“車作り王国”の凋落 EU離脱で進む自動車の「脱イギリス」という衝撃

イギリスの自動車工場とその城下町取材

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  • EU離脱を選んだ 日産のふるさと
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自動車工場の撤退の流れが止まらない

イギリスのEU離脱が混迷を極めている。いまだにEUとイギリス議会の間で「合意」は得られず「合意なき離脱」のリスクが依然残る中、イギリス国内にある自動車工場の撤退や生産縮小といった流れが止まらない。

最初の衝撃的なニュースは2月5日、イギリス北部にある日産のサンダーランド工場で、新型SUVの生産が中止されるという一報だった。

EU離脱を選んだ「日産のふるさと」

私は現地に取材にむかった。

ロンドンから3時間、サンダーランド市内に入るとすぐ、幹線道路には「HOME to Nissan=日産のふるさと」の看板が。サンダーランド工場の従業員はおよそ7000人。それだけではない。現地の関連会社で働く職員はおよそ4万人いる。グレイム・ミラー市議は「日産が風邪をひけば関連企業が風邪をひく、みんなが関わっているんだ」と話す。日産はサンダーランドの経済的心臓部だ。

日産が生産中止を決めた背景にはEU離脱の影響があるのは明らかだと指摘する。

サンダーランド市のグレイム・ミラー市議

しかし、2016年の国民投票でサンダーランド市民は「EU離脱」を支持した。

離脱に投票したのは6割超。都市部ではなく、地方の中小都市で「EUからの移民に職を奪われる」という不安から多くの人が離脱を選択したのだ。そこに悲劇がある。

あれから3年弱、街で話を聞くと、景気の悪化から、かつては離脱希望だったものの、今は残留を支持するようになったという人が多くいた。日産工場で働く人は「今すぐ仕事がなくなるとは思わないが、将来を心配している、どうなるかわからない」と不安を語る。実際、サンダーランドの中心部の商店街には空き家が目立ち、決して景気がいいとは言えない。

空き店舗が目立つ商店街

しかし、合意なき離脱でもいいからとにかく離脱したいという市民は依然多い。彼らはEU統治ではない古き良き強いイギリスを取り戻したい、移民も規制されれば街の経済も回復すると信じている。

ホンダ工場閉鎖の衝撃 そしてトヨタも

それから2週間後の2月19日、イギリスに激震が走った。ホンダがスウィンドン工場での生産を2021年に中止すると発表した。ホンダはその日、混乱を避けるために工場で働くおよそ4000人の工員を午前9時に一斉帰宅させた。

工員の一人は「突然でものすごい痛みだ、家族もいる、残念だが私は何もすることができない」とショックの大きさを語ってくれた。

ホンダのスウィンドン工場で働く行員

当然、関連企業も多く、ホンダに車のシートを供給している会社の日本人従業員は

「昨日ニュースで知った。ホンダからは何も説明がない、これで私も家賃払えなくなるから引っ越さなくてはいけない。日本人の現地採用スタッフも数多くいる、家を購入している人もいる。彼らもどうなるのか」とあきらめたような表情で話した。

ホンダの労働組合はオンラインで閉鎖撤回の署名活動をしたりイギリス議会前でデモをしている。実質的に工場が閉鎖されるわけで、日産のサンダーランド工場周辺よりも従業員の悲壮感は強いという印象だ。

しかし、それでも市民にも離脱派は多くいる。ホンダの工場閉鎖は八郷社長が会見で発表したように、EU離脱とは関係ないと思うと言っていた。

そしてトヨタも合意なき離脱の場合、工場の操業停止の可能性に言及している。

イギリス中部ダービーから車で15分、バーナストンの工場は従業員2600人だ。

ダービーに拠を構えるサッカーチーム、「ダービーカウンティ」のスタジアムにはTOYOTAの大きな看板があり、ここもトヨタの街という印象である。

「ダービーカウンティ」のスタジアムにはTOYOTAの大きな看板が

パブで話を聞くと、「ホンダの閉鎖のニュースも見たよ。何年もこの街に居たトヨタでも同じことが起こりうる、EU離脱の影響は明らかだ。この混迷の唯一の解決策は2回目の国民投票しかない。」

決して交わらない離脱派と残留派の声

イギリスはジャガーやランドローバー、そしてミニといった数々の名車を生み出してきた。自動車産業は元来、イギリスの伝統であった。

しかし今、EU離脱に伴い、連鎖的に続く自動車産業の「イギリス離脱」のニュースに揺れている。

イギリス各地の自動車工場周辺を取材して、その街の経済を支えているのは車の生産であり、市民はそれを誇りに思っていることは共通していた。

どの街の離脱派も残留派も「車づくり」という、誇りと生活基盤が消えてしまうことは避けたいと思っている。ただし、自動車産業の撤退がEU離脱問題に要因しているかは離脱派と残留派で大きく意見が分かれていた。

しかし、離脱か残留かどちらがいいのかわからない、悩んでいるという人に一人も出会うことはなった。市民の分断を痛切に感じた。

これがEU離脱問題で誰もが納得する答えが見つからない根幹の理由ではないかと思った。

今、イギリスの自動車業界に明るい兆しは見られない。今後さらなる生産中止や撤退の発表を聞くことになるかもしれない。

【執筆:ロンドン支局 小堀孝政】
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