愛車で思い出の地めぐる“卒業旅行”ムービーに感動… 高齢者ドライバーの「免許返納」問題に一石

カテゴリ:国内

  • 免許返納前に…思い出の地を愛車で巡る「最後のドライブ」
  • 高齢になればなるほど「運転に自信あり」の傾向が…
  • NEXCO東日本「70歳になったら家族で運転について話し合って」 

思い出満載の愛車で巡る「卒業旅行」

卒業シーズンの3月になったが、意外な「卒業旅行」が話題になっている。

それが、『父と母の卒業旅行 ~The Last Long Drive~』だ。

卒業するのは、高齢者ドライバーの免許。
高齢者ドライバーの逆走やアクセルとブレーキを踏み間違えて暴走する事故が後をたたない中、NEXCO東日本が公開したムービーだ。

物語は、家族が「父の免許返納」について話し合うシーンから始まる。
78歳の父に娘が「いつかアクセルとブレーキを踏み間違えるのでは」「以前にも父の運転でドキッとしたことがあった」と本音を漏らすと、息子も「次回の免許更新の時に返納ってことでいいんじゃない?」と優しく諭す。
しかし運転歴48年の“ベテランドライバー”の父は、笑顔を浮かべつつも納得いかない様子で首を傾げ、黙ってしまう。

険悪なムードも漂い始めた時、娘が提案したのは「最後の運転旅行」。
こうして父は免許を返納する前に、夫婦だけで思い出の地を巡るドライブに出かけることになる。

愛車を飛ばし、時に寄り道もしながら、かつて家族を乗せて走った道を辿る、最後のドライブ。
やはり若い頃とは違って疲れを見せる場面もあり、食事をしながら「みんなに心配をかけるのもどうかと思うしな…」と呟く父の声には、免許の返納を意識し始めた様子がにじんでいる。

思い出のドライブも帰路に入り、「海ほたる」に立ち寄るシーンから、ストーリーは大きく動き出す。
駐車場に車を停めると、そこには「卒業ドライブいかがでしたか?」と映し出されている、大きなモニターが…

軽快なマーチングバンドと共に現れたのは、家で留守番中だったはずの家族たち。
家族からは次々と「父の運転で色々なところに連れて行ってもらった」「運転卒業おめでとう」などの言葉が贈られる。

そして、“運転卒業式”の最後には、妻からの「あなたの運転で旅行するのも今日が最後だと思うと、とても寂しい感じです。これからはふたりで仲良くバスや電車の旅を楽しみましょう」の言葉とともに、「運転卒業証書」が渡されるのだった。

父に内緒のサプライズで、感動的な“運転卒業式”となり、当初は運転をやめることをしぶっていた父も、この式をきっかけに免許返納を決意。

高速道路の逆走は、66%が高齢ドライバーによるものです」というデータ、「父は家族に、免許返納を約束してくれた」というメッセージが流れ、息子の運転で帰路に就く一家とともにムービーは幕を閉じる。

高齢ドライバーほど「運転に自信あり」

このムービーは、NEXCO東日本が2018年10月から取り組んでいる「家族みんなで 無くそう逆走プロジェクト」のひとつ。
65万回以上再生され、「自分がいつか免許返納するときのことを考えた」「こういう区切りを作るのはいい考え」などのコメントが寄せられている(3月12日現在)。

実は、出演していたのは実在の家族。
父である雨宮旭さんは、免許返納をすすめられた時の気持ちを「正直心ではまだまだ…という思いはありましたが、高齢ドライバーの昨今の事故のニュースを聞くと自分の身に置き換えて考えさせられます」と語っている。

このムービーでも、子供たちから返納をすすめられた78歳の旭さんがすんなり受け入れられなかったように、免許返納の難しさは、「もう歳だよ」とプライドを傷つけられたような感覚になってしまう人がいること。

NEXCO東日本によると、「車の運転に自信がある」と思っている人の割合は、65~69歳で73.5%、70~74歳で75%、75歳以上では79.4%と、年齢が高くなるにつれて「自信あり」と思う傾向にあるという調査結果が出ている。

さらに、「免許を返納しても良いと思う年齢」については、65~69歳で「76.8歳」、70~79歳で「79.7歳」、80歳以上では「82.5歳」という結果が出ていて、年齢が高くなるにつれて「あとちょっとだけ…」と考えている様子が浮き彫りになった。

「運転卒業旅行」というのはユニークな取り組みだが、高齢ドライバーの事故がなかなか減らない中、果たして危険運転の抑止に一役買ってくれるのだろうか?
このムービーを作ったNEXCO東日本に、色々とお話を伺ってみた。

「リアルな声、本気の思いを伝えたかった」

――今回このようなムービーを作った理由は?

逆走防止のため、高齢ドライバーの運転について話し合うことをご家族のポジティブなアクションとして考えていただきたいと思い、これまでのご家族の思い出を振り返り、新たな楽しい思い出を作るイベント「運転卒業旅行」をムービーにしました。旅に出る・人とのふれあい・実際のご家族にご出演いただくドキュメント風という内容から、「ロードムービー」と表現しています。
なお今回のムービーは、免許返納を呼びかけるために制作したものではありません。


――このムービーに実在の家族を起用した理由は?

おじいさんを本当に心配しているご家族のリアルな声や、おじいさんご自身の葛藤や寂しさを感じとっていただき、多くの方々へ家族と話し合うきっかけを届けたいという本気の想いから、架空の家族ではなく、実際に免許返納を検討している本物のご家族に出演を依頼しました。


――事故の中でも「高速道路の逆走」に注目しているのはなぜ?

高速道路での逆走は、第三者を巻き込んだ悲惨な事故に繋がりかねません。高速道路での逆走は2日に1回以上の割合で発生していますが、その66%が65歳以上のドライバーによるものです。(平成23年~29年の高速道路※国土交通省及び高速道路会社管理 における事故または確保に至った逆走事案)

当社では「矢印路面標示や矢印板などの設置(ハード対策)」と、「逆走の危険性周知や逆走車を見かけたときの対処法などのドライバーの方への広報(ソフト対策)」の両面を進めてきました。その中で、ドライバーご本人だけでなく、そのご家族にも逆走防止のためのアクションを呼びかける「家族みんなで 無くそう逆走」プロジェクトを昨年10月より開始しています。

このムービーは、免許返納を積極的にすすめるためのものではなく、まず「高齢ドライバーによる車の運転」や「高速道路の逆走防止」について家族で話し合ってほしい、という思いから作られたもの。
高齢ドライバーによる事故は逆走に限ったものではないが、実に2日に1回以上というハイペースで起きていて、かつ第三者を巻き込みかねない危険なものであることから、「高速道路の逆走」に焦点を当てているのだという。

子どもの注意喚起は親に届いていない

しかし、こうした話し合いを家族から持ちかけるのは意外と難しいという問題もある。
実際、NEXCO東日本の調査では、80%の子どもが親の運転の危険について伝えてはいても、免許返納について話したことがあるのは40%未満。
さらに、親世代の75.9%は「子どもから運転が危ないと伝えられたことがない」と回答していて、子どもからすれば「あの時危ないって言ったのに!」と、せっかくの注意喚起が届いていない…というすれ違いも起きているのだ。

――家族で「免許返納」についての話がなかなかできないのは何が原因?

あくまで想像ですが、「危ない」と感じた事実や運転を心配している気持ちを伝えることに比べ、「免許返納をした方がいい」という意見を伝えるのは難しいのかもしれません。また、親子で離れて暮らしており生活に車が必要、など、それぞれのご家族の事情もあるかと思います。

ちなみに、NEXCO東日本が「家族の運転をチェックするときに注目してほしいポイント」に挙げているのは、以下の5点。

(1)急ブレーキや急発進が増えたり、バック運転に手間取ったりする。
(2)車間距離を一定に保てない。また、車体をこすることがある。
(3)通い慣れた道順を忘れたり、行き先を途中で忘れたりする。
(4)交差点で歩行者などに気づくのが遅れる。また、合流が苦手になる。
(5)信号の見誤りや標識の見落としをする。子どもなどの飛び出しを予測できない。


さらに、目安として「ドライバーが70歳になったら家族で話し合いをするべき」ともしている。

――このムービーを通して呼びかけたいことは…

このムービーをきっかけに、「高速道路の逆走を起こしてしまうドライバーは、もしかしたら自分の家族かもしれない」、ということをまずご自身で考えてみていただきたいです。そして、ご家族でぜひ話し合ってみてください。高齢ドライバーの運転についての話し合いというとネガティブなイメージが強いかもしれませんが、ゲーム感覚で運転に必要な能力をチェックしたり、このムービーのように免許返納を決めたら「運転卒業旅行」を計画したりと、楽しくポジティブに話題にしていただけたらと思います。

愛車でめぐった思い出があればあるほど踏み切るのは難しく、そして、家族からはなかなか切り出せないデリケートな問題でもある、免許返納。
しかし、「運転卒業旅行」のようなイベントにして、その思い出を自分の運転でひとつひとつ振り返ることで、気持ちに区切りがつきやすくなるかもしれない。


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