御嶽山噴火災害から5年 夫の「最期の場所」へ・・・妻が山頂で誓ったことは 長野

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御嶽山噴火から27日で5年。青空の下、噴煙が迫り来る山頂の様子を写した写真があります。あの日、噴火で犠牲になった男性が撮影したものです。その写真と5年間の思いを胸に妻が山頂を目指しました。これまで果たせなかった夫の最期の場所に立つ為に。

長野県安曇野市の野口弘美さん(61)。今月15日、5回目の御嶽登山に挑みました。今回は特別。夫が最期を迎えた場所に立つのが目的です。

(野口弘美さん)「あの日がなければ(夫は)100歳くらいまで生きたと思うんだ。明日、晴れてくれれば・・・」

弘美さんの元に戻った遺品のカメラ。壊れていましたが、奇跡的にデータは無事でした。写っていたのは、夫・泉水さんの(当時59歳)の最後の姿。そして噴煙が迫り来る山頂の様子でした。山へ行くときはいつも2人。しかしその日に限って弘美さんは仕事で行けませんでした。

(野口弘美さん)「時間を戻せるんだったら今度は一緒に登って、噴火のときに、手を引っ張ってやろうと思う。逃げるように催促して、2人で逃げたい」

夫がいない日々。弘美さんは悲しみを抱えながらも遺族などでつくる「やまびこの会」に参加し、慰霊や提言をしてきました。夫と同じような犠牲者を出したくないという思いを強くしています。泉水さんが撮った写真はふもとのロープウェーの駅に掲げてもらっています。

(野口弘美さん)「みんながこの写真を見た後に、噴煙を山で見たら、噴火だとすぐ分かると思う。そのときに1秒でも早く逃げてもらえれば」

弘美さんはこの5年、一つの宿題を抱えてきました。

(野口弘美さん)「御嶽山に行くっていうことは、宿題を出された感じで『歩く練習しとけよ、自分の足で歩かないと年取って困るぞ』みたいに言われているような感じがする。泣けてきちゃった・・・」

入山規制が緩和され去年、初めて山頂へ。しかし、泉水さんが亡くなったとみられる場所はロープが張られ、立ち入ることができませんでした。

(野口弘美さん)「中に入れなくてさ・・・すぐあと1メートルぐらいなのに行けない」

あの場所に立ちたい・・・。今月、再び山頂を目指すことにしました。体力を考慮して1泊2日の登山予定を組みました。これまで何度も登った山。そのたびに同じ思いがよぎります。

(野口弘美さん)「一緒に来ればよかったなって思いが強い。そうしたら、もう少し違ってたんじゃないかな。魔の1日がなければ普通に生きていたと思うのにな・・・」

登り始めておよそ4時間。9合目の山荘に到着し、一泊しました。

一夜明けて・・・眼下に広がる雲海。そしてご来光。願っていた快晴の朝です。

(野口弘美さん)「晴れてもらって、本当によかった。良い天気に恵まれて、あの時の青い空を見たい。あの時なんであんなに青かったんだろうと悲しいんだけど、それでも同じような体験をしたいなと」

夫が最後に目にした時と同じ、青空の下の山頂へ。一歩、また一歩・・・。

(野口弘美さん)「やっときた」

山頂に到着。去年、入れなかった場所の規制は解かれていました。

(野口弘美さん)「写真撮ったところを探そうか」

取り出したのは、泉水さんが撮影したあの写真です。

(野口弘美さん)「泉水さんが撮った写真を見て、カメラ通して見て、どこで撮ったか探したい」「噴煙こっちから上がっていて・・・ここかな?」

泉水さんは山頂にある祈祷所の東側の端で撮影していたことがわかりました。そして・・・。

(野口弘美さん)「これは、はいていたズボン(の写真)。『おんたけ神社前頭西向き』って書いてあるから、どこに倒れてたのかなと」

ズボンには遺体発見時の状況を書いたと見られるメモが貼ってありました。その写真を頼りに夫の「最期の場所」を探しました。

(野口弘美さん)「どこで倒れたんだろう、ここから逃げると、この辺だよね、絶対。西って向こう?こう?こういうことだよね」

西向きに倒れてみると・・・。

(野口弘美さん)「やっぱり向こうに向かって走ったんだよな」

倒れた先にあったのは祈祷所。泉水さんは逃げ込もうとしていたのかもしれません。

(野口弘美さん)「この辺だよね、きっとね。そんなに走ってないよね、かわいそうだったな。」

ようやく辿り着けた場所。泉水さんが好きだったロックの曲をかけながらビールとお経で供養しました。そして、天国にいるみんなに慰霊のシャボン玉。たくさんのシャボン玉が空高く舞い上がりました。

(野口弘美さん)「みんなに届くかな。生き残った人たちは友だちになったけど、泉水さんも友達になれたかな」

噴火から5年。大切なあの人はもう帰ってきません。しかし、遺族には明日があります。亡き夫を思いながらも前を向いて生きていくことを弘美さんは誓いました。

(野口弘美さん)「悲しいけど、目をつぶってそのまま過ごすわけにいかない。現実を受け止めて、ちゃんと供養してあげて、こんなに天国に近いところから、頂上から逝ってしまったけど、いつまでも私の心の中にいてくれるように願って、また明日、頑張って生きていける糧にしたい」