ページを拡大すると、詳細な文章に!
最近、本読んでますか?
流行りの小説やベストセラー本と聞くと「一度は読まなくては…」と思いつつも、いざ手に取ってみると目が滑ってしまう…という人も多いはず。
そんな人に朗報かもしれないデジタルならではの技術が今、Twitter上で話題になっているのだ。
「『読みたいところだけ、読みたい粒度で読める文章』ってネタが降ってきたので作ってみた。拡大すると、文章の意味も拡大される」
「拡大すると、文章の意味も拡大される」とはどういうこと?と思うだろうが、例文の『白雪姫』冒頭の一節を見ていきたい。
「むかしむかし、ひとりの女王さまが、ぬいものをしておいでになりました。」
この画面を拡大すると、
「むかしむかし、冬のさなかのことでした。ひとりの女王さまが、窓のところにすわって、ぬいものをしておいでになりました。」
と、文字が大きなサイズのフォントに変化すると同時に、最初の文章よりも詳しい説明が加わった文章に変化する。
ここからさらに画面を拡大すると、
「むかしむかし、冬のさなかのことでした。雪が、鳥の羽のように、ヒラヒラと天からふっていましたときに、ひとりの女王さまが、こくたんのわくのはまった窓のところにすわって、ぬいものをしておいでになりました。」
と、さらに詳しい文章が表示されるのだ。
『白雪姫』のもともとの文章は、3段階目の状態のもの。
しかし、最も“縮小”された文章でも、物語自体はきちんと進行している。
拡大していくごとに「いつ、どこで…」「どのような…」という内容が追加されていき、どんどん詳しい情報を読み込むことができる、このシステム。
SNSでは「カッコ書きが多い文章を読むのによさそう」「話題になっている本のあらすじだけ読みたい時に使えそう」など、様々な活用法が挙がり話題となっているのだ。
このシステムを開発したゲームプログラマーのきゅぶんず(@kyubuns)さんに、お話を聞いてみた。
「読み飛ばしまくって意味がわからなくなる」 “あるある”から誕生
――このシステムを作ったきっかけは?
「自分は文字ばかりの本を読むことが出来ない」という話を友達としていた時に、文章を読んでいる間に退屈してしまって読み飛ばしまくった結果、意味が分からなくなるのが原因だと気づいたんです。そこで「自分にとっては世の中の大半の文章は冗長すぎる。ページを縮小したら、文章の意味自体も小さくなってくれればいいのになー」と何気なく言ったのが始まりでした。
さらに、好きな文章の粒度は個人個人でも違えば、その時々によっても変化すると思ったので「要約バージョン」「詳細バージョン」の2つだけではなく、もっと段階的に変化すると良いな、という気持ちがありました。
――今回は『白雪姫』を使っていましたが、他にどんな文章をこのシステムで読めたら便利?
童話を選んだことに深い意味はなく、中身は何でも活用できると思っています。例えば、前提知識の有無によって粒度を変えるというのも面白いなと思っていて、
「ネジを4箇所仮止めし、その後、対角線上の順番に本締めをする」と書いてある場所、それが当たり前な人に取っては「ネジを4箇所締める」だけになれば簡潔に済むなと。
このシステムの嬉しいポイントは「大事な部分を残しながら読み飛ばせる」ということだろう。
開発のきっかけは「文章を読み飛ばす中で、大事な部分をとりこぼしてしまう」のに気付いたことだというが、このシステムなら文章をいたずらに「飛ばす」のではなく、ギュッと“縮小”してくれるので、文章の核をとりこぼすことがなくなるのだ。
「取り扱い説明書」はきゅぶんずさんも応用例に挙げてくれたが、対象の扱い方をある程度知っている人からすれば、長々と書いてあって全て読むのは面倒くさい…と感じることもあるだろう。そんな人はサクッと“縮小”を使って読んでしまえば、時間の短縮につながる。
一方で、あまり慣れていないから詳しく知りたい…という人は“拡大”機能で細かなところまで読める上、「ここが大事なポイント」というところを見失いそうになったら“縮小”で重要な文章を抽出する、というような使い分けもできる。
――Twitterでの反響について…
想像以上の反響でびっくりしてます。
デジタルでしか行えない表現には興味があって、それを思いつけたこと、そしてこれだけ沢山の方に見て貰えたことが嬉しいです。
このシステムへの様々な活用法が寄せられた中で、編集部が気になったのは「ソフトウェアなどの利用規約に使えそう」という意見。
確かに、大事な文章であることは重々承知しているのだが、あまりにも長くて読む気が起きない…という人は少なくないはず。
そんな文章をギュッと要約しつつ、「これはどういう意味?」と引っかかった時には指先でちょっと拡大…なんて使い方ができたら、むしろしっかりと読み込む人が増えるかもしれない。
もちろん、実際にこのシステムを使おうとすると、様々な問題はある。
今回の『白雪姫』は3段階の拡大・縮小ができたが、拡大レベルに合わせた数種類のパターンの文章を用意する必要が出てくる。
もしこれを自動で行うとしても精度の高い自動要約ツールが必要になり、少々実現は難しそうだ。
きゅぶんずさんによると、このシステムは「特にサービスとして展開する予定で作ったものではなく、今のところ、Twitter上以外で公開する予定は無いです」とのこと。
しかし、「何か面白い話があれば乗りたいなとは思っています」とのことなので、実装のチャンスはあるかもしれない。
「そんなに複雑にしないとだめ?」
ゲームプログラマーが本業のきゅぶんずさんだが、「そんなに複雑にしないとだめ?」と言いたいものがたくさんあるといい、こだわっているのは「小さくて綺麗なもの」だという。
――どんなコンセプトで開発をしている?
本業はゲームプログラマーなのですが、最近「もしかして自分が作りたいものはゲームじゃないのでは?」と思い始めたところです。
「作りたいものはゲームではなくて○○だった!」という話ではなくて、この世界にまだ生まれていない娯楽や表現手法がまだまだ存在していて、その中のどこかに自分の作りたいものがあるんじゃないかなと思い、いろんなことに手を出してます。
一貫してこだわっているのは「小さくて綺麗なものが作りたい」という気持ちです。この世に存在する誰かが作ったものに対して「本当にそんな複雑にしないといけなかった?」って言いたくなるものが沢山あるんですよね。文字ばかりの本もその中の1つで。たぶん人より飽きるのがめちゃくちゃ早くて、もっと小さく伝えたいことだけ伝えてくれ!と思ってます。
――今後作りたいものは?
「読みたいところだけ、読みたい粒度で読める文章」を、「デジタルでしか表現できない文章」とすると、「デジタルでしか表現できない漫画」「デジタルでしか表現できない劇」みたいなネタはあるのですが、絵が書けないので実現出来てないんですよね。
紙の上ではできない、デジタルならではの読書体験。
電子書籍は今やすっかり浸透したが、 これからこんな「本の読み方」も馴染んでいくのかもしれない。
【追記】
本記事の公開後、2008年度の情報処理学会において立命館大学情報処理工学部の杉山正治助手(当時)が、MaSSTExtという酷似したシステムを発表済みである旨を、杉山氏よりご指摘いただきました。