“飲みニケーション”の代替案...「ランチ」「フィーカ」を実践する企業に聞いてみた

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  • 「飲み会」がコミュニケーションの“常識”だった日本に変化
  • 飲み会をやめた理由は「参加者の負担の大きさ」
  • 専門家「『これが正解』ではなく、いろいろな形があって良い」

お酒を酌み交わし、おいしい料理を味わいながら会話や余興を楽しむ「飲み会」。
日本では人間関係の構築手段として古くから推奨され、コミュニケーションと掛け合わせた「飲みニケーション」なる言葉も流行した。

しかし、近年は価値観やお酒に対する意識が変わり、「会社の飲み会」に対して肯定的・否定的な意見が二極化している。
20~35歳の男女100人に行った編集部の独自アンケートでは、「あなたは会社の飲み会は必要だと思いますか」との質問に対し、「必要」「どちらかと言えば必要」との回答が48%、「不要」「どちらかと言えば不要」との回答が52%とほぼ半数ずつとなった。(インターネットによる独自調査。調査期間:2019年2月実施。調査協力:ネオマーケティング)

ツイッターでも「飲みニケーションで助けられた」と肯定の声がある一方、「気を遣って疲れるだけ」という意見もみられている。

仕事を円滑に進めるために、同僚とのコミュニケーションは深めておいた方がいいだろうが、「会社の飲み会」という形は、時代とともにも変化していかなければならないのかもしれない。
こうした中、企業ではコミュニケーションの場を「飲み会」から「別の会合」に代替する試みも進んでいる。

飲み会⇒ランチで参加者が増加

企業の導入事例で目立つのは、同僚らと一緒に昼食を食べる「ランチミーティング」。飲み会に代わるコミュニケーションを深める方法として、福利厚生の欄に「ランチミーティングの費用は会社負担」などと記載する企業もある。

Webマーケティングの支援事業を展開する「株式会社バケット」は、2016年の忘年会を最後に飲み会をやめ、ランチミーティングに切り替えた。
現在は2カ月に約1回の頻度で飲食店に赴き、社員が希望する料理を楽しみながら交流する時間を設けている。

同社の秋山慎治社長に話を聞くと、飲み会をやめた理由は「参加者の負担の大きさ」「飲む人の少なさ」「得るものの少なさ」からだという。
「現在は主婦や副業との両立などさまざまな働き方があり、終業後、全員の数時間を飲み会のために確保する労力は大きいです。また、若い方も『お酒が入れば無礼講』『本音で語る』といった文化を持たなくなっている。ランチの方が参加者の満足度も高く、会社負担も少なくて済みます」

企業に広がるランチミーティング(画像はイメージ)

料理を楽しみながら社内外の出来事を話すことで、リフレッシュにもつながると、参加者からの反応は上々。
ランチにしてから、インターンやアルバイトの方も参加するようになったのだとか。

・いつもよりリッチなランチを食べることで、午後の仕事にやる気がでる
・ランチの時間を有効に使うことで、夜は自分の時間を過ごせるようになった
・お酒を飲めないメンバーが多いため、おいしいものを共有しながら気兼ねなく話せる
・お酒によるハラスメント(アルコール・ハラスメント)がない

誰もが避けたいアルコール・ハラスメント(画像はイメージ)

秋山社長は「飲み会というコミュニケーションはお酒を飲む人、飲まない人で分断されてしまう。以前は自己開示の場でしたが、今の世代はSNSを通じて他人とつながれる。そういう意味では、お酒の力を借りることのメリットは少なくなっていると感じます」と話す。


心理学では、一緒に食事をした相手のことや話の内容を好意的に捉える「ランチョンテクニック」と呼ばれる現象もある。
コミュニケーションを深めることや情報共有に関しては、ランチでの代用も可能ということだろうか。

さらに気軽な「フィーカ」はいかが

ランチよりもさらに気軽な交流の場として、スウェーデンで生まれた慣習「フィーカ」を導入する企業も出始めている。
洋菓子を製造販売する「株式会社ヨックモック」もその一つ。葉巻状のお菓子「シガール」の製造元と言えば、ピンと来るのではないだろうか。

フィーカは「コーヒーを飲む」というスウェーデン語が由来で、平たく表現すれば「甘いお菓子やコーヒーを楽しみながらの雑談」。
一般的な小休憩と異なるのは、意識的なコミュニケーション場でもあることで、精神的リフレッシュや意思疎通につながるという。

2月に開催された「ま、フィーカ!」の様子(提供:ヨックモック)

ヨックモックでは2019年2月から、会社設立50周年事業の一環として、「フィーカ」の時間を設ける社内福利制度「ま、フィーカ!」を導入。
制度名の由来となった「ま、いいか」という言葉に習い、月1回程度の役職や部署間の垣根を越えたコミュニケーションを目指している。

当面は本社のみでの開催だが、状況を見て他オフィスにも拡大する方針という。
担当者は「難しい仕事が続いても、一息つけることが、社員のより高いパフォーマンスを引き出すのでは」と期待を寄せる。


では、飲み会以外の形に変えることで、コミュニケーション面で与える影響に違いはあるのだろうか。そして、会社の飲み会は今後、どうなっていくのだろうか。
コミュニケーションを専門分野とする、第一生命経済研究所・調査研究本部ライフデザイン研究部の宮木由貴子さんに話を聞いてみた。

ライフスタイルの変化で終業後の時間確保が困難に

――飲み会ではなく、別の形でコミュニケーションを取る動きがあるのはなぜ?

「飲みニケーション」がコミュニケーションの柱だった時代に比べると、現在はライフスタイルが多様化しました。
女性だけではなく、男性も育児や介護を支える時代となり、終業後の時間を確保することが難しくなったことなどが背景にあると思われます。

日本では、仕事とプライベートを同一に考えることは良しとされませんでしたが、業務中の時間に仕事以外のことを考えたり、プライベートな時間に仕事のことを考えることで視点が変わり、新たな気づきが得られることが多々あります。
職場関係の円滑化のほか、こうしたアイデアの発見にもつながるよう、ランチやフィーカなどの開催を試みる企業が多いのではないでしょうか。


――飲み会やランチ、フィーカなどでコミュニケーションの効果に違いはある?

コミュニケーションの内容は、時間帯やアルコールの有無などで変わってくると考えられます。
例えばランチでも、落ち着いたフレンチ店での個室と雑然としたラーメン屋の店内では、自然と話す会話が変わるものです。

コミュニケーション効果については、相手によっても変わるので一概には言えませんが、ランチなどでは飲み会に来られないような方とも交流ができます。
二日酔いなどで翌日に影響することもないため、飲み会に比べると、気軽に参加できると考える方も多いのではないでしょうか。
こうした時間を業務と捉えるべきかどうかなど、難しい部分もありますが、うまく活用できれば個人にも企業にも、良い効果が期待できると思います。


――飲み会にしかないメリットは?

アルコールは「仕事」から「オフ」にモードが切り替わるきっかけとなるため、ランチなどに比べると、より立ち入った話はできると考えられます。長時間の時間を確保できるのも、場合によっては利点と考えられるでしょう。ただし、お酒を飲まない方や、夜に外出することに対する抵抗感、プライベートの時間を使うことへの抵抗などが障壁となることも多く、全ての方にメリットがあるとは言えません。

「これが正解」ではなく、いろいろな形があって良い

――企業側はどう対応していけばよい?

職場におけるコミュニケーション面でのトラブルは、企業に勤める方が働けなくなる一因ともなります。
日本の労働力が今後不足していくことを考えると、コミュニケーション不足で人材を失うことは、企業にとっても損失が大きいはずです。

近年ではオフィスにハンモック、小屋、テントなどを設置し、自由な雰囲気の中でアイデアの発想などを促す企業もあります。
さまざまな場所で多くの人と交流しながら、仕事ができる空間を作ることで、職場環境や職場関係を良好にしつつ、生産性向上を図るのです。

最近では、社員が自分の席を持たない「フリーアドレス」制度を取り入れているオフィスもあります。
消費者庁の「消費者行政新未来創造オフィス」や徳島県庁の「とくしま消費者行政プラットホーム」などがその例で、朝に抽選器のガラガラを回して、その日の席を決めています。
職員は自席を持たず、荷物は帰宅時にロッカーにしまう。毎日違う席に身を置くことで、交流や生産性の向上につなげているようです。

電話対応などの課題もあり、すべてのオフィスで容易にできるわけではありませんが、選択肢の一つとして考えるのも良いのではないでしょうか。

「とくしま消費者行政プラットホーム」のオフィス。終業時にはデスクもフラットな状態に片づけられるという(提供:徳島県)

――飲み会は今後、どう変化していく?

飲み会の形はすでに変わり、上司が「これから飲みに行くぞ」というスタイルの職場は減ってきました。昔は「社会人たるもの、飲み会には行かなければ」という風潮がありましたが、現在は男女を問わず育児や介護に携わる時代となったことなどから、断れる空気ができつつあります。

一方で、従来型の飲み会のスタイルが適している職場もあるでしょう。コミュニケーションに関しては「これが正解」という一つの流れに収束するものではなく、職場や働く人たちのスタイルに合う、さまざまな形があって良いのではないかと考えます。

企業に求められているのは、社員らが働きやすいと感じるコミュニケーションの確立です。個々のライフスタイルや価値観に合わせて、「今回は飲み会が良い」「飲み会は難しいけど、〇〇ならみんなが来られる」といった、柔軟性のある仕掛けを考えることが必要なのではないでしょうか。

重要なのは参加者同士の交流(画像はイメージ)

どうせ働くならば、働きやすく同僚との連携もとれた職場の方がいいことは確かだ。
その一環として企業や上司が良かれと思って開催している飲み会が、ミスマッチを生んでいるのであれば様々な形を模索していく取り組みは必要なのだろう。

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