチューズデー。

トランプ氏の勢いが止まらない。ガチでトランプ氏が大統領になる「ガチトラ」の未来は訪れるのか。

アメリカ政治に詳しく、現地で取材中のキヤノングローバル戦略研究所・主任研究員の峯村健司さんの解説。

共和党候補者争い スーパーチューズデー結果
共和党候補者争い スーパーチューズデー結果
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■「強い」マジでトランプ氏が大統領になるかも…“マジトラ”

Q.10日ほど前には「もしトラ」=もしかしたらトランプさんが、大統領になるかも…という状況から、「ガチトラ」=ガチでトランプさんが大統領になりそうなところまで情勢が変化しているとおっしゃっていましたが、スーパーチューズデーを取材してみて、実感はさらに変わりましたか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
ちょっといい言葉が出ないのですが、“マジでトランプ”っていう感じです。ガチよりも、ちょっと上がってる。“マジトラ”という感じがします。本当に『強い』の一言です。
 

Q.想像以上でしたか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
想像以上です。もう少しヘイリーさんが2~3州は取るのかな…という見立てもありましたが、トランプがほぼ圧勝。アメリカメディアは『独占した』というぐらいに言っていました。

■アメリカ国民は「国を変えてくれる」とトランプ氏に熱い期待

トランプ氏が圧倒的な強さだったというスーパーチューズデー。まず今回の予備選の結果を見ていく。

スーパーチューズデー前までトランプ氏が9勝、ヘイリー氏が1勝という状況。
今回15の州で争われたスーパーチューズデーでは、日本時間6日午後4時20分時点で、トランプ氏がさらに13州で勝利を確実にしている。これによって共和党の候補者としての指名が決定する間近のところまで来ている。

Q.スーパーチューズデーの勢いが大統領選にもつながるともいわれますが、取材を通してトランプ氏が圧勝した理由はどこにありますか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
私は今、ワシントンにいますが、隣のバージニアで選挙があったので見てきました。実際に見ても、有権者に聞いても、トランプさんは移民問題など国民が感じている不満を変えてくれる、アメリカを変えてくれるといいう、熱い期待を持っている人が多くいました。

Q.指名獲得に間違いナシという状況になるのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
指名獲得はおそらく時間の問題だと思います。ヘイリーさんは、まだやめないと言いましたが、実際、7日以降の予定は入ってないらしいです。

Q.ヘイリー氏の撤退は余儀なくなると?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
私はありえると思っています。

世論調査でバイデン大統領を上回るトランプ氏
世論調査でバイデン大統領を上回るトランプ氏

■民主党は「バイデン氏が高齢すぎる、ニューリーダー不在」

バイデン大統領対トランプ氏による大統領選という構図が、濃厚になってきたが、現状ではどちらが優勢なのだろうか。

世論調査では、バイデン大統領が支持率45.5%。トランプ氏は支持率47.5%とわずかではあるが、トランプ氏がバイデン大統領を上回っている。

この結果を受けて、「トランプ氏が強いのではなくバイデン氏が弱すぎる」と峰村さんは指摘する。

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
アメリカに来るまでは、トランプさんがすごく強いのだろうという印象で来たのですが、実際の話を聞くと、バイデンさんが弱いというか、頼りないという声が非常に強かったです。ホワイトハウスの知人の何人かにメールをしたら、もうホワイトハウスにいないんです。辞めてしまっていて、任期を待たずに辞めて、新しい仕事を探している方も結構いました。そういうことを考えると、もう泥船になっていて、そこから早く逃げようという人がいるのは、末期症状かなと思いました。

ピンチの理由「高齢」 
ピンチの理由「高齢」 

Q.バイデン大統領のどのようなところに周囲は不安を感じているんですか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
1番は年齢です。年齢が高齢という問題があって、今でも演説でも結構、言い間違えたりします。そのような状況で、さらに4年は、とても持たないのではないかと、民主党の中の人でもかなり懸念しています。

Q.バイデン氏は81歳で、有権者の86%もバイデン氏の続投については、2期目にはちょっと高齢すぎるのではないかという意見を持っています。トランプ氏も決して若い候補者ではないと思うのですが、バイデン氏に代わる民主党のニューリーダーは出てきていないのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
民主党の人たちもそこは反省しなきゃいけないと思う。やっぱりバイデンさんぐらいの世代の人が、ほとんど独占してしまっています。ニューリーダーをまだ育てていないのです。だから結局、『バイデンさんだ』となってしまっている状況で、本当に深刻な問題だと思います。

ピンチの理由「移民政策」
ピンチの理由「移民政策」

■増加するホームレスや移民 身の危険を感じるほどの治安悪化

Q.移民問題への不安は感じましたか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
本当に多いです。移民の方というよりも、いまワシントンでも、ホワイトハウスから歩いて10分ぐらいのところに、ホームレスの人たちが行くところがなくてテントを作っています。話を聞くと、もともとニューヨークにいた人で、移民の方とかもニューヨークはもうシェルターとかがないので、ワシントンに出てきていると。そういう方々も含めて、治安が悪くなっていると感じます。

Q.発砲事件が起きたり、治安が悪化したり、そのような状況が続いて、薬物中毒者が増えているという状況と聞いています。

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
2023年の秋にニューヨークに行った時、新型ドラッグのフェンタニルを吸っている人と思わしき、(フェンタニル中毒者は)ゾンビのような人が、街の中に結構いました。昼間でも1人で歩いていると、『ちょっと危ないな』と危険を感じるぐらい、治安は悪化していたように感じました。

■移民政策で批判されるバイデン大統領

Q.共和党のトランプ氏が移民のことを侵略者だというのは分かりますが、民主党からすると、移民は労働者になるとして、ある種受け入れられてきました。それすらいま、支持者の中では揺らいでいるのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
民主党支持者の大多数は移民を支持しています。しかし民主党支持者の中でも、比較的所得の低い方は、労働力としてではなく、むしろ治安面でネガティブに捉える人も結構います。

Q.「移民が増えること」と「治安の悪化」は、直接的に結びついているのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
それは本当に分からないところで、データが取りづらいところがあって、トランプさんが結構そこをあおって、『だからダメなんだ』と言っている部分もあり、そこは一歩ひいてみないといけないと思います。私が定点的にワシントンに来て見ているだけでも、ホームレスの数は増えているので、あながち無関係でもないのだろうな…と。共和党・民主党問わずに行われたハーバード大学の調査『バイデンさんの政策何が一番ダメですか?』では、40%のトップで移民政策だと批判されていました。これは大きいと思います。

Q.バイデン大統領がこういった不安を一掃する策はあるのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
バイデン陣営の人に聞いても、『う~ん』という感じで、あまり施策がある感じではない。

Q.トランプ氏は演説の中で、強制送還も考えるといった発言をしましたが、不法移民3年連続で過去最多となる250万人に迫るという数なのですが、策というのは現実的なのでしょうか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
バイデンさんも、元々トランプさんが言っていたような壁を作らなきゃいけないとなるとブレてるんですよね。そうなると、『結局トランプさんが正しかったんじゃないの』となりつつあるということです。

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん
キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん

■“マジトラ”ならロシアのプーチン大統領は大喜び

Q.トランプ氏は安倍元首相と仲が良かったが、他に仲の良い人はいるのですか?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
トランプさんの側近の人に聞いたところ、とにかく強いリーダーが好きらしいです。それで言うと、ロシアのプーチンさんはお友達です。あとは中国の習近平さんもだしイスラエルのネタニヤフさんとか。そういう方がお好きな感じです。

Q.トランプ氏が大統領になれば、喜ぶのはプーチン大統領では?

キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん:
正直、喜ぶと思います。1期目の時、ワシントンでトランプさんを見ていると、プーチンさんと仲がいいんです。今回はアメリカが行っているウクライナ支援を止めると言っていて、プーチンさんにとってはすごくありがたいことです。さらにはNATO(北大西洋条約機構)も見直すと言っていて、北大西洋条約機構は完全にロシアを見張るものですから、プーチンさんにしてみれば、“マジトラ”だったらうれしいでしょう。

(関西テレビ「newsランナー」2024年3月6日放送)