天皇陛下のお言葉を勝手に解釈し訪韓と謝罪を求めた韓国議員

勝手に「謝罪」と解釈…軽んじられる陛下のお言葉

カテゴリ:ワールド

  • 韓国国会議員「天皇陛下は終戦記念日に『深い良心の呵責を感じる』と謝罪した」
  • 「深い反省」とのお言葉を「謝罪」と勝手に解釈
  • 韓国では天皇陛下の存在やお言葉が軽視されている
宋永吉議員のFacebookより

天皇陛下が謝罪された?

毎年8月15日に東京の日本武道館で行われる戦没者追悼式。私はこれまでに3回取材をしたが、全国から集まるご遺族のお話を聞くたびに、先の大戦と現在との連続性について、改めて感じる機会となったのを記憶している。そして、巨大な祭壇を前に、お言葉を述べられる天皇陛下の姿も目に焼き付いている。

陛下は皇太子時代の1981年、「どうしても記憶しなければならない四つの日がある」として、終戦記念日・広島原爆の日・長崎原爆の日・沖縄戦終結の日を挙げられた。その「記憶しなければならない日」に、日本の象徴として、戦没者にお言葉と祈りをささげられてきたのだ。陛下が大切にされてきたその戦没者追悼式でのお言葉を巡り、韓国の与党「共に民主党」の国会議員である宋永吉(ソン・ヨンギル)氏が以下のような意見を自身のSNSに掲載した。

文喜相(ムン・ヒサン)議長の日王(※韓国での天皇陛下の呼び方)関連発言は正しいです。現在の韓日関係を回復するためには日本を代表して安倍総理や明仁日王が被害者に真の謝罪をすれば良いです。毎年日本では8月15日‘終戦宣言日’を前後に日王と安倍総理が記念演説を発表します。 日王は"深い良心の呵責を感じる"と謝るが、安倍総理はただ一度も日本の加害事実を言及していません。明仁日王の訪韓を期待します。(宋永吉議員のFacebookより)

韓国国会の文喜相議長が、昭和天皇は「戦争犯罪者の主犯」であり、その息子である天皇陛下の謝罪により慰安婦問題は解決するとの発言を受けてのものだ。宋議員は、この文議長の発言を「正しい」と支持した上で、「天皇陛下は安倍総理ら右翼とは違い、これまでも東南アジアや中国で謝罪してきた」と述べ、韓国を訪問して元慰安婦に謝罪するよう求めている。
しかし、一つひっかかる記述がある。陛下は戦没者追悼式で「深い良心の呵責を感じる」と謝罪されたのか?私は以前宮内庁担当記者だったが、そんなお言葉で謝罪された記憶は全く無い。現役の宮内庁担当記者に聞いてみたが、やはりそのようなお言葉は無かったという。

韓国で軽視される陛下の「お言葉」

2018年8月15日 全国戦没者追悼式

もしやお言葉をねつ造したのかと思い、宋議員の事務所に聞いたところ、去年8月15日に韓国紙「朝鮮日報」が書いた記事から引用したという。確かに、当該記事には「明仁(85)日王が15日、日本、東京、千代田区武道館で開かれた第73回全国戦没者追悼式に参加して“深い良心の呵責を感じる”と言及した。」と書いてある。去年の戦没者追悼式で、陛下は「過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。」と述べられた。「深い良心の呵責」という言葉は無い。念のために宮内庁のホームページを確認すると、英文訳はこうだった。

Looking back on the long period of post-war peace, reflecting on our past and bearing in mind the feelings of deep remorse. 

朝鮮日報はこれを韓国語に訳して報じたのかもしれない。しかし、朝鮮日報はあくまで「こう言及した」とだけ記し、「謝罪した」とは書いていない。日本メディアでも、確認した限り「謝罪」と解釈した記事は見当たらない。陛下は文字通り「深い反省」を述べられたのであるが、宋議員は、勝手に「謝罪した」と解釈したのだ。

 今回の宋議員の勝手な解釈を、殊更に言い立てるつもりはない。もちろん発言を肯定する気も全く無いが、「天皇陛下は加害の歴史について繰り返し触れてきたので、韓国にも来て謝罪してほしい」という文脈に沿う形に解釈したとみられる。ただ、注意しなければいけないのが、韓国人が陛下のお言葉を扱う際の「軽さ」だ。

天皇陛下のお言葉は重い。陛下自身が大変な労力をかけて推敲に推敲を重ねられているのは有名な話だ。何より、憲法上政治的な発言が出来ないという立場を考えれば、その発言は一言一句正確に報じなければならない。またお言葉を勝手に解釈して政治的な意味合いを持たせることは、厳に慎まなければならない。しかし、宋議員のSNSでの発言を見ても分かるように、韓国では陛下のお言葉は軽んじられていると言わざるを得ない。

こうしたお言葉へのとらえ方の「軽さ」は、「天皇陛下」という存在を多くの韓国人が軽視している事の裏返しだ。オバマ前大統領が天皇陛下と会った際に深いお辞儀をしたような、「国の象徴」に対する敬意は、韓国の場合薄いように感じる。韓国メディアが、陛下の事を「日王」と呼んでいるのも、その証左だ。また、陛下の憲法上の立場を正確に理解している韓国人はごく少数で、「総理と並ぶ偉い人」程度の認識が大半のようだ。だから、文議長の発言に対して多くの日本人が怒っている事(FNNの世論調査では、82.7%の日本国民が文議長の発言の撤回を求めている)が理解できない。なぜそんなに怒っているのか?と感じている韓国人は多い。

日本政府は毅然とした対応を続けるべきだ

当然だが日本と韓国は別の国で、憲法も法律も文化も言葉も違う。実際に今回の陛下のお言葉も、英語→韓国語と翻訳された可能性もあり、本来の日本語の「反省」からは微妙にニュアンスが変わっていたと感じる。そのため、韓国人が陛下のお言葉の重要性を理解せず、勝手な解釈をするのを完全に止めさせる事は難しい。多くの日本人には受け入れがたい、陛下への謝罪要求も然りだ。ただ、韓国の要人が不用意に天皇陛下について発言するたびに、日本政府や日本国民が反発する現状は、全く生産的ではない。日本政府は文議長の発言に対して謝罪と撤回を求めているが、こうした毅然とした姿勢を続ける必要がある。日本にとって天皇陛下という存在や発言がいかに重いものなのかを、韓国の要人だけでなく一般の人たちにも知ってもらうしかないだろう。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】
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