自宅での最期を願う高齢者4人のうち3人が病院で亡くなる現実 “異色”医師が挑むこれからの「在宅医療」

カテゴリ:国内

  • 医師も患者も高齢化 医療をめぐり地方は「壊滅的」
  • 「在宅医療」という切り札で高齢者の願いをかなえる
  • 規制緩和を追い風にオンライン診療も導入

この国では自宅で最期を迎えたいと願う高齢者の4人のうち3人が病院で亡くなっている。
世界一高齢化の進む先進国日本で、高齢者の願いはほぼ、かなえられていない。

「自宅か施設か」-94歳の母親の介護をめぐり、自身も高齢者となったフジテレビ・須田アナウンサーも心の葛藤を抱いていたが、その現実に対応できる明確な答えを探し出すのは容易ではない。

多くの人たちが「介護」に悩みを抱く中、「患者が最期まで家で安心できる環境を作りたい」と、在宅医療専門の「祐ホームクリニック」を医師・武藤真祐さんが立ち上げたのは2010年。武藤さんは1996年に東大医学部を卒業したあと、東大大学院医学研究科を経て東大病院勤務や宮内庁で従医などを務め、その後MBAを取得しマッキンゼーに転職するなど、医師としては「異色」の経歴をもつ人物だ。 

その「異色」の彼が、「自宅で過ごす」という高齢者の願いをかなえるために挑戦し続けている医療サービスがある。

医療法人社団鉄祐会 理事長 武藤真祐さん

医師も患者も高齢化 地方は惨憺たる状況で「壊滅的」

高齢者の医療をめぐる課題は3つあるという。

1・病院に行けない・行かない―アクセスの問題
高齢になるほど医療機関に行くことがおっくうになる。独居、認知症であれば、その傾向はさらに高まる。

2・本当にわかっているのか-コミュニケーションの問題
「患者の“いつも”を知ることで処方すべき」という思いの武藤さんは、数分間の診察(しかも頻繁ではない)でライフスタイルが原因の病気を見つけられるのか、と疑問を感じている。

3・基本をきちんと-アドヒアランスの問題
「指示された量の薬をのむ」「医療器具を正しく使う」という医療の基本が、患者自身が忘れたり面倒に感じたりすることで、守られていない。独居になると、それを指摘する人もいなくなり、さらに深刻化している。

特に地方では、若い医師があらたに開業することが少なく、医療機関は減少の一途。さらに医師自身の高齢化により24時間診察はほぼ不可能、と事態は深刻化。このままいけば地方では高齢者をめぐる医療は「壊滅的」になるという

「在宅医療」という切り札

武藤さんは「在宅医療」こそが問題の解決につながる、と在宅医療専門のクリニックを都内や東北に展開。医師は隔週で患者の自宅を訪問し、10分から20分ほど診察(といよりも談笑に近い)、事前の血液検査にもとづくアドバイスや、日々の生活における体調の変化の発見に務めている。

車で患者の自宅を回る武藤医師

1・きめ細かな診察が可能に-利便性の向上
武藤さん自身、理事長という身でありながらいまも東京・文京区のクリニックを拠点に、10人の患者を受け持っている。「臨床医として患者を診ること自体が、自分にエネルギーをくれる側面がある」から、と訪問医療を続けている。

向こうから来ない・来られないなら、こちらからいく。そうすることで、定期的な診察が可能になる。

2・昔からの友人のような信頼関係を構築-コミュニケーションが円滑に
交通事故で脊髄を損傷し車イス生活を送る患者(70代)の自宅では、とにかく会話を楽しんでいた。半分くらいは昔話だった気がする。そうした他愛のない会話のなかで、表情の変化をみつつ、さりげなく体重の増減や外出の頻度を聞き、ふさぎこんだりしていないか判断。信頼関係があるからこそ、患者も「背中が少し痛い」など、ささいな変化を相談できる。そうして体調の悪化を読み取れば、早期に病院での受診を促すことができ、患者の行動力があがる

3・その薬は適切か-アドヒアランスの向上
体調の細かい変化に応じて、薬の量を調整し、飲むペースもふくめて細かく指導。頻繁に顔を合わす仲だからこそ、患者も自分に向き合えてもらえていると信頼し、それを守ろうとする

患者宅で診察中の武藤医師

しかし、これらは隔週の出来事だ。高齢者の病状悪化のスピードは若者よりはるかに速い。ただ、いまの医師の数では、毎週の訪問は難しい。だから、さらなるささいな変化も見逃すまい、と2018年から開始したのがオンライン診療「YaDoc」だ。

体調を自動管理 変化はオンラインで診療

「YaDoc」は患者の体調をオンラインで管理し、ビデオチャットで診る。対面診療を補完するサービスだ。

スマホのアプリに体調などを自分で打ち込むほか、Apple社の体調管理システム「ヘルスケア」(iPhoneが歩数や移動距離を自動で管理、さらにスマートウォッチが心拍数や消費カロリーを計測)やタニタの体重計を使えば、そのデータを自動で収集する。そうしたデータは医師が即時にみることができる。

2018年4月からオンライン診療の保険適用が開始されるなど、政府の規制緩和を追い風に、電子カルテを導入している医療機関との連携もすすみサービスを拡大している。 

しかし、新たなチャレンジに課題はつきものだ。

医師によるオンライン診療中の様子

半年の対面診察を経ないとオンラインはダメ

武藤さんは、オンライン診療では「まだ適用となる病気が少ない」と嘆く。診ることができるのは、糖尿病、高血圧などごく一部の病気のみ。精神科や皮膚科などは対象外だ。政府は今後、診療科を増やすべく検討をすすめているが、高齢化のスピードに見合うスピード感が求められる。

さらに「半年以上の対面での診察後」にはじめてオンライン診療が可能、と、前提となる対面での診察期間が長い。生き死ににかかわることだけに、慎重さがもとめられているとはいえ、今すぐにでもこうしたサービスを活用したいと願う潜在的な人口の数を考えると、期間短縮も課題だろう。

そして、患者の高齢化に伴う、スマホやPCを活用することの難しさ。60代は抵抗感なく手にしてくれるが、70代以上になると最初から「無理」と難色を示されることが多いという。確かに、80代の患者のオンライン診療では、画面の向こう側にいる患者の娘が、WEBカメラの使い方を教えている声が聞こえてきた。これはハードウェアのさらなる進化とともに、根気強いアドバイスが必要だ。

祐ホームクリニック吾妻橋

「YaDoc」のYaは、身近な間柄で交わされる「やぁ」という挨拶からきている。医師と患者がより身近になってほしいという願いから名づけられた名前だが、私が目の前でみたオンライン診療の最後、患者はビデオチャットを切るのをとても名残惜しそうにしていた。それほど、患者は会話を楽しんでいた。願いは叶っているといっていいだろう。

また、武藤医師の訪問を受けた患者は「自宅にみえることが安心につながる。安心感から元気になる」「めぐり逢えたことが本当にありがたい。人生の面白さを実感している」と在宅医療のありがたみを何度も口にしていた。

まだ課題があるとはいえ、オンライン診療と在宅医療のタッグは、確かに冒頭の諸問題の解決につながると期待がもてる。半身不随やパーキンソン病など重い病なのに、患者はすがすがしい笑顔だったのがなによりの証拠だ。

3月1日に発表された厚労省の調査(2017年)では、在宅医療を受ける1日当たりの患者数は、データが存在する1996年以降、最多となる18万人を記録した。そもそも高齢者の数が増えているので一概には言い切れないとは思うが、「記録更新」は高齢者の願いが叶いつつあるようにも感じられる。次回調査は2020年。サービスの拡充にともなう、さらなる飛躍的な更新に期待したい。

(執筆:フジテレビ プライムオンラインデスク 森下知哉)

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