なぜ、訪日外国人がアニメ・映画の『聖地巡礼』にハマっているのか?

カテゴリ:テクノロジー

  • 「聖地巡礼」の始まりは1990年代にある
  • 2008年頃から外国人の聖地巡礼者は見られた
  • 巡礼ビジネスの盛り上がりが地方創生につながる

2020年の東京五輪開催を控え、いま、日本が世界中から熱い眼差しを集めている。

JTB総合研究所の調査によると、実際に訪日外国人の数は増加傾向にあり、2018年の年計は、前年比8.7%増の3,119万2千人だったという。

彼らが日本に遊びに来る目的、それを「古き良き日本の伝統文化に触れるため」と考える人は少なくないだろう。しかし、ここ数年、その目的意識にちょっとした変化が生じている。

彼らが日本に求めているもの、それは「聖地巡礼の楽しみ」だ。この聖地巡礼とは、アニメやマンガ、映画などの舞台となった地域を実際に訪れ、作品の世界観をリアルに体感するというもの。

なぜ、外国人が聖地巡礼にハマっているのか。『巡礼ビジネス ポップカルチャーが観光資源になる時代』(角川新書)の著者でもある奈良県立大学・地域創造学部准教授の岡本健さんに話を聞いた。

「聖地巡礼」の発祥はいつ?

そもそも、聖地巡礼という行為の発祥はいつ頃だったのだろうか。

「アニメに限らずですが、物語中に現実の舞台が使用され、それをきっかけに人々がその土地を訪れるといった現象は、かなり昔からありました。ゆえに、その起源を特定するのは難しい状況です。個人的には、現在に至る聖地巡礼の始まりは、1990年代にあると考えています。作品でいうと『究極超人あ~る』(1991年)『美少女戦士セーラームーン』(1992年)『天地無用!魎皇鬼』(1992年)などが挙げられるでしょう。また、それ以前にも、アニメの舞台を巡る旅はあったようで、アニメファンへのインタビューによると、パソコン通信の時代から、アニメの舞台を探し出して情報共有する、という現象は見られたそうです」(岡本健さん、以下同)

意外なことに、歴史が古い聖地巡礼。そして、それが「ごく一部の熱心なファン」から「一般的なファン」へと広がっていったのは、インターネットの普及によるところが大きい。

「インターネットの普及にともない、アニメ聖地の情報が共有されやすくなっていきました。そんな中、聖地巡礼の認知の第一歩となったのは、『おねがい☆ティーチャー』(2002年)という作品です。聖地となった長野県大町市の木崎湖への巡礼や、地域住民とファンの取り組みが、目立った動きとして登場し、新聞にも掲載されました。その後、『らき☆すた』(2007年)の埼玉県久喜市鷲宮や『ガールズ&パンツァー』(2012年)の茨城県大洗町といった目立つ事例が現れます。

そして、聖地巡礼という言葉と行動を一般の人にまで広めたのが、アニメ映画『君の名は。』(2016年)です。新海誠監督が手がけた本作は、作品そのものや特徴的な主題歌が大ヒットし、その舞台となった東京都や岐阜県の聖地にもたくさんの人が訪れました。この現象が注目され、聖地巡礼という言葉は、『2016 ユーキャン新語・流行語大賞』のトップテン受賞語にも選出されたのです」

外国人にとっての伝統とポップカルチャーとは

こうして一般的なブームとなっていった聖地巡礼。

岡本さんによると、実際にそれを楽しんでいる外国人は大勢いるという。

「私は2008年3月頃からアニメ聖地巡礼についての調査を開始しているのですが、すでにその頃から、熱心な外国人の聖地巡礼者はいました。それはいまでも変わっておらず、たとえば2018年の人気アニメ『ゾンビランドサガ』の聖地である唐津市歴史民俗資料館(佐賀県唐津市)へ調査に行ったところ、現地の住民の方からさまざまな国の方が聖地巡礼に来られていると聞き驚きました。同様に、『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台として盛り上がっている静岡県の沼津市にも、世界各国から聖地巡礼者が訪れています」

この沼津市では、外国人の聖地巡礼者を対象に、どこの国からやって来たのかを調査している。

「『沼津三の浦観光案内所』では、訪れた外国人向けに調査を行っています。その結果によると、韓国、中国、台湾、東南アジアといったアジア圏が多いようですが、欧米やロシアからの聖地巡礼者も見られます」

彼ら外国人の間で日本のアニメカルチャー人気に火がついたのは、やはりインターネットがきっかけだ。

各国の動画配信サイトには日本のアニメが盛んにアップロードされており、著作権的には問題があるが、日本国内の放送とほぼ同時期にその内容が母国語で見られるようになっている。

加えて、最近では公式の動画配信でも海外向けのものが登場しており、アニメ産業市場における海外シェアは年々大きくなっているそうだ。

こうした傾向もあり、「アニメツーリズム協会」は、国内外のファンが聖地を巡るための拠点を東京都庁や成田空港などに開設。アニメや映画の舞台となった“聖地”を観光資源として活用し、外国人観光客の誘致促進を目指している。

外国人にとって、古き良き日本の伝統文化とアニメカルチャーとでは、捉え方も異なるのだろうか。

「日本では伝統文化とポップカルチャーとは異なるもの、極端に言えば相反するものと理解されてしまうこともありますが、外国人からするとそれほど区別されずにどちらも楽しまれているようです。むしろ、現在人気のアニメカルチャーをきっかけに伝統文化を理解してもらえばいいと思いますし、その逆も然り。迎える側はもっと柔軟に考えて、伝統文化とポップカルチャーを分け隔てることなく、観光資源として活用すべきだと考えています」

聖地巡礼が「地方創生」のひとつの解となる

もはや観光資源となりつつある、日本のアニメカルチャー。

経済効果にも結びつくと考えられるため、良いことばかり…と捉えてしまいがちだが、問題点もある。

「“オーバーツーリズム”や“オーバーユース”と呼ばれる、観光客が大勢来てしまうことによる混雑やトラブルの問題があります。ただし、これは聖地巡礼特有の問題ではなく、人気観光地ならばどこでも見られるもの。これを解決するためには、観光客と地域の人々の交通手段や動線を分けるなどといった手法を用いるしかないかと思います。

一方で、聖地巡礼特有の問題としてあげられるのが、『観光地として認識されていない地域に、アニメファンが突然押し寄せてしまう』ということ。これを解決するための第一歩としては、事前にその地域が『アニメに使用されること』を周知しておく必要があります。そのため、アニメの製作サイドや地方自治体、フィルムコミッションなどが連携することが求められます」

今後はこういった問題点をクリアにしていくことが、「巡礼ビジネス」を盛り上げるために必要になっていくだろう。そして、その先に「地方創生」の答えが眠っているのだ。

「現在、かつては観光資源だと思われていなかったものが、人を惹きつける資源になっています。価値ある景観とされている工場や廃墟、カード化されて人気を集めているダムやマンホールも、その一例です。観光資源は固定的なものではなく、誰かが価値を見出し、それに共感する人が増えてくると資源化されるのです。

そしていまは、個人がその価値を見出して、SNSを使って発信できるようになっています。アニメ聖地で調査をしていると、アニメがきっかけで訪れ、そのまま移住してしまったという人に出会うこともあります。日本中にさまざまな“価値”が見出され、その場所が誰かにとっての“大切な場所”になり、訪問者や住人が増えていく。これこそが“地方創生”のひとつの解なのではないかと思います」

取材・文=五十嵐 大
取材協力=岡本健

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