岸田政権が発表した「異次元の少子化対策」の一つ、3人以上の子どもがいる家庭の「大学無償化」。子育て世代が注目する政策は少子化の改善につながるのか? 
女性の起業支援や保育園事業、母親の地域コミュニティを運営する株式会社エルパティオの川﨑暁子代表取締役とともに、愛媛県内で2組の双子を育てる家庭を例に考える。

“大学無償化” 県民の受け止めは…

岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の中でも、子育て世代が注目したのが「多子世帯の大学無償化」。

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内容は、2025年度から「3人以上の子どもがいる世帯に対し、所得制限なしで無償化する」というものだ。
この政策について、愛媛県民はどう思っているのだろうか。

1歳の子どもがいる30代の夫婦:
あまり期待していないかな。まだ1人目ですし、3人目というと、まだ僕らは関係ないかな

また、ある高校3年生の同級生同士はこの春、同じ県内の専門学校に進学予定だが、無償化の「対象」と「対象外」の違いが生じている。

4人きょうだいの高校3年女子【“無償化”対象】:
親はちょっと楽になるのかなと思います

3人きょうだいの高校3年女子【“無償化”対象外】:
私は18歳で、上の2人は20代なので対象外で…

また、2人の子どもを持つ夫婦は「いいんじゃない。3人以上というのがあるから、2人でも適用されたらよかったのに」と話し、高校1年生の女の子を持つ母親からは「うち一人っ子なので。見た瞬間『あ、だめだ…』って。がっかりですね」といった声が聞かれた。

こうした声について、女性の起業支援や保育園事業、母親の地域コミュニティを運営する株式会社エルパティオの川﨑暁子代表取締役は、「対象になる方にはすごくよい制度だと思いますが、それぞれの立場で思うところはあるようですね」と語った。

では、実際に3人以上の子どもがいる子育て世代がどう感じているのか。2組の双子を育てる愛媛県内のある家庭を取材した。

幸せなW双子家族が感じる“負担”

5歳と1歳、2組の双子を育てる愛媛のWツインズファミリーを訪ねた。

会社員の涼平さん(34)と、フリーのグラフィックデザイナーの美弥さん(32)の両親に、二卵性の女の子の双子、いとちゃん(5)とうたちゃん(5)。そして、1歳5カ月の妹のももちゃんと、弟のはるたくんの双子の6人家族だ。

以前取材した際は、まだ生後8カ月だったももちゃんとはるたくん。2023年4月の保育園の入園初日には、大泣きしていた二人もすっかりお兄さん、お姉さんになった。

二人について美弥さんと涼平さんは、「成長しましたね。別人っていったらあれやけど。歩いて、何なら走ってます、前のめりで」「訳のわからんことをしゃべりながら走ってる。かわいい時期ですね、大変ですけどかわいい」と話してくれた。

また、いとちゃんとうたちゃんについても、美弥さんは「めっちゃ成長。お姉ちゃんとしての自覚が芽生えて、めっちゃお世話もしてくれる」と話し、涼平さんは「お姉ちゃんの成長の方が感じられるかな」と、その成長ぶりを語った。

親にとって子どもたちの成長は何よりも幸せだが、それとともに日々の出費が増えていくのも避けられない現実だ。

母・美弥さん:
めっちゃ食べるんですよね。上の子も食べるし、もも、はるがご飯とかモリモリ食べるし、すごく…いいよね。いいけど、ちょっと不安よね

ときには5合炊きのご飯を1日で食べきる日もあるという。

母・美弥さん:
こっからの食費どうなるんやろ?みたいな

父・涼平さん:
食費…そうね。支出が増えていって、物価が高くなっていって、もうそれ以外で貯金している余裕が本当になくて大変ですね

歓迎の一方で“条件”のため恩恵が…

そんな子育て世代の負担軽減を目指し、岸田首相が2023年12月11日に打ち出したのが「異次元の少子化対策」だ。

こども未来戦略会議で岸田首相は、「社会全体で、子ども・子育て世帯を応援する機運を高めていくことが必要です。スピード感をもって実行に移してまいります」と述べている。

「こども未来戦略」と名付けた具体的な施策は、出産費用の保険適用の検討、児童手当について保護者の所得制限を撤廃し、中学生までだった支給対象を高校卒業まで延長することなどが盛り込まれている。
特に注目されたのが、「大学など、高等教育の入学金と授業料の無償化」だ。

2025年度から、「3人以上の子どもを扶養している世帯」については、大学の入学金が「国公立で28万円」、「私立で26万円」を上限に補助し、授業料は年間で「国立大学で54万円」、「私立大学で70万円」を上限として補助。短大や専門学校についても適用され、親の所得制限はない。

これが実現すれば将来、いとちゃんとうたちゃんが国立大学に入学した場合、1年目だけで、入学金2人分56万円(28万×2)と授業料108万円(54万円×2)、合わせて「164万円」が浮くことになる。

夫・涼平さん:
「いいじゃん、すごいね」って感じですけど、子どもが大学に行く時、本当にその制度が続いているのかもわからんし、ちょっと先すぎるなーっていうか

しかも、この制度には「扶養している子どもが3人以上」という条件がついている。

いとちゃんうたちゃんと、ももちゃんはるくんはちょうど4歳差。いとちゃんうたちゃんが卒業して就職し、両親の扶養を外れると、下の二人が大学入学のタイミングで無償化の恩恵を受けられなくなる。

この点について涼平さんは、「うちで考えた時に、上の子二人が“無償化”になるのは当然ありがたいですけど、『あ、下はいかんのや』みたいな。『なんで?』みたいな」と戸惑った様子だった。

そして、この大学無償化が「少子化の改善につながると思うか」どうか尋ねたところ、涼平さんは「じゃあ今2人おるところが、『大学無償なんやったらもう1人産もうか』ってなるか?って感じですよね」と話していた。

また、美弥さんは「1人産むのも大変な人とかが多分、たくさんいるから。産みたいけど産めない人とかもいるから、そこに対しての援助があった方がいい。多子世帯には多子世帯の援助があっても、私たちはありがたいし、いいとは思うけど、1人を持つっていうハードルをもっと低くしてあげた方がいい気がする」と指摘した。

「子育て支援」に向き合い始めた国

ーー2組の双子を育てる愛媛の夫婦の「大学無償化」についての率直な声、川﨑さんはどんな風に感じた?

母親と女性を取り巻く課題に詳しい 川﨑暁子さん:
1人を産むのって本当に大変だし、一歩を踏み出す勇気を持ってもらうためにも、1人を持つための施策をというところがすごく共感できるなと思いました。また、高校生と話をする機会があり、「大学を諦めようと思っていたが、この施策ができることで、もしかすると行けるかもしれないからありがたい」という話を聞きました

W双子ファミリーの声をまとめると次のような意見だった。

「無償化はありがたいが、小さい子どもがいる家庭は「大学」というと遠く感じる」
「いきなり第3子からではなく、まず子どもを1人を持つことへのハードルを低くする方が少子化対策になるのでは?」

さらに、厚生労働省2022年国民生活基礎調査の概況によると、18歳未満の子どもを持つ世帯のうち、子どもが3人以上いる世帯はわずか12.7%、一方で子どもが1人だけの世帯は半数を占めている。

愛媛県内でも様々な声が聞かれる一方で、長年、子育て支援に携わってきた川﨑さんは少子化という課題の下、「子育て支援」に国が本気で向き合い始めた点を前向きに受け止めている。

母親と女性を取り巻く課題に詳しい 川﨑暁子さん:
17年間子育てに関わる仕事をしてきた中で、国が子育て支援をもっとやっていかなければいけないと思ってくれた一歩は、ありがたいなと感じています

大学無償化を含む「こども未来戦略」の実現には、全体で3.6兆円程度の予算が必要だ。
財源としては、歳出削減などをすることで「新たな税負担は求めない」とする一方、約1兆円分は公的医療保険に「上乗せ」する形で徴収する方針だ。

(テレビ愛媛)

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