「日本から豚がいなくなる」も…なぜワクチン打たず? 豚コレラ拡大の悲痛の中で苦悩する政府

カテゴリ:国内

  • 豚コレラ拡大も感染源は不明、人災の面も
  • 生産者から「早くワクチン接種を」の悲痛な声
  • なぜ?政府がワクチン接種に踏み切れないワケ

豚コレラの拡大は1府4県に

現在、感染が広がり、大きな問題となっている家畜伝染病「豚コレラ」。豚やイノシシが感染する病気で、唾液・涙・糞を通じて感染が拡大する。感染した豚肉を食べても人体に影響はないが、強い感染力とともに、豚の致死率は極めて高く、治療法は見つかっていない。日本では1992年を最後に発生していなかったが、去年9月に岐阜県の養豚農家で26年ぶりに発生した。豚の殺処分を行うなど封じ込め策を行ったものの、岐阜県内での拡大は止まらず、隣県の愛知に飛び火すると、そこから大阪、滋賀、長野でも確認され、1府4県にまで一気に拡大している。

政府も2月6日、急遽、豚コレラ関係閣僚会議を開催し、拡大防止への対応を協議した。
また自民党においても、7日に鳥インフルエンザ等家畜防疫対策本部を開催。感染した養豚場等の施設を選挙区に持つ議員から悲痛な声が相次いだ。江藤拓対策本部長は、「今までとはステージが違う」と危機感を示した上で、政府・党一丸となって収束を図ることを訴えた。早急な感染経路の解明と生産現場の防疫対応が求められている。

自民党・鳥インフルエンザ等家畜防疫対策本部で挨拶する江藤本部長(2月7日)

感染源は?なぜ飛び火?

豚コレラの感染経路は、海外から侵入したウイルスに、野生のイノシシが感染し、農場の豚に伝搬したとの見方が有力だ。しかしながら、今回愛知県の発生地域は山麓から30km以上離れた市街地であり、野生イノシシの侵入防止対策等に注力していた生産現場には衝撃が走った。人、飼料、機械、車両等を感染媒体として被害が拡大した可能性もあり、愛知県では畜産関係車両のみならず、一般車両も含めた消毒作業を講じている。いずれにしても、その感染源は未だ不明の状況で、終わりの見えない状況に不安は限界に達している。

更に深刻なのは、養豚場で飼育されていた子豚に感染が疑われる症状が出ていたにも関わらず、大阪や長野の農場に出荷し、感染を広げてしまったことだ。豚の異変に関する通報から遺伝子検査、出荷の自粛措置への一連の判断が迅速かつ適正だったのか。その検証が求められる。また、一部の農場で、法律に定められた衛生管理基準を守らず、感染拡大を許したケースも見られ、人災とも言える事案も発生している。

「早くワクチンを・・・」生産者の悲痛な声

こうした中で焦点となっているのは、ワクチンの使用を行うか否かだ。

飼育されている豚に豚コレラのワクチンを打てば、体の中に抗体ができるため、ウイルスの感染は防げることになる。今回豚コレラの発生した地域、及びその周辺で感染の脅威に接している地域の養豚農家からは、「一刻も早くワクチンを打って感染拡大を止めてくれ!」との切実な声が挙がる。

所管する農水省の吉川大臣は「飼養衛生管理の徹底によって、豚コレラの蔓延防止ができない場合の最終手段であると考えている」として、慎重な考えを示し、ワクチン接種の判断は下していない。それは一体なぜなのか?

吉川農水相

1887年(明治20年)の日本で最初の発生以降、豚コレラは国内各地で甚大な被害をもたらしてきた。しかし1969年に有効で安全なワクチンが実用化され、組織的なワクチン接種を推進したことで、発生は激減。1992年の熊本県での発生を最後に国内での発生がないことから、他の養豚先進国と同様にワクチンを用いない防疫体制の確立を目指し、徐々にワクチン接種を中止した。そして最後の感染確認から15年後、ワクチン接種の全面中止から1年後の2007年に、国際獣疫事務局(OIE)の規約に従い日本は「豚コレラ清浄国」となった経緯がある。この世界的なお墨付きによって、日本産豚肉を輸出する道が開けることになった。

こうして「豚コレラ汚染国」脱却に長い年月と労力を要したにも関わらず、今回ワクチン接種に踏み切れば、再度「汚染国」に逆戻りすることになり、自民党関係者からも「ここまで積み上げたステータスを全て捨て去ることになる」との悩ましい声が漏れてくる。

19日に自民党で開催された、養豚農業振興議員連盟の会合でも「ワクチン接種」を求める声が出席者から挙がったが、一方で仮に野生のイノシシが媒介となっているならば、管理している豚と違ってどう対応できるのといった懸念の声も挙がった。

自民党・養豚農業振興議員連盟(2月19日)

また、ワクチンの接種をしたとしても、ウイルスの侵入防止ができない可能性や、接種により新たな豚コレラ感染の発見を遅らせるとの指摘もある。さらには「ワクチンを接種された」豚への新たな風評被害を生み出すことも想定される難しい状況も背景にある。

安倍政権の基幹政策に影響が?

「自由貿易圏の拡大は安倍政権の一つの大きなレガシー(成果)だ」。2月4日の衆議院予算委員会で、小泉進次郎議員はそう現政権を持ち上げた。TPP発効、日EU・EPA発行等は、JAグループを中心とする農家の激しい抵抗もある中、安倍政権が進めてき経済政策の柱である。“攻める農業“、農林水産物の輸出促進は、先日の自民党大会における総裁演説においても安倍首相自身が強く訴えている。

自民党・小泉進次郎議員(2月4日 衆院予算委)

今年2019年は農林水産物・食品の輸出額1兆円の目標年でもある。昨年末の速報値は9000億円を超え、目標達成が視野に入った。畜産物も当然その対象であり、「これからが輸出拡大のチャンスなのに…」との声も聞こえる。悲痛な声を挙げる生産者と、ワクチン接種で汚染国になることのデメリットの狭間で、政府は苦しい立場に立たされているのだ。

決断の時は迫るが、今できることは

自民党や公明党、野党側からもこの件に関しては農林水産省に申し入れが行われているが、急ぐべきことは感染ルート並びに感染拡大原因の徹底究明と、これ以上の感染拡大をどう防ぐかだろう。

隣の中国では豚コレラとは別の「アフリカ豚コレラ」という、ワクチンが存在しない伝染病も確認されている。こうした脅威も迫る中、中国からの肉製品等の持ち込み防止等水際対策の強化が求められる。

徹底した衛生管理基準の順守、早期の通報等、関係自治体との連携強化により、政府は感染拡大を食い止めるためのあらゆる措置を講じなければならない。そうした対策の徹底をした上でも、さらに感染が拡大したとなれば、政府がワクチン接種を「最終判断」するタイミングとなるだろう。

ある自民党関係者は「このままいけば日本から豚がいなくなるかもしれない。それだけは避けなければ」と述べ、このまま感染拡大が続けば「判断」を下す日が近いと、現状を嘆いていた。

(フジテレビ政治部 与党担当キャップ 中西孝介)

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