タクシードライバーは見た!変わりゆく“インバウンド”の舞台裏

カテゴリ:ビジネス

  • インバウンドという言葉が使われるようになって久しい
  • しかし、外国人客のニーズも日々刻々と変化している
  • リアルにインバウンドを支えるタクシードライバーに聞いてみた

モノ消費からコト消費へ…求められる「おもてなし」の品質向上

今年も春節の頃には、都内でたくさんの中国人観光客の姿を見かけた。
東京都を訪れる外国人観光客は年々増え、「インバウンド」という言葉も浸透したが、そのインバウンドもいわゆる爆買いの「モノ消費」から体験型の「コト消費」に移ってきた。 

東京都の調査で「訪問して一番満足した場所で行った行動」を外国人観光客にきいたところ、平成28年度は

1位 浅草での伝統建築の見学(71.3%)
2位 銀座での服・服飾雑貨のショッピング(32.0%)
3位 新宿・大久保での日用雑貨、化粧品、食品、菓子類のショッピング(19.0%)

となっていてベスト3のなかの二つがショッピング=モノ消費だった。しかしこれが平成29年度になると

1位 築地での日本食を楽しむ(92.1%)
2位 奥多摩での自然を感じる(83.4%)
3位 浅草での伝統建築の見学(64.7%)
とベスト3すべてが体験型のコト消費になっている。 

その外国人の移動の担い手、かつ景気に敏感な職業、それがタクシードライバーだ。
ちなみに内閣府は景気動向判断のために景気に敏感な立場の人々にヒアリングした景気ウォッチャー調査というものを行っているが、タクシードライバーもヒアリング対象に入っている。

東京都は外国人観光客のインバウンド対応のため英語でのやりとりやガイドができるタクシードライバーを増やすための研修に力を入れている。その研修後には試験があり、合格した人には東京都地域通訳案内士として資格を認定している。

この研修の難しさは受講資格がTOEIC 600点以上ということからもわかる。
研修の内容は最大8日間、56時間をかけて座学のほか、明治神宮や浅草、渋谷など人気観光地をまわる実地研修も行われる。講師のテンポの早い授業のなか、受講者の集中力もすさまじく、さながら受験直前の予備校のようだ。 研修では、いわゆる観光案内の英語だけでなく、歴史や文化、伝統についても深く学ぶ。
なかでも重要なのは「外国人に伝わりやすく」ということ。

「枯山水」英語で言えますか?

普段、私たちが使うことのないmoat(お濠)dry landscape garden(枯山水)などの単語が飛び交うのはもちろん、外国人にわかりやすくするために徳川家の将軍はフルネームで紹介しない、などの実践的工夫もされている。なぜフルネームで紹介しないかというと、日本語の名前は外国人に発音しづらく分かりにくいので、あえて外国人になじみのある単語である「Shogun」とか「Tokugawa Shogun」というだけにするというのだ。

わからなくなってしまうと、その時点で興味が薄れてしまうので、お客さんの関心を持続させるための大事な工夫のひとつだ。

また、実践編として都内を実際に歩いて回る。
明治神宮では手水舎で手を洗い口を漱ぐといったマナーから、明治天皇が西洋式の生活習慣を取り入れ「ドイツのオットー・フォン・ビスマルクのような人と例えられることもある」と、いう説明や「明治天皇はワインをたしなまれていた」など外国人になじみのあるワードを盛り込んで飽きさせないようにしている。

一方で、日本ではよくあるが外国人からみると不思議な習慣について説明することもあるという。
例えば、街角の水が入ったペットボトルについて「あれは猫除けです」とか、日本人は美白のため日傘をさす習慣がある…など説明すると外国人にとっては新鮮で喜ばれるという。

“外語大卒”の新人ドライバー

金子純子さん(22)は去年、神田外国語大学を卒業し、すばる交通に就職した新人タクシードライバー。
神田外国語大学で英語を勉強していたそうで、研修中にわからない単語はほとんどなかったものの学ぶところは多かったという。

金子純子さん:
歴史や宗教などについては知らないことだらけでした。
明治維新も学校では習ったけど、それが観光につながっていくんだな、と改めて思ったり、教科書には難しいことが書いてあっても実際には『あ、それでいいんだ』と思うことがいくつかありました。
例えば、将軍を「samurai leader」と言っていたときとか…

外語大卒の新人ドライバー金子純子さん

そもそも彼女はなぜタクシードライバーになったのか聞いてみた…

金子純子さん:
元々、留学生の友人に東京を案内したらとても喜んでくれて、観光に携わるバスガイドとかになりたかったのです。でも、車酔いがひどいのでガイドにはなれない、だったら自分で運転するなら酔わないんじゃないかと思ってタクシードライバーになりました。

金子さんが、ある欧米系の男性客を乗せた時の事。たどたどしい日本語で、行き先をうまく伝えられないことにもどかしさ覚えている様子だったので英語で話しかけてみたそうだ。すると外国人男性は「君は英語が話せるのか!」と嬉しそうに 英語で道を伝えてきたという…

慣れない日本の環境の中で英語の堪能なドライバーに会えて 嬉しかったのだろう。

さらに、その男性客は「なぜあなたはタクシードライバーになろうと思ったのか?今後のあなたのキャリアアップを一緒に考えよう」と 金子さんも驚くほど熱心に話し続けたそうだ。

英語が通じる安心感、これもインバウンド顧客獲得に重要な要素のひとつだろう。

まさに“コンシェルジュ” 71歳のアクティブ ドライバー

同じく研修に参加しているのは、タクシードライバー歴40年の寺田二郎さん(71)。
寺田さんはスマホや iPadを慣れた手つきで操作、日本語に中国語と英語を交えて自らの海外の顧客とLINEで直接やりとりして予約を受けている。

71歳のアクティブ ドライバー 寺田さん

そのサービスは細やかで、顧客のために代わりにネットで宿の予約をしたり、顧客からの日本語の文章の添削を頼まれると丁寧に添削して返信するなど顧客のあらゆる要望に対応しようとしている。たまには、お互いのプライベートな写真も送りあうなど付き合い方はかなり濃密だ。

また寺田さんは、日本語を勉強している中国人と、中国語を勉強している日本人がネット上で交流しながら日本語と中国語をお互いに教え合う「ASIAQ」というサイトに登録している。寺田さんは、このサイトを使って中国語を勉強し、顧客とのコミュニケーションに生かしているだけではない。そのやりとりの中で寺田さんに対して「いいね」と評価してくれた人を、エクセルの一覧表にまとめているのだ。何のためですか?と聞くと「将来の顧客候補として」という答えが返ってきた。

そんなに努力するのはなぜなのか?さらに寺田さんに問うと、一瞬驚いたような表情を浮かべた後に笑顔で答えてくれた。

ドライバー歴40年の寺田二郎さん:
面白いから。知らないことを知るのが楽しいから

どんどん高まる外国人観光客「おもてなし」のニーズ

20年以上前からいち早く都内で 観光タクシーに取り組んできた、すばる交通の田中敬子副社長は最近の
外国人のタクシーの利用の仕方についてこう話す。

すばる交通 田中敬子副社長:
ここ1年ぐらいモノ消費からコト消費に移っているなと特に感じます。すばる交通は観光部門もあるので、観光とタクシーを組み合わせて様々な取り組みをしてきましたが、茶道体験や日本舞踊と歌舞伎の隈取り体験など日本の伝統文化を楽しめるものの人気が高いです

その一方で、お客さんからの要望で新たなサービスも増えているという 

 すばる交通 田中敬子副社長:
中国人富裕層から『自分たちがミシュランの星付きのレストランに行った時に恥をかかないで済むマナー教室を開いてほしい』というオーダーがあり、新たにマナー教室を開くことになりました。そのマナー教室では『日本と中国の文化の違いを知りそれぞれの国のマナーのできた背景を理解する』をテーマにした。
例えば中国では『おいしくて食べ過ぎこれ以上食べられない』ということで食事を残すのがマナーだが、日本は動物、植物、ご馳走を作るために関わった人々に感謝の気持ちで残さず食べるのがマナー、と伝えるという。

さらに雨の日の傘サービス、飲食店のお冷やのサービス、居酒屋のお通しの有料サービス。日本では当たり前だったりよく見かけるサービスも紹介するという。また、レストランで恥をかかないためには「相手を思いやる立ち居振る舞い」が大事であるので、モノを渡すときは両手で渡す、約束の時間に遅れない、遅れる時は連絡する、という日本なら当たり前とも思えるところまでこまやかに教えているという。

このように、日々刻々と進化するインバウンド需要に答える形で、サービスも拡張している同社だが、今後は「終末期医療」に関する新たなサービスも検討中という。

すばる交通 田中敬子副社長:
癌の末期になり日本で終末期医療緩和ケアを受けたいというお客様が家族全員で訪れて、病院の間を行き来するだけでなく、家族として最後の思い出作りのために行きたい所に行くことができるよう、最大7人ほどが乗ることができる大型タクシーでのサービスを始めます。その際には、病院との連携、車椅子などの手配、訪問先の営業日や営業時間の確認、買いたい物が実際にその店に売っているか、利用するお店に事前に事情を伝える等、なるべくお客様に負担のないようにします。

こうなるとドライバーはドライバーというだけでなく、通訳であり秘書でもある。
一方で モノ消費が全くなくなっているわけでもないそうだ。

すばる交通 田中敬子副社長:

外国人のお客様をお買い物にお連れする際は、以前と違ってお客様自身が 買い物したいものが、どこに売っているかを しっかり調べてからいらっしゃるので、場所を最初から指定なさる方が多いです。例えば、予約しないと入れない化粧品のお店を来店なさって、そのお店の入っているビルは前を歩いているだけではお店がある事がわからない店舗だったり。こちらも驚くようなものを驚くような場所で見つけていらっしゃったりします。


つまり、なんでもかんでも爆買いするのでなく欲しいものをピンポイントで買っていくということだろう。

進化する、インバウンドサービス。気になる料金だが、意外に知られていないのが、英語ができる人を指定して通常のタクシーを借り上げた場合、各社だいたい30分600円前後とのことで、通訳ができる人を雇うことを考えると破格の安さなのだ。 

さまざまな客のニーズを実現させていくことで、来年の東京オリンピック・パラリンピックにむけてインバウンドむけの新たなサービスがさらに増えていきそうだ。

(執筆:フジテレビ 経済部 小川美那)

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