オリンピックが終われば下火になる?ビジネス化する“おもてなし”

カテゴリ:ビジネス

  • 2013年のプレゼン以降、ビジネスとおもてなしの距離が縮まった
  • 多くの企業は「おもてなし」と「ホスピタリティ」を同じと勘違いしている
  • 旅館やホテル、レストランでは「おもてなし」が強い武器になりえる

「おもてなし」

みなさんもご存知のことと思うが、古くからの日本人の細やかな心づかいを表現した言葉だ。2013年、東京オリンピック・パラリンピック招致の際に行われたプレゼンで飛び出した「お・も・て・な・し」というフレーズは、約6年経った今でも記憶に新しい。

本来「おもてなし」とは、対価を求めず、相手を喜ばせる言動・行動であるはずだが、最近では日本を代表するサービスの一つとして、ビジネスのアピールに用いられることが増えた印象はないだろうか?

また、外国人観光客も期待しているであろう「おもてなし」について、東京オリンピックが間近に迫る中、もう一度考えてみたい。

そこで今回は、「ビジネス化するおもてなし」の現状と今後について、グロービス経営大学院で教員を務める山口英彦さんに話を聞いた。

2013~2014年以降、ビジネスとおもてなしが密接に

グロービス経営大学院で教員を務める山口英彦さん

「おもてなし」という言葉は、ずっと昔から存在していたはずだが、最近になって耳にする機会が増えたように思う。そのきっかけになったのは、「2013年のプレゼンだ」とし、ビジネスとの関係を以下のように山口さんは話す。

「2013年の流行語大賞を獲得し、日本人の多くが『おもてなし』を再認識したのはいうまでもありません。実際、主要メディアで『おもてなし』という言葉がどれほど取り上げられたかを調べてみると、2013年秋に一気に跳ね上がり、今は若干落ち着いてきたものの、プレゼン以前よりも3倍くらいにはなっています。

元々ビジネスとおもてなしとの間には距離があったはずですが、世間だけでなくビジネス界にも『おもてなし』が浸透し、『おもてなし』が一部のサービス業に限らず日本企業に共通する強みだという拡大解釈がなされました。以降は、自社サービスや製品に込めた『顧客志向』の姿勢をアピールする常套句として『おもてなし』が都合よく使われています」(山口さん、以下同)

ビジネスは利益を追求するのが目的のひとつであり、対価を求めないおもてなしとは相いれない関係にも思えるが、その点はどうだろう?

「『おもてなし』とは本来、もてなす側が自分のおもてなし行為を客人に気づいてもらおうとは思っていない、むしろ『気づかれないくらい、さりげない方が美しい』と考えるものでした。気づかれるということは、『世話になっているんだなぁ』とお客様に心理的負担をかけてしまう野暮なもてなしになりますから。サービスが一通り終わった後で、お客様が『居心地がよかったのは、きっと色んな配慮をしてくれたおかげだろう』と思えるのが洗練されたおもてなしですが、そうした意味での『おもてなし』を志向する企業は稀少です」

「現在、多くの企業が『おもてなし』と呼んでいることは、欧米流の『ホスピタリティ』に近い」とも山口さん。

海外のホテルやレストランでは、日本では当たり前とされる部屋をきれいに掃除した、明るく笑顔で料理を運んだといったことでも、「これくらいやったからチップをくれ」と暗に見返りを求めることが珍しくない。それが「ホスピタリティ」とするならば、多くの企業がやっているおもてなしも例外ではないということだ。

「おもてなし」と「一般的なサービス」は違う

とはいえ、完全にビジネスとおもてなしが結びつかないわけではない。それを知るためには、おもてなしの定義も重要になってくるという。

「私は、おもてなしはかなり特殊なサービスだと考えています。一般的なサービスとおもてなしでは、『お客様と従業員の接点があること』や『無形のサービスが提供されること』については共通していますが、おもてなしの場合は、『このタイミングでこんな会話をします』と事前にサービス内容を詳細に決めて、お客様に伝えることはありません。お客様の状況や反応を見ながらサービス内容が決まる特徴を持っているのです。

また一般的なサービスは、やると決めたら全てのお客さんにも同じことをしますが、おもてなしは一人ひとりを特別な存在ととらえ、個別に対応していきます。つまり、おもてなしはその場の状況や、相手が誰か次第でサービス内容が変わる、非定型なサービスなのです。それを理解せず、居酒屋やコンビニのような定型的なサービスが中心となる現場でも『おもてなし』をアピールしてしまうことで、現場の負担増や無茶な要求をするお客様などにつながっているのではないでしょうか」

また、山口さんは、「もうひとつ一般的なサービスとおもてなしの間に違いがある」と続ける。

「一般の顧客対応は、お客様の口から発せられた要望に応えるのが重要ですが、おもてなしは『あのお客様にはこれをしてあげたい』と、もてなす側が自発的に考え、自ら動く行為なのです」

ちなみに、上の図でいうところの「おもてなし型」のサービスを提供する職業には、旅館やホテル、料亭などが挙げられるそうだ。

「旅館や料亭などでは、それぞれのお客様に個別に対応し、困っていると求められる前に察して期待を超えていく、本当の意味でのおもてなしは明確に魅力となるでしょう」

最後に、「ビジネスとおもてなし」の今後について聞いたところ、「自社のサービスにおもてなしまでは必要ないと気づいている経営者は多いものの、『いまさら否定するわけにもいかない』と悩んでいるのが現状ではないか」と山口さん。そして、人手不足でさらに現場の負担が増えること、増加する外国人従業員に「おもてなし」を理解させて実践させるのが難しいことなども相まって、「2020年に東京オリンピック・パラリンピックが終わるころには、ビジネスとおもてなしの結びつきが弱まるのでは」とも分析する。

 企業経営者のみなさんは、自分たちのサービスがどの位置づけに該当するのか、また将来的なことなども鑑みて、今一度考え直してみてはいかがだろうか?

取材・文=明日陽樹
取材協力=山口英彦
https://mba.globis.ac.jp/curriculum/detail/svm/teacher/yamaguchi_hidehiko.html 

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