お花見シーズンになり、満開の桜のトンネルを駆け抜けるSL。
鉄道ファンでなくとも人気の風情ある旅に思えるが、そんなSLについてのニュースが飛び込んできた。

栃木県と茨城県を結ぶ「真岡鐵道」が所有するSLを売却し、東武鉄道が落札したというのだ。
その価格はなんと1億2000万円とも言われている。

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話題になっている車両は、「真岡鐵道」で約20年間走り続けていた「C11 325」という蒸気機関車。
ちなみに「C11」は駆動輪の数や機関車の形式を表し、「325」は車両ごとに割り振られる番号だという。
真岡鐵道は、「C12」というSLとの2両体制で、土日祝日などの運行日は往復1便を走らせていた。

しかし、平成20年は2,504人だった全駅合計の乗降客数は、平成29年は1,929人と徐々に減少しつつあり、加えてSLは高額な維持費がかかるため、去年5月からC11の運行を取りやめていた。
そして3月25日に「C11 325」の一般競争入札を行い、1社だけ参加した東武鉄道が落札した。

乗降客数の減少に高額な維持費…現役で走っているSLは、それほど多くはない中、ファンも一定数いると思われるSLが置かれている現状を改めて考えてみる。
そして、手に入れる東武鉄道が、高額な維持費がかかってもSLを必要とする理由は何なのだろうか?
まず、手放す側である「真岡線SL運行協議会」に話を聞いてみた。

年8000万円の赤字です

――そもそも真岡鐡道の「C11 325」はどこにあったの?

新潟県の阿賀野市(当時は水原町)に静態保存されていたものを、お譲りいただきました。
価格は約250万です。
SLの形はしていますが当然 走ることはできないので、鉄1kgあたりいくらというような形で見積もったのだと思います。
その後、JRなど各所のお力添えをいただきまして、復元するまでに1年近くかかりました。


――SLはどういうところにお金がかかる?

車両そのものが昭和21年製造と年季が入っているうえ、機関の内部は熱や蒸気にさらされているので、6年に1回ある「全般検査」のたびに全部交換しなくてはいけません。
直近の「全般検査」では1億4,500万円かかりました。
さらに運行するには、石炭や水、油、車両や施設の修繕費、人件費が必要ですが、SL運行の収入だけでは賄いきれません。
そこで沿線の2市4町で「SL運行協議会」を作って赤字を補填することにしています。
「全般検査」があるのは6年ごとなので検査費用は6分の1ずつ毎年負担するようにして、さらに諸経費を加えると、単年度で約8,000万円の赤字が出ていました。


――なぜ「C12」ではなく「C11 325」の運行を取りやめた?

実は「C11」という蒸気機関車は、新橋の駅前に飾ってある車両など、静態保存も含めると日本国中に結構残っているんですね。
「C12」は、そもそも車両自体があまり存在しません。
動く車両となると、鳥取県若桜町に圧縮空気で走らせているものはありますが、営業運転する車両は本線のC12だけだと思います。
このような希少価値のある「C12」を残しました。


――手放すことをどう思っている?

「C11 325」は新潟県の阿賀野市から、無理を言って譲っていただきました。
その時あちらには、車両を「真岡市で走らせてください」という強い要望がございました。
それで20年間運行してきたんですが、やむなく動かなくなる決定をしました。
今回の入札は、再び車両を動かしてくれる事業者が現れることを望んでおりましたので、東武鉄道の落札は非常にうれしく思っております。

落札した東武鉄道にも聞いてみた

一方「東武鉄道」は、1966年(昭和41年)6月30日にSLの運転を終了していたが、おととし51年ぶりに運行を再開した。
JR北海道から借りた「C11 207」が先頭の6両編成を「SL大樹」と名付け、運行日は1日3回、鬼怒川温泉駅と下今市駅を往復する。

さらに去年11月には、北海道で保存されていた動かない状態の「C11 1」を譲り受け、2020年冬に再び走らせる予定で修理をしている。
SLを動く状態に復元するのは大手私鉄では初めてだという。


復元予定機(雄別炭礦鉄道時代)   撮影:石川一造(提供:名取紀之)
復元予定機(雄別炭礦鉄道時代)   撮影:石川一造(提供:名取紀之)

なぜ修理の最中に、新たに別の車両を手に入れたのか?
東武鉄道の担当者に、今SLに力をいれる理由を聞いてみた。

――復元の最中に真岡鐡道の「C11 325」を落札したのはなぜ?

SLは検査などによって使用できない期間がどうしても発生してしまうために、代替え機を含めた2機の運行体制を整えたいと考えております。
昨年発表した復元は2020年の冬までの予定ですが、できる限り早く2機体制を構築するために、今回の真岡鉄道の「C11 325」を取得することになりました。


――これで「C11」が3機目になるが運行本数は増やさないの?

3機体制にするわけではありません。
現在の定期運行区間はSLが2機あれば足りますが、より安定的な運行体制を整えて、安定運行を図りたいと考えています。


――SLを走らせるのは何が大変?

当社で復活運転をする際には、まずSL自体もないですし、SLの技術もないですし、SLに乗っていたことがある人もいない状況でした。
そこでSLをお借りしたり、客車や転車台を譲渡していただいたりするなど、全国各地のSLを運行する鉄道会社から協力をいただきました。
またSLを運行するためには、電車とは別の「運転免許」が必要になります。
これも当社では免許が取れないということから、SLを走らせている秩父鉄道や大井川鉄道に社員を出向させて免許を取りました。
メンテナンスに関しても、電車と蒸気機関車は全然違いますので、車両を整備する「検修員」はJR北海道で研修を受けました。
このような形で、各社にご協力いただかない限りは復活はできませんでした。


――なぜ東武鉄道はSLに力をを入れているの?

3.11の東日本大震災や、2015年の関東・東北豪雨などを受けて、東武鉄道として何ができるのかずっと考えていました。
日光・鬼怒川は東武鉄道にとって、やはり非常に大事なエリアです。
鉄道会社ならではの地域活性化や東北復興支援ということから、2017年よりSL復活を始めることになったのです。


歴史を越えて受け継がれてきたSLには様々な人の思いが乗せられていた。
速さをウリにする最新の列車もいいが、時には時間を忘れて歴史あるSLの旅を楽しんでみてはいかがだろうか。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。