花粉症の軽減策「少花粉スギ」「無花粉スギ」の植え替えはなぜ進まないのか?林野庁に聞いた

カテゴリ:暮らし

  • 「少花粉スギ」「無花粉スギ」は23年前から開発が進められている
  • 苗木が植えられた面積はわずか0.3%にとどまる
  • 「現在、スギ人工林の多くが植栽から50年が過ぎて本格的に伐採・利用が可能な時期」

「少花粉スギ」「無花粉スギ」は23年前から開発

3月に入り、本格的に花粉症に悩まされる季節が到来した。

気象情報会社「ウェザーニューズ」は2月25日、37都府県で花粉の飛散が本格化していると発表。

また、今年の花粉飛散量については、前年と比べ、東京都で4.26倍、愛知県で5.47倍、大阪府で6.67倍、鳥取県で9.25倍など、全国で高くなる、と予測している。

こうした中、スギによる花粉症を減らそうと、林野庁が開発を支援しているのが、「花粉が少ないスギ」や「花粉を全く出さないスギ」。

林野庁は1996年から、花粉をほとんど出さない「少花粉スギ」や、花粉を全く出さない「無花粉スギ」といった、新たな品種のスギの開発を支援するとともに、国有林などでの植え替えを進めている。

森林総合研究所林木育種センターによると、「少花粉スギ」が通常のスギより花粉の量が少ない理由は、花粉を生産する器官である、雄花の数が少ないものを少花粉スギとして選んでいるから。
一つの木を5年以上観察し、平年では雄花が全く着かないか、または極めてわずかしか着かず、花粉飛散量の多い年でもほとんど雄花を着けないものを選んでいるのだという。

森林総合研究所林木育種センター

また、「無花粉スギ」から花粉が出ない理由は、無花粉スギでは雄花において花粉が全く生産されないから。雄花の中で花粉が形成されていく途中でその発達が止まってしまうためなのだという。 

森林総合研究所林木育種センター

苗木が植えられた面積はわずか0.3%

この「少花粉スギ」や「無花粉スギ」の苗木の生産量は年々増加。
昨年度は前の年度の2倍近い約1000万本に上り、1年間に生産されたスギの苗木の4割程度に上っている。

ただし、昨年度までに全国のスギの人工林のうち、「少花粉スギ」や「無花粉スギ」が植えられた面積は0.3%程度とわずかにとどまっている。

「少花粉スギ」や「無花粉スギ」の植え替えが思ったように進まないのはなぜなのか?
林野庁の担当者に話を聞いた。

そもそも日本にスギ林が多い理由

――「少花粉スギ」「無花粉スギ」の開発が進められている背景は?

そもそも、日本でスギ林が多い背景として、主に2つの理由があります。

1つ目は、戦時中の軍需物資や戦後の復興用資材として大量の木材が必要となり、森林が過度に伐採され荒廃したため、各地で台風などによる大規模な山地災害や水害が発生し、その荒廃地の復旧としてスギが植林されました。

2つ目は、高度経済成長期における建築・建設用資材、パルプ原料としての木材需要の増大などから、天然林の伐採が進み、伐採跡地には木材生産に適した人工林への転換要請が高まりました。

このため、成長が比較的早く、用材などとしての需要も見込まれる、スギなどの針葉樹が盛んに植栽され、その結果、人工林は1000万ヘクタールを超え、その44%がスギの人工林となっています。

現在は、その多くが植林から50年を過ぎて本格的に伐採・利用が可能な時期を迎えています。

スギは日本の固有種で、古くから利用され、これからもわが国の林業になくてはならない大切な樹木の一つです。将来の林業に利用される次世代のスギなどを育てていくとともに、再び花粉の発生源となることがないよう、花粉の少ない苗木に植え替えていくことが必要です。

このため、国などにおいて、「少花粉スギ」や「無花粉スギ」などの品種の開発が行われています。


――少花粉スギ、無花粉スギはそれぞれ、現時点でどのぐらいの種類、開発されている?

2017年12月末時点で、国(林木育種センター)が開発したものとして、少花粉スギは142品種、無花粉スギは3品種が登録されています。

植え替えが進まないのは品種開発などに時間がかかるため

――スギの大半が少花粉スギや無花粉スギになったら、花粉症に悩まされる人は減る?

花粉症患者が増加している要因として、飛散する花粉数の増加に加え、食生活の変化、腸内細菌の変化や感染症の減少などが指摘されているほか、大気汚染や喫煙なども花粉症患者の増加に影響していると言われています(環境省「花粉環境保健マニュアル2014」より)。

このため、花粉症患者を減少させるためには、「花粉を多く出すスギの人工林」を「花粉の少ない森林」に転換していくことが重要ですが、同時にその他の様々な要因を取り除くことも必要です。

政府は花粉発生源対策のほか、花粉症の原因究明、予防及び治療など関係省庁が連携を図りつつ、取り組んでいます。

――0.3%と「少花粉スギ」や「無花粉スギ」の植え替えが思うように進まないのはなぜ?

「少花粉スギ」などの品種開発・種苗生産に時間を要することが挙げられます。

多くの種類が存在するスギの中から花粉の少ない、または、無花粉の特性を有するものを見つけ出し、これらを植林木として適したものに品種改良するのに時間がかかるほか、改良した品種から植え替えに用いる苗木を生産するための採種園の造成、さらに苗木の生産と時間を必要とするためです。

現在、花粉の少ない苗木の生産量が増加するとともに、スギ人工林の多くが植栽から50年がたち、伐って利用する段階になりました。

今後、「伐って、使って、植える」といった森林資源の循環利用を確立し、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理を両立することを通じて花粉の少ない苗木への植え替えを進めていく考えです。

「伐って、使って、植える」の確立が重要

――スギの大半が「少花粉スギ」や「無花粉スギ」になるには、どのぐらいの年数がかかる?

花粉の発生源対策としては、スギの人工林を伐採し、花粉の少ない苗木に植え替えていくことが重要です。

今後、「少花粉スギ」や「無花粉スギ」に植え替えていくためには、「伐って、使って、植える」といった林業が産業として継続的に成長していくこと(成長産業化)が必要です。

そのためには、森林施業の集約化、路網整備や高性能林業機械の導入による林業生産性の向上、人材の育成・確保などが必要であり、さらに木材の需要拡大に向けた取り組みを進めることも重要です。

このように、植え替えを進めるためには様々な課題を解決しなければならないため、必要な年数を単純に推し量ることは困難です。


――今後、「少花粉スギ」や「無花粉スギ」を増やしていくためにはどうすればよい?

「少花粉スギ」や「無花粉スギ」を増産していくためには、地域のニーズや自然条件に応じた品種の開発、採種園の造成・改良や苗畑、苗木生産施設の整備、さらに花粉の少ない苗木による植え替えについての森林所有者などの理解の醸成などが必要です。

また、花粉の少ない苗木への植え替えを促進するためには、「伐って、使って、植える」というサイクルを確立していくことが重要です。

花粉症対策として期待されている「少花粉スギ」や「無花粉スギ」。
0.3%と植え替えが思ったように進まない背景には、品種開発・種苗生産に時間を要することなど、様々な要因が重なり合っているようだが、現在、スギ人工林の多くが植栽から50年がたち、伐って利用する段階ということなので、植え替え作業が少しでも進むことを期待したい。