近頃、日本社会においても、『飲みニケーション』を否定的に捉えている人が多いというニュースを目にすることが増えています。それでも、多くの職場に、「飲み会やりましょう!」とか、場合によっては、「飲み会がなきゃ、仕事が上手く回らない」と言うような人がいます。

本心では嫌がっている人がいるかもしれないのに、それでもなお、『飲みニケーション』を求める人が多くいるのは、ナゼでしょうか?

単に、日本人に酒好きの人が多いという理由もあるでしょうが、それだけではありません。『飲みニケーション』が、職場における深い人間関係の構築に、不可欠だと考えている人がいるからです。

様々な企業で採用される「チームビルディング研修」

では、『飲みニケーション』が、日本ほど、さかんではない国の人々は、この問題について、一体、どういったアプローチをしているのでしょうか?

実は、最近、職場の人を理解し、より結束力の強いチームとして仕事をするための、「チームビルディング研修」というのが様々な企業で採用されています。

でも、「飲み会」では腹を割った話を通じた本音で周りとコミュニケーションを取れますが、「研修」では、そうもいかないと感じる人もいるかもしれません。しかし、そんなことはありません。私が専門としているインプロという、即興演劇をベースにしたコミュニケーション術では、主に「ゲーム」を通じてチームビルディング研修が行われています。

そう言われても、ゲームの現場を知らない人は、何が行われているのか、全く想像が出来ないと思います。そんな人たちのために、アメリカで行われているインプロを使った企業向けの「チームビルディング研修」の様子をYouTubeで紹介しています。

この動画内では、参加者全員が、順番が来たら必ず、自分のアイデアを他人に披露しなければならないというような、非常にベーシックなインプロのゲームでウォーミングアップが行われています。

そういった形で、全ての人が、必ず1つのアイデアを出すということは、全ての人が主役でもあり、また同時に、脇役でもあるという状態です。

つまり、普段、黙って自分の存在を消している感じの人も、あるいは、周りの人に何も言わせないほど、自分から何かを発信している感じの人も、インプロのゲームを通じて、全員で1つの何かを作る体験をしてチームビルディングのウォーミングアップとなっています。英語が分からない場合でも、アメリカ人が野外でゲームをしてはしゃいでいるということだけは十分に分かると思います。

“インプロ”は「飲みニケーション」と同じものを得られる

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では、ここで「飲みニケーション」に話を戻し、その仕組みと効能について考えてみましょう。まず、「飲みニケーション」が重要と言う人が必ず言う、「本音」と「無礼講」という2つのキーワードについて掘り下げます。

強いチームを作るためには、「本音」が言える関係であった方が良いに決まっています。「飲みニケーション」では、アルコールを介することで、半ば強制的に、飲み会の参加者が本音トークをすることになります。

次に「無礼講」についてですが、これの本質は「お互いを、より深く受け入れる」ということです。人はだれでも、これを言ったら怒られるのではという遠慮がある場合、本音が言えません。しかし、アルコールを言い訳に、言う側・言われる側ともに、言い訳が出来ることで、お互いを本音ベースで受け入れることが出来るようになります。

さらに、「飲みニケーション」では、この2つの要素に加えて、宴会芸的なものが求められることもあります。これは、一体、チームビルディングにおいて、どんなメリットがるのかと言えば、恥ずかしさや恐怖を乗り越えて、自分のアイデアを他人に提示することに慣れるという意味があります。ビジネスにおいて、自分のアイデアを持てない人は、自主的に仕事が出来ないので、この能力は非常に重要です。

つまり、「飲みニケーション」は弊害もありますが、「アルコールを免罪符に、参加者同士が本音で接しても、お互いの失敗を受け入れ合うことが出来るようになるので、より自由闊達なアイデアを交わし合うことが可能な人間関係の構築を体験すること」が出来ます。そして、アルコールを通じてであれ、一度でも、そういった人間関係が構築されると、リアルな人間関係も、より自由闊達な人間関係になれるというわけです。

一方、インプロによるチームビルディングは、一体何かと言うと、「コミュニケーションゲーム」を免罪符に、「飲みニケーション」と同じような経験を得ることができます。例えば、上司と部下で、即興で架空の別人を演じるゲームをするのであれば、仮に架空の人物を通じて、本音や突飛なアイデアが出ても、お互いに受け入れざる得なくなるなどのことは、簡単に想像できるでしょう。

これに加え、ゲームはアルコールに比べて、大きなメリットがあります。もちろん、インプロのゲームをした後に、頭痛がしたり、二日酔いになったりすることもありません。また、ゲームを使った「チームビルディング研修」には、会社の人ではない、第三者のインストラクターが付くのでフェアでいられるというメリットもあります。

私が先日行ったビジネスマン向けインプロワークショップでは、年齢・立場に関係なく、全員でゲームを行い、その結果などについてディスカッションしながら進めました。

そのため、「チームビルディング研修」では、「飲みニケーション」とは違い、年齢・立場に関係なく、全ての人が参加し、一体となるような設計になっています。

つまり、若手に対して一方的に上司が説教や過去の自慢話をしたり、宴会芸をやらせて、上司が何もしないというような状態が作られません。ですから、「飲みニケーション」で楽をしている、偉い人の研修としても、非常に効力を発揮するのです。

ということで、「飲みニケーション」よりもメリットが多い、「チームビルディング研修」が、近々、日本でも、もっと積極的に取り入れられる日が来ると私は思っています。

文・渡辺龍太
放送作家、即応力養成講座の講師。
幼少期より知らない人の前では恥ずかしさで頭が真っ白になり、問いかけには反応できなくなる口数が極端に少ない性格だった。しかし、アメリカ留学時に受けたハリウッド流のインプロ(即興力)の授業がきっかけとなり、気のきいた会話が瞬時にできるようになる。それ以降、インプロや心理学をさらに学び、日本人むけの即応力研究に注力。

帰国後は実績ゼロなのにコミュケ―ション力をいかしてNHKの英語番組のディレクターに就任。それを契機に放送作家に。同時に番組出演者への即応力アップの指導も開始。現在は大手芸能事務所のアドリブ講座講師経験を経て、公開講座などで、インプロの講師としても活躍中。また、ハリウッド流インプロ協会を設立し、インプロ講師の養成にも努めている。

1秒で気のきいた一言が出るハリウッド流すごい会話術――世界の一流が学ぶ77のルール
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渡辺龍太
渡辺龍太

放送作家、即応力養成講座の講師。幼少期より知らない人の前では恥ずかしさで頭が真っ白になり、問いかけには反応できなくなる口数が極端に少ない性格だった。しかし、アメリカ留学時に受けたハリウッド流のインプロ(即興力)の授業がきっかけとなり、気のきいた会話が瞬時にできるようになる。それ以降、インプロや心理学をさらに学び、日本人むけの即応力研究に注力している。