外国人観光客増加で陥る「オーバーツーリズム」...地元住民を守る京都市の対策を聞いた

カテゴリ:ワールド

  • 渋滞、混乱、ごみ...観光客が多すぎる「オーバーツーリズム」が顕在化
  • 「白川郷」では、完全予約制を2019年に導入
  • 京都市の観光客“分散化”の取り組みで見えた成果

日常生活のあらゆるところに、訪日外国人観光客が増えたことによる影響が出始めている。
街中を歩けばバックパックの利用者が目立ち、観光地では多言語表記の対応施設が増えた。この傾向は都心部に限った話ではなく、地方でも同様だ。
筆者も近年まで地方に在住していたが、外国人旅行者に観光地への道のりを聞かれたことは、一度や二度ではない。

「明日の日本を支える観光ビジョン」の目標値より抜粋(提供:観光庁)

日本政府は、2020年の訪日外国人旅行者数を4,000万人とする目標を掲げており、さまざまな方法で誘客の促進に取り組んでいる。
関係者の努力もあり、旅行者数は2015年の1,974万人から、2018年は3,119万人と約2倍に増加。2020年の目標にも手が届きそうな状態だ。
外国人による旅行消費額も右肩上がりに増えており、これらの数字だけを見れば、政府の観光戦略は順調に進捗していると言える。

だが、現実はいい話ばかりではない。

多くの観光地が外国人観光客の恩恵を受ける一方、想定以上の人数が集まることで起きる悪影響「オーバーツーリズム」に悩まされる地域も出始めている。
このオーバーツーリズム、放置しておけば取返しのつかない事態に発展する可能性もあるという。

観光地の崩壊につながる危険性も

オーバーツーリズムとは、観光地が受け入れられる許容範囲を超え、観光客が押し寄せることで引き起こされる現象を指す。その悪影響は宿泊施設の混雑から夜間の騒音、交通渋滞、ごみ問題まで多岐に及び、海外では環境資源が破壊されて魅力が失われたケースもある。

これらは“多すぎる観光客”が原因とされており、海外では商業施設の営業を一部禁止するなどして、観光客数のコントロールに乗り出す動きもある。
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環境資源の破壊につながってしまう可能性も

日本では、合掌造りで知られる白川郷(岐阜)を管理する「白川郷観光協会」が2019年、ライトアップイベントへの入場を開始から33年目で初めて、完全予約制としたことが話題となった。

同協会によると、近年はライトアップ一度につき約8,000人の観光客が集まり、なんとその約8割が外国人旅行者。マナー面で大きな問題はなかったが、駐車場からあふれた車両で集落周辺が渋滞するなど、一部で好ましくない影響もあったという。

こうしたこともあり完全予約制を導入した2019年、観光客の来訪はライトアップ一度につき約5,000人にとどまり、大きな混乱もなかった。

白川郷観光協会の担当者は「集落内には危険な場所もあり、観光客が集中するとイベントの開催も危ぶまれることから、完全予約制を取らせてもらった。観光にきていただくこと自体は大変ありがたく、外国人旅行者の規制などは考えていないが(予約制は)一つの形となったので検討を続けたい」と話す。

訪日外国人旅行者の人気を集める「白川郷」のライトアップ

経済の活性化や雇用創出につながる観光客は本来、諸手を挙げて歓迎したい存在のはず。しかし、増えすぎれば地域に悪影響が出る可能性があり、そうなれば当然、住民の不満につながる。オーバーツーリズムは観光振興と地域住民の生活、どちらを優先させるか板挟みの状態を引き起こしてしまうのだ。

観光庁は2018年6月に「持続可能な観光推進本部」を設置し、観光客と地域住民の生活の在り方などについて検討を進める方針を示している。

だが、自治体や地域住民にとっては早急に解決したい問題であることは間違いないはず。
こうした中、総力を挙げてオーバーツーリズムの解消に取り組む自治体がある。日本でも有数の観光地である京都・京都市だ。

京都市は、観光客の“分散化”の取り組み

年間5,000万人以上の観光客が訪れる京都市は、「日本文化」を求める外国人旅行者にも人気があるスポットとしても知られる。
市側の調査によると、2017年の観光客数は5,362万人でこのうち743万人が外国人観光客。観光客の約7.2人に1人が外国人という計算となる。

日本人観光客を含めた観光消費額は年間1兆1,268億円(2017年)にのぼり、これは京都市民77.5万人分の年間消費支出額(1人当たり145.5万円)に相当する。

2017年 京都観光総合調査結果の概要(提供:京都市)

観光客の消費行動が京都市の経済基盤を支えているともいえる一方で、多数の観光客が訪れる状況は、地域住民にとって“悩みの種”ともなっている。
市内では、観光バスによる交通渋滞や市街地の混雑、文化の違いによるトラブルやごみのポイ捨てなども発生。
観光地である「嵐山の竹林」では、刃物状の物体で文字が落書きされる被害も出ており、市側に苦情が寄せられることもあったという。

観光客らで混雑する京都・二寧坂

このような状態を解決しようと、京都市が取り組むのが「季節」「時間」「場所」の視点で観光客を“分散化”することだ。

移動手段となる交通では2018年3月から、観光客の多くが利用していた「バス1日乗車券」の価格を500円から600円に値上げすると同時に、反対に利用者が少なかった「地下鉄・バス1日乗車券」の価格を1,200円から900円に値下げ。観光地への移動手段を分散化することで、道路渋滞の緩和を図っている。

また、JRグループが運営するクロークサービス「Crosta京都」を活用した「手ぶら観光」も推進している。このサービスでは、荷物の一時保管や宿泊先への荷物の配送などをJR京都駅で完結することが可能で、観光客の負担を減らすとともに、大きな荷物を持った移動がもたらす地域住民への影響も抑えている。

「Crosta京都」のウェブページより抜粋

このほか、春・秋に観光客が集中していた状況を改善しようと、閑散期の傾向にあった夏・冬の観光振興にも着手。市街地を約2500個のランタンで彩るイベント「京都・花灯路」(12月開催)の魅力を広く周知するなどして、観光客が特定の季節に一極集中することを防いでいる。

これらの取り組みもあり、京都市の調査によると、観光客が最も多かった月と少なかった月の差は、2003年の3.6倍(2月:186万人、11月:666万人)に対し、2017年は1.5倍(9月:373万人、3月:543万人)にまで縮小した。

観光客が多い月と少ない月のデータ(提供:京都市)

京都市の担当者は「地域には魅力ある観光資源が眠ることも多く、全ての場所で受け入れのキャパシティが限界かといえば、そうではありません。オーバーツーリズムを防ぐためには、京都であれば金閣寺や清水寺だけではなく、新たな場所に行きたくなるような改善策を地道に続けることが必要でしょう」と話す。

利益を住民に還元することも必要

その他にも、観光業界の取り組みとしてあげられるのが、京都市観光協会の「オーバーツーリズム対策事業」。
観光情報のポータルサイトとして開設した「とっておきの京都~定番のその先へ~」では、開催予定のイベント情報を共有できるほか、地域で活躍する人物に焦点を当てた記事を掲載することで、観光客の興味が嵐山や祇園など、知名度が高い場所に集中することを防いでいる。

「とっておきの京都~定番のその先へ~」では伏見、大原、高雄、京北、西京、山科エリアの隠れた魅力を周知する

このほか、GPSと連動して訪問先の情報を教えてくれる多言語ガイドアプリ「ON THE TRIP」を活用すること、朝市や料亭の朝食などを楽しむ「朝観光」、夜景が美しい場所などを巡る「夜観光」などの観光形態も推進。観光を楽しめる時間を広げ、観光客の分散化につなげようとしている。

京都市観光協会の担当者は「オーバーツーリズムに対応するには、公共交通機関などのインフラ全般を整備するとともに、地域の理解が得られるように利益を住民に還元することも必要ではないでしょうか。住民が観光産業に携わる機会を増やすことも、理解を得ることにつながるでしょう」と分析。
その上で「各事業者の集客データやニーズを共有して、地域にとって最適な観光客数を共通認識することも大切でしょう」と話している。


日本がこれから迎える人口減少や少子高齢化を考えると、外国人旅行者が観光産業に与える役割は一層大きくなっていくだろう。地域の隠れた魅力を知ってもらうためにも、観光地を周遊できるようなマネジメント、オーバーツーリズムを引き起こさないボーダーラインを共有することが求められる。

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