「京都・嵐山で迷子になってください」謎の募集に応募殺到! 担当者に狙いを聞いた
- 京都大学などが「京都・嵐山で迷子になってくれる人」を募集
- 定員の約9倍の応募が殺到、わずか2日後に締め切り
- 担当者「修学旅行時の教員を支援するシステム開発のため」
“迷子希望者”から応募殺到!
「京都・嵐山で1時間、迷子になってくれませんか?」。
こんな募集を京都大学などが呼びかけ、ネット上で大きな反響を呼んでいる。
この募集は、京都大学・東京大学・京都スマートシティ推進協議会が進める、実証実験の一環として呼びかけられたもの。
嵐山周辺で3月12日に行われる予定で、参加者は目的地が示された簡単な地図と挙動記録用のスマートフォンが手渡され、指定された場所まで歩かされる。スマートフォンの使用や他人に道を尋ねることは禁止だという。
参加条件は嵐山周辺になじみがないことで、可能であれば「方向音痴」の方が望ましいとする、一風変わった内容だ。
春の嵐山といえば、桂川沿いの満開の桜と渡月橋越しに見る嵐山の豊かな緑のコントラストが有名。
その季節にはちょっと早いが、京都でも屈指の観光名所とあってか、ツイッター上では「嵐山大好きなので迷子になりたい」「スマホとか地図持ってても迷子になれる気がする」「道に迷うのではありません。目的地に着かないだけなのです」と嵐山に行きたい人と方向音痴自慢の人で、謎の募集にも関わらず応募が殺到!
2月25日に定員30人の募集を開始したが、約260人の“迷子希望者”から応募が寄せられ、わずか2日後の27日には締め切る事態に。
応募が叶わなかったユーザーからは「応募ページにたどり着けない。参加前に迷子になった」「さぁ、迷子になるぞ!のモチベーションはどうすれば...」と落胆の声が聞かれた。
想定を上回る応募があった今回の実証実験。
収集しようとしているのは「迷子データ」ということだが、一体どんな情報で、何に役立てようとしているのだろうか?実証実験に携わる、京都大学の笠原秀一さんに話を聞いた。
修学旅行時の教員を支援したい
――なぜこのような実証実験を企画した?
私たちは人間が道を間違えたり迷ったりする行動を分析して、その挙動データから「迷子状態」を自動的に検知するシステムの開発を進めています。
今回の実証実験は、そのシステム開発に必要なデータを収集するために企画しました。
人は道に迷っていても、その状態を自覚するまでには時間的なズレがあります。例えば、京都は碁盤目の道路が特徴ですが、東西を逆方向に歩いたまま、その間違いに気づかないこともあります。迷いを気付く前にシステムが迷子状態を検知できれば、人々の生活に役立つと考えています。
嵐山を実験場所に選んだ理由は、見通しの悪さ、人通りの多さなど、迷いやすい環境がそろっているためです。
――迷子状態に着目したきっかけは?
今回のシステム開発は、修学旅行生の安全管理に責任を持つ教員など、団体旅行の管理者を支援しようと始まりました。
私たちは2013年に、位置情報に基づく修学旅行生の情報支援システムを開発しています。平時は生徒の移動支援、災害・事故時は安否確認や避難行動支援を目的とした、スマートフォン向けのアプリケーションです。
この際に引率役の先生方から話を聞いたところ、班別行動中の生徒たちが迷子になったり事故に巻き込まれていないかを心配していることが分かりました。
東日本大震災の発生時には、修学旅行で東京に来た生徒の安否確認ができなくなったケースもあり、解決しなければならない課題となっています。
前述のアプリでは各班の軌跡は確認できますが、大きな学校の修学旅行では生徒の班数が40を超えることもあり、先生方が人力で監視するのは大変です。
また、スマートフォンの電力消費や通信量も問題となります。そこで「システムに迷子状態を判別させよう」と考えました。
“ある場所から180度戻る”などの行動を検知
――迷子状態はどのように推定する?
具体的には、GPSなどで得た位置情報や加速度などのデータを、機械学習や異常検知などにかけて推定させようと考えています。
何をもって迷子状態とするかは検討中ですが、目的地までの一般的な経路から外れたり、ある場所から180度戻ることなどの行動を想定しています。
迷子状態の条件を確立するためには、迷子状態と判断できる教師役のデータが必要なのですが、私たちは適切なデータを持っていませんでした。
そこで実証実験を行い、参加者に実際に迷子になってもらうことで「迷子データ」を収集しようと考えたのです。
――実証実験で収集する「迷子データ」の内容は?
以下のデータを、全て匿名化して取得する予定です。
・位置情報(緯度経度、高度、速度)およびスマートフォン端末の加速度情報
・基本的属性(年代、性別)
・スマートフォン端末に関する情報(機種およびOS)
・配布した地図に記入した、対象者自身が迷子になったと思う区間の情報
・方向感覚に関する調査
――開発中のシステムに期待することは?
修学旅行生の年齢では、社会経験が少ない方も多く、地図を読めなかったり迷子となったことに慌ててパニックに陥る生徒もいます。「スマートフォンがあれば迷子にならない」という意見もありますが、パニック状態ではスマートフォンや案内板を見ることも忘れ、思いがけない行動を取ることもあるのです。
その結果、交通事故に遭ってしまったり、集合場所に帰る時間が大幅に遅れたりする危険性があります。
どの班の生徒が迷子状態か一目で分かれば、先生方がそのような事態を未然に防ぐことにもつながるでしょう。
――将来はどう展開していきたい?
私たちは研究機関なので、サービス展開に関わる機会は少ないですが、修学旅行など、安全確保の責任が問われる団体旅行に役立てられればと思います。
将来的には「Siri」や「チャットボット」などのシステムに搭載して、日常的な道案内の補助機能としても活用できるのではないかと考えています。
一般的な経路との差異を検出できるため、登山のルート設定などにも応用できるのではないでしょうか。
「迷子になってくれる人を求める」という謎募集の正体は、修学旅行生らの迷子を未然に防ぐ、システム開発に向けた実証実験だった。
近い将来、旅行先などを歩いていると、スマートフォンなどの端末から「迷子になっていませんか」と呼びかけられる日が来るかもしれない。