全裸買い物客事件も発生! 観光立国2位のスペインに学ぶインバウンド光と影

カテゴリ:ワールド

  • 世界観光ランキング2位のスペイン 外国人観光客は人口の約2倍(2018年)
  • 海、太陽、サッカー、ユニークな文化、歴史的建造物、その魅力は枚挙に遑がない
  • しかし民泊開放で住民とトラブルも・・・日本が学ぶべき課題が見えてきた

世界観光ランキング2位のスペイン

スペインの観光スポットの一つサグラダファミリア

スペインが観光立国となってから久しい。
2018年の外国人観光客は8260万人。世界観光ランキングではフランスに次いで2位。スペイン人口が約4670万人から考えると、その数字の大きさがよくわかるかもしれない。観光業が国民総生産に占める割合は11,7%(産業商業観光省2019年1月18日データ)。スペインでは緩やかな景気回復をしているとはいえ、いまだに失業率は14,3%(経済紙「Expanción」2018年12月データ)あるが、失業率は毎年春頃には数字が減り、秋口にまた高くなるのが常である。それほど、観光関連事業は雇用を生み出す原動力でもある。

スペイン・ビルバオの町並み

スペインは1975年までフランコの独裁政権が続いていた国だ。「海と太陽」のイメージで大々的に観光地としてアピールし始めたのは68年ごろからというから、外貨獲得のためのフランコ観光政策は功を奏したと言えるだろう。当時から観光立国になるためのインフラ整備と新幹線AVEの整備も急速に進められたが、国内最初の新幹線セビリアーマドリード間 のAVE開通は92年、マドリードーバルセロナ間のAVE開通が2008年と、たった10年前である。

現在、マドリードを中心にカタルーニャ州、バレンシア州、アンダルシア州、カスティーリャイレオン州に伸びているAVE網だが、地中海岸沿いの各州を繋ぐ地中海網を整備するのが目下の課題だ。一方、スペインの国内道路網 は比較的シンプルで、カタルーニャ州、バスク州を除けば高速道路は無料なところが多く、渋滞も少ない。1時間100km計算で車両の移動は驚くほど快適だ。

目指すは「持続可能で、クオリティーの高い観光」

スペインが観光的にこれほど成功したのには様々な要素がある。ヨーロッパ諸国の夏の1ヶ月のバカンスの習慣に加え、海と太陽が豊富にあり(マドリード年間日照時間2909時間はEU内でも最高)、 食費が安く、イスラム教国支配を受けた唯一のヨーロッパ国としての歴史的建造物の面白さや、ピカソやガウディを生み出したユニークな文化、サッカーでは世界一のレベルを誇り、ファッションでもLOEWEやZARAを始め有名ブランドを輩出…..と枚挙に遑がない。

現在、国内ホテル数が17000件、ヨーロッパ内では第3位のベット数を誇り、2016年の統計では350万床が 用意されている(EU統計局EUROSTATデータ)計算だ。ホテルのベッド数はこの10年で約2倍になったという。

カナリア諸島

スペイン政府観光局をはじめとしたプロモーションも「海と太陽」の観光から、伝統や文化にフォーカスしたり、時代とニーズによって様々に変化してきた。

現在国が目指しているのは「サスティナブルな、クオリティのある観光」。観光客のコンフォートと、受け入れ側のスペインの都市や国民の共存を求める戦略だ。例えば、スペインの観光収入はアンダルシア州とバレアレス諸島、カナリア諸島、カタルーニャ州に集中しているが、他の自治体のプロモーションをはかることで、国全体が観光収入を享受できるようにする、また相変わらず「海と太陽」目的の観光が多い中、自然やスポーツを目的とするような観光を宣伝する、といった観光目的の多様化、受け入れ側の多様化を目指している。

行儀の悪い観光客が増加

裸で買い物をする観光客 (スペインのテレビ番組「La Sexta Noticias」より) 

ジェントリフィケーション問題。
これはAirbnbがヨーロッパオフィスを開けた2012年以降、顕著になってきた社会問題だ 。

Airbnbは安価な滞在を可能にし、スペインの場合は「海と太陽とパーティ」を目指した世界中の若者が押し寄せた。イビサやベニドルムでの乱痴気ぶりはいまに始まったことではなかったが、民泊開放で客が倍増。バルセロナの漁師が住んでいた地区バルセロネタなどは、海に至近なこともあり、民泊に住居を譲る住人が激増。酔っ払い観光客と住人の訴えが止まらず2014年には住人組合の民泊規制を訴えるデモ行進などが始まった。

住人にとっては行儀の悪い観光客に耐えるよりも、家を高く貸したり売ったりして、静かな居住区へ移る方が賢い。結果、定住者が減り、商店なども観光客向けのスーパーか土産物店ばかりになり、地域の生活は空洞化する。他の様々な要因もあるとはいえ 、大都市では不動産賃貸料が高騰し続けている。

スペイン各地で 地元住民組合が中心となり、活発に民泊反対活動は始まっているが、2018年秋の時点では、 公正取引委員会の干渉も入り、中央政府主導でホテル業者、ネット民泊斡旋会社、マンション所有者組合、住民組合連合会、消費者団体などを集め、国内で唯一の民泊登録システムを作り、観光客と住民の共存できる方策を協議している最中だ。スペインは自治州の権限が強いため、例えば、バレンシアでは民泊の場所を規定する一方(地上階と1階のみ)、バルセロナ市は大々的に民泊斡旋ポータル会社に罰金刑をかけ、民泊のライセンスを9600件に限定するなど各都市が付け焼き刃的に対応しているのが現状だ。

次々に浮かび上がる課題

バレアレス諸島の一つイビザ島の旧市街

観光客が多すぎて困るのは民泊だけではない。バルセロナの有名な観光地の一つ、ボケリア市場では、観光客の多さに地元利用客が減り、食品店では売り上げが下がるという弊害がでた。これを受けて、市営市場によっては観光客グループ入場を制限するところも出てきている。また、夏のバレアレス諸島では、観光客増加に伴う行政人員(医師や警察、空港職員など)を増強しようにも、その彼らのための宿泊施設が足りないという問題が毎年取りざたされている。

サスティナブルな観光はスペインに限らず世界各国で目指すべき姿である。スペインには大量の観光客を受け入れてきた歴史がある。その経験とスキルで、世界に率先するような、サスティナブルな観光モデルを作って欲しいと、切に願うばかりだ。

【執筆:ライター&コーディネーター 小林 由季(スペイン在住)】

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