“バイトテロ”が若気の至りじゃ済まない理由…ネットの「忘れられる権利」について弁護士に聞いた

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  • 続発する悪ふざけ動画の「バイトテロ」
  • 弁護士「計り知れない代償を払うことになるかもしれません」
  • 個人情報が出回ると、就職や結婚にも影響が…

ゴミ箱に入れた魚の切り身を取り出したり、商品をべろりとなめたり、おでんを吐き出したり…
今年に入って、従業員の「悪ふざけ動画」がSNSで炎上する騒動が相次ぎ起きている。

これらの行為は、自分への非難も顧みず不適切な行動をさらけ出すことから「バカッター」だとか、雇い主にマイナスの影響を与えることから「バイトテロ」などとも呼ばれ、どちらの言葉も2013年ごろから使われ始めた。
当時、コンビニにあるアイスの冷凍庫や食洗機に入る写真がSNSに出回り、今と同じように連日ニュースや情報番組で大騒ぎとなったことを覚えている人もいるだろう。

その後、騒ぎは徐々に下火になっていたものの、今年に入ってから続発している。

・大手外食チェーンの「バーミヤン」では、調理している男性が鍋の炎で、たばこに火をつけた。
・「セブン-イレブン」では男性アルバイト従業員が、箸でつまんだ白滝を口に入れ、すぐさま手に吐き出した。
・「ファミリーマート」の男性従業員は、商品のパッケージやペットボトルの飲み口をなめる様子を撮影。
・「無添 くら寿司」はアルバイト従業員が、ゴミ箱に入れた魚の切り身を、まな板に戻そうとした。

「セブン‐イレブン」従業員がおでんを…

ネット上では、どうすればこんな事態を防げるのか議論が白熱し、「監視強化」や「教育の徹底」「時給・待遇の向上」、果ては企業が加入する「バイトテロ保険」など様々なアイディアが出された。

企業側は、法的措置をとる姿勢を打ち出すところも出てきているが、騒動を起こした張本人は、その後どうなってしまうのだろう?
軽い気持ちで「悪ふざけ」をしているつもりかもしれないが、会社から訴えられたら…自分の本名がネットにさらされたら…その後の人生はどう変わるのか?
労働事件やインターネット関連に詳しい、グラディアトル法律事務所代表の、刈谷龍太弁護士に聞いてみた。

計り知れない代償を払うことになる…

――会社から訴えられるとしたら、どういう理由になる?

不法行為による損害賠償になると思います。
問題は、その損害の範囲がどこまでなのか、企業の価値をどれだけ棄損したのか、数値にするとどれだけの損害になるのかということです。

例えば、ああいう動画をお客さんが見たら、そんなお店には行きたくないとなって売り上げが落ちるでしょう。
1店舗の売り上げが1日あたり10万円下がったとすると、1か月で300万円、それが1年続くとなったら3600万円。
その他の店舗も評判が下がっているという話になったら、考えただけで恐ろしい数字になります。

賠償の範囲は未来永劫というわけではなく、一定の期間に限定されると思います。


――動画には出ず、撮影だけした人が訴えられることはある?

もちろんそういう行為をした人が悪いのは間違いなんですが、それをインターネットに拡散した人も大きな影響を与えていると思います。
ですから撮影した人間も、ネットに上げた人も、同じように訴えられることがあると思います。


――裁判を起こされるとどんな影響がある?

それはあまりないですね。
弁護士を代理人にしたら、裁判に行く必要もないし、普段とまったく変わらない生活を送れます。


――では大騒ぎになった結果「個人情報」が暴かれると、どんな影響がある?

ネットで多くの人が目にすると、個人情報が特定されてしまうことがあり得ます。
卒業アルバムなどには住所も載っていますし。

個人情報が駄々洩れになると、就職や至ることろに影響を及ぼすでしょうね。
例えば、バイトテロを起こした人を雇ってくれる企業は、果たしてどのぐらいあるのか?…そういうことを考えると、騒動を起こした人は計り知れない代償を払うことになるかもしれません。

個人情報が出回ると就職・結婚にも影響が…

「無添 くら寿司」従業員が魚の切り身をゴミ箱に…

――就職するときSNSの履歴をチェックされたりする?

人事考課、採用面接の際などにSNSなどをどこまで調べるかは、企業によるとしか言えません。
うまくいけばチェックをかいくぐって、就職できるかもしれません。
しかし、一流企業と呼ばれるようなところは、そのあたりまで結構シビアに調べることが多いと聞いています。

また履歴書の賞罰欄には、有罪判決を受けたことや、一般的には懲戒解雇されたことも書くとされています。
賞罰欄があるのに書かないと「経歴詐称」ということになり、それだけで懲戒解雇の対象とされます。


――周囲の人にはどんな影響がでる?

確実なことは言いづらいんですが、1番影響があるのは親御さんだと思います。
ただ、親というのは、民事上の賠償責任を負うわけではありません。
法律的に言うと、親が責任を負うことはないんですよ。

でも、アルバイトでも会社によっては保証人のサインを求めることがあり、これにサインした場合は賠償責任を負うことになります。
また世間一般の話として、自分の子供がそういうことをしでかしたとしたら、親に責任はなくとも賠償するお金はやっぱり親が払う場合が多いと思います。
そうでなくとも、もし個人情報が出回れば周囲からは白い目で見られたり、親御さんに対する影響が出てしまうと思います。


――恋愛や結婚への影響は?

恋愛は、影響がないんじゃないですかね。
でも結婚となれば、親御さんがお相手の経歴を調べるかもしれません。
いまだに、相手方の素性調査の依頼が探偵さんの所にあるという話は聞いています。
結局、人によるとしか言えないんですが、影響がないとは言えないかな。
もし、以前バイトテロを起こした男が、自分の娘と結婚するとわかったら親御さんはどう思うのか、想像に難くないですよね。

「忘れられる権利」は認められるのか?

「バーミヤン」鍋の炎で、たばこに火…

そして、こういったニュースや個人情報が一度インターネットに出回ると、ホームページや検索サイトでずっと表示されるため、不利益を受け続けたり更生の妨げになってしまうのもネット社会の怖い一面。
そこでプライバシーを保護するために、最近では「忘れられる権利」という考え方が提唱され、海外では認める動きも出てきているが、日本ではどうなのか。

――検索サイトなどから情報を消してもらう、いわゆる 「忘れられる権利」は適用される?

今の裁判では「忘れられる権利」というのは確立されておらず、「報道の利益」の方が重視される傾向にあります。
私個人としては「忘れられる権利」は、おいおい認められていくと思いますが、ニュースそのものを消すということは難しいと思います。

正当な報道ではない形で世に出た個人情報はいずれ消えると思いますが、それでも個人情報が出てしまったら、かなり苦労すると思います。
生活する上での弊害がいろいろ生じるでしょう。


――バイトテロで裁判沙汰になったことを隠して生きていくことはできる?

絶対不可能とは言いませんけど、簡単にはできないと思います。
騒動はいずれ風化していきますが、どこかでそういう噂はいろいろ回るものです。


若気の至りの悪ふざけのつもりが、今のネット社会では年数を経ても消えることはなく、その後の人生に影響を与え続ける可能性があることを忘れてはいけない。