我々はヨーロッパとは違う!…EU離脱支持の奥底に流れるもの

カテゴリ:ワールド

  • イギリスはEUから「半身」が離れているような特別な立場
  • 「欧州懐疑主義」は元来、保守層に根強くある
  • イギリス国民の世代間の「断絶」も深刻

イギリス人女性の問いかけに当惑

「もし日本が中国や韓国と同じルールに縛られて、物事を決める時に彼らの意見を聞かないといけなければ、あなたはどう思う?」あるイギリス人女性に私が言われた言葉だ。

ヨーロッパとアジアでは、もちろん諸々の情勢が違う。だが、彼女の言葉は、イギリスのEU離脱=ブレグジットを支持した人々の気持ちをシンプルに表したものとして、強く印象に残っている。

イギリスは「異質」なEU加盟国

「こんなに簡単なんだ」。

私は2010年から約4年間、フランスで特派員を務めたことがあった。その当時、イタリア、スペインやベルギーに出張する際、まるで一つの国内を移動しているような感覚を味わったものだ。EU内では通常パスポートチェックはない。またユーロ圏で両替の必要もない。知らず知らずに国境を越えてしまっている感覚だ。

ところがイギリスに出張する際は、パスポート検査に並び、何のために来たのかと聞われる。ユーロからポンドに両替し、財布は2種類の小銭で膨れかえり「面倒だな」と思った。EU加盟国でありながら、イギリスはEUの根幹といえる通貨統合とシェンゲン協定から外れた「特別な立場」だった。だから当時から私はイギリスがEUから「半身」が離れているような印象を受けていた。

「EU離脱」は突然の現象では無い

私たち日本人の大半にとって、イギリスの「EU離脱=ブレグジット」は2016年の国民投票以後に聞くようになった言葉だ。「イギリスの選択は理解できない」こんな声もよく聞く。しかし「EU離脱」という投票結果は、突然予想外に表れたものではなく長い道のりを経てきたものだ。

「Euroscepticism=欧州懐疑主義」は、元来、英国の保守層に根強くあった。その導火線に火をつけたのが、2010年周辺、ギリシャ問題に端を発したユーロ危機だった。危機救済のため域内での金融規制を強化に乗り出したEUに対して、英国内のEU懐疑派が「なぜユーロを救うためにイギリスが犠牲になるのか」と強く反発、大きなうねりとなった。

2011年12月 EU首脳会議で条約改正に拒否権を発動、会見するキャメロン首相(当時)

この金融規制を議論するために2011年12月8日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議は、EU26ヵ国(当時)VSイギリスの対決の場となった。私は当時、現場で取材にあたったので鮮明に記憶しているが、協定への調印を拒否するイギリスのキャメロン首相(当時)に対し、フランスのサルコジ大統領(当時)、ドイツのメルケル首相らEU各国の首脳が激しく対立。会議は朝5時まで続く異様な展開となった。結局、他のEU26か国(当時)がすべて協定に調印するなか、イギリスだけが調印せず、キャメロン首相はブリュッセルを離れる。これを契機に国内のEU離脱派は先鋭化し勢いを増し始める。そして、キャメロン首相は2016年のEU離脱をめぐる国民投票に追い込まれていく。

1992年から3年間にわたり大手生命保険会社のロンドン現地法人社長を務め、現在は立命館アジア太平洋大学の学長を務める出口治明氏に、先日ロンドンで話を聞く機会があった。「イギリスと欧州大陸は離れられない関係にあり、経済を考えればEU離脱の選択肢はありえない。しかし、与党=保守党の根底にあるのはチャーチル、サッチャーの流れ。イギリスの主権こそ最重要という考え方だ」と指摘する。

2月 立命館アジア太平洋大学・出口治明学長 ロンドン・東洋アフリカ研究学院にて

与党=保守党の強硬離脱派の大物であるボリス・ジョンソン前外相は、去年7月、メイ首相はEUに妥協しているとして外相を辞任する際、議会で次のような発言を行った。「世界中の多くの人々が、イギリスがEUから支配を取り戻し、独立した偉大な役割を果たすことを望んでいる」。EU離脱によりイギリスが国家として決定権を持つ「主権」を取り戻すべきだとの考えを明言している。

世代間の「断絶」も深刻

国民の間にも根深い分断がある。ウェストミンスターの国会周辺では、EU離脱派と残留派それぞれの市民が集まり主張を繰り返している。その活動は今年に入り大きくなっている。

私はEU残留派の若い女性と、EU離脱派の男性に話を聞いたが、そのうち2人は口論を始めた。「ヨーロッパは衰退していくだけだ。でも世界経済は巨大なペースで成長している。私たちは欧州以外の世界に広がっていく必要があるんだ」と主張する男性に対して、一方の若い女性は「イギリスはもう巨大な帝国じゃないんです。新大陸に進出する必要はない。EUにいても日本とだって貿易できる。EUと手をとりあうべきだ、離脱派は憎しみをあおっているだけよ」と反論。

2人の議論は最後までかみ合うことはなかった。

1月 EU離脱賛成の男性とEU残留派の女性 英議会前にて

2016年6月の国民投票を分析すると、18歳から24歳までは7割が残留を希望、ところが50代以上になると6割を超える人々が離脱を希望している。EU市民と身近に交わりながら育った若年世代とのギャップは明白だ。

【2016年EU離脱 国民投票 世代別の投票行動 ~You Govより~】
         EU残留  EU離脱
18歳~24歳  71%    29%
25歳~49歳  54%    46%
50歳~64歳  40%    60%
65歳以上    36%   64%

高まる「合意なき離脱」の恐怖 それでも…

1月15日、EUとの離脱合意案は大差で否決された。3月29日に離脱期限が迫る中、この原稿を執筆している時点では「合意なき離脱」のリスクはますます高まっている。

強硬離脱派の急先鋒、与党保守党のリース・モグ議員は「欧州の友人が嫌いでEUを離脱するのではない。失敗した経済システムからの脱出だ」と述べている。合意があろうがなかろうが、EUを離脱し、日本などと自由貿易協定を結べば経済が発展するという考え方だ。今年1月の世論調査でも国民のおよそ3割が「合意なき離脱」を支持している。

しかし、英国自動車工業会(SMMT)のマイケル・ホーズ会長は先月31日の記者会見で「合意なき離脱は大惨事だ。中国も日本もアメリカも大事な取引先だが、EUこそ最大の取引先だ」と述べて強い警戒感を示した。イギリスで生産される自動車の50%以上はEUに輸出されている。農産物に至っては輸出の60%、輸入の70%が対EUである(英議会下院資料より)。

 EUとイギリスは経済と人の交流で密接に結びついている。

2月 英国自動車工業会 マイケル・ホーズ会長 ロンドン・ウェストミンスターにて

BBCのドキュメンタリーに出演したイギリス政府のクレイグ・オリバー報道官(当時)によると、2014年2月、イギリスの首相官邸=ダウニング10を訪れたドイツのメルケル首相は、EU離脱を問う国民投票に進みつつあったキャメロン首相(当時)にこう釘をさしたという。

「私は鉄のカーテンに閉ざされた東ドイツの出身です。それが崩れた時にヨーロッパは一つになった。私たちは決してそれを手放してはいけない。私の精神をあなたに理解してほしい」。

1月 ロンドン議会前にて インタビュー取材する立石記者

【取材・文章:FNNロンドン支局長 立石 修】

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