上皇さまは、23日、88歳の誕生日を迎えられた。宮内庁が、上皇さまの近況について発表した。以下、全文。

上皇さまは、新型コロナウイルスの感染拡大により、この1年は皇居にある宮内庁病院と生物学研究所以外へのお出ましを控えられ、仮御所で上皇后さまと静かにお過ごしになりました。
幸いご体調に大きな問題はなく、お健やかに穏やかな日々を送られています。

12月7日 仙洞仮御所
12月7日 仙洞仮御所
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上皇さまの毎日のご生活はとても規則正しく、定時にご起床、ご就寝になり、お食事をなさいます。ご起床後は上皇后さまとお庭をご散策になり、朝食をお済ませの後は、上皇后さまと寺田寅彦の「柿の種」を音読なさり、新聞をご覧になります。 その後、上皇后さまとご一緒に、侍従等から国内外の新型コロナウイルスの感染状況、自然災害の発生状況等について説明をお聴きになり、社会と人々の様子に思いを致されながら、国内外で起こる日々の出来事についてお話になっています。
午後は、月曜日と金曜日は生物学研究所からのお戻り後になりますが、上皇后さまと暫くおくつろぎの後、タ方のご散策にお出ましになります。ご散策の途中では、それぞれの職場前でお迎えする上皇職や皇宮警察の職員と挨拶を交わされ、時には、道路を隔てたマンションの人々とも挨拶を交わされます。午後の合間には、側近から報告等をお受けになるほか、献上のあった各種の資料や本にもよく目を通していらっしゃいます。先日は、御即位20年の折に、上皇さまのお考えから那須御用邸の一部を環境省に移管して整備された「那須平成の森」開園10周年の記念誌を丁寧にご覧になり、お喜びのご様子でした。
ご夕餐後は、上皇后さまのお勧めで、侍従とお話になることを日課となさっており、アルバムなどをご覧になりながら、 昭和28年に昭和天皇のご名代として、英国エリザベス女王陛下戴冠式にご出席になった折のアメリカ、カナダ、ヨーロッパ14か国ご訪問等についてお話になっていらっしゃいます。

3月31日 仙洞仮御所
3月31日 仙洞仮御所

上皇さまは、上皇后さまとご一緒に、ご即位前とご即位後にそれぞれ全国を2巡(平成5年の香川県行幸啓のみ上皇さまお一方) され、 ご即位後は復興状況のご視察を合め被災地を58回ご訪問になり、55の離島をお訪ねになりました。外国には、ご即位前に22回延べ68か国(うち14回45か国は外国元首の日本公式訪問に対する昭和天皇のご名代としての答礼)、ご即位後に20回延べ47か国、併せて42回延べ115か国をご訪問になっています。 また、宮殿や御所等でも様々な機会に数多くの人々とお会いになって来られました。
それゆえ、日々報じられるニュースの中には、 上皇ご夫妻がお訪ねになった場所やお会いになった人々に関するものも多く、上皇ご夫妻は、そうした記事に接するたびに、当時のことや人々との出会いを思い起こされ、時に案じ、時に喜ばれながら、往時から今日に至る長い道のりを振り返っていらっしゃいます。

とりわけ今年は、上皇后さまのお誕生日に際しても紹介した通り、57年ぶりに東京でオリンピック・パラリンピックが開催され、後にオランダ国女王陛下となられるベアトリクス王女殿下とご一緒にご覧になった神永昭夫選手とアントン・ヘーシンク選手の柔道無差別級試合、現在のノルウェー・ハラルド5世国王陛下がまだ皇太子で選手として参加されたヨット競技等、当時いくつもの競技をご覧になったことを懐かしそうに思い出していらっしゃいました。
また、今日のパラリンピックとは隔世の感のある素朴で質素な昭和39年の東京パラリンピックと、これを契機として、上皇さまのご提案で翌年から始められた全国身体障害者スポーツ大会の歴史を振り返られ、障害者スポーツの発展をお喜びになっていらっしゃいました。上皇さまは、平成元年9月30日、札幌市で開催された第25回全国身体障害者スポーツ大会開会式のお言葉の中で、第1回岐阜県から昭和62年の第23回沖縄県まで毎回見守られた大会の発展を感慨深く振り返られ、25年の歳月が各地に障害者のスポーツに対する理解を育て、障害を持つ多くの人々がスポーツを通じて新たな人生を見いだしてきた意義に触れられ、大会を育ててきた関係者の尽力に感謝なさり、国民の間に障害者のスポーツに対する理解が更に増進することを願われています。

宮中祭祀については、ご在位中はもとより今も引き続き一番大切にお考えで、祭祀が行われる間、 上皇ご夫妻はいつも静かにお慎みになっていらっしゃいます。 今年も新嘗祭に際し、上皇ご夫妻は天皇陛下の出御に合わせてお慎みの時を過ごされ、暁の儀が終了する深夜までお慎みをお続けになりました。
沖縄県慰霊の日、広島・長崎原爆の日、終戦記念日並びに阪神淡路大震災及び東日本大震災の発生日には、今もテレビ中継に合わせて、上皇后さまと共に黙祷をなさっています。

生物学研究所でのご研究は、昨年5月末から再開され、今年5月には、共著者と共に「日本から得られたオキナワハゼ属 Callogobius (ハゼ科) の2新種の記載」(原題: Description of two new species of Callogobius (Gobiidae) found inJapan) と題する論文を発表され、ご論文は日本魚類学会の英文誌 (Ichthyological Research) オンライン版に掲載されました。上皇さまはこれまで日本魚類学会会員として同学会誌に29編の論文を、その他の学術雑誌等に魚類に関する英文論文4編を、また、魚類以外でも国立科学博物館研究報告として 「皇居におけるタヌキの食性」に関する論文2編(共著)を発表されており、今回の論文は36編目となります。
現在、生物学研究所職員と日本の河川に生息するチチブ類3種(チチブ、ヌマチチブ、ナガノゴリ)についてのご研究、とりわけ分布域が重複するチチブとヌマチチブの鰾(うきぶくろ)の機能と遊泳行動の関係を明らかにするための実験観察をお続けになっていらっしゃるほか、日本産クモハゼ属の分類学的再検討についてのご研究もお始めになっています。
なお、上皇さまは、魚類学のご研究業績により、昭和55年に50名限定のロンドン・リンネ協会外国会員の一人に選ばれていらっしゃるほか、平成10年には、英国王立協会(ロイヤル·ソサエティ)から、科学の進歩に顕著な貢献のあった元首に贈られるチャールズ二世メダルの世界初の受賞者となっていらっしゃいます。

ご譲位により、公的なご活動からは離れられましたが、日々のご生活の中で今も変わりなく、苦労や困難の中にある人々を案じ、それを支える人々の活動に思いを致され、人々の幸せと社会の安寧を願っていらっしゃいます。ご高齢となり、時折お歳相応にお忘れになったり、ご記憶が不確かになられることはおありですが、いつも一緒にいらっしゃる上皇后さまにお尋ねになり、事実を確かめられては、「そうだったね」と笑顔で得心されるご様子をよく拝見します。 ご年齢が近いこともあり、お互いを優しく気遣われ、支え合われながら、穏やかな日々をお過ごしです。

先日、 愛子さまがご成年を迎えられましたが、立派に成長なさったことをお喜びのご様子でした。 また、結婚された小室眞子さんについては、お幸せを願われつつ、 静かにお見守りになっていらっしゃいます。

社会部
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