四季折々の花…92歳おじいちゃんが描いた「墨絵」の天井画に圧倒される

カテゴリ:話題

  •  作者は92歳のおじいちゃん。趣味の域を超えた美しい墨絵が話題に
  • お寺の住職さんのリクエストに応えて制作した天井画は72枚の大作
  • 墨絵を始めたのは50歳「白黒の方が表現したいものを強調できる」

ずっと見ていたい! 四季を感じる天井

絵や写真、小物、アプリ、キャラ弁など、SNSにはユーザーたちの手作りの作品が日々投稿されている。
中には、自分ではなく家族や友人の作品をもっと多くの人に見てほしいとする投稿もあり、ツイッターではしばしば祖父母の作品づくりを応援する孫の投稿が見られ、作品のすばらしさと年齢を感じさせない創作への情熱が評価されている。

自身も絵を描くという「つめ」(@raw_ttkn)さんも、そんな孫ユーザーのひとりだ。
「祖父が趣味で描いた墨絵が近くのお寺に寄贈されて、素晴らしい天井画になったので見て欲しい」とツイートした作品をさっそくご覧いただきたい!


碁盤目状に張られた木枠に収められた、金色の丸い皿のようなもの。天井に広がる1枚1枚に、モクレン、アサガオ、モミジといった異なる植物の絵が描かれている。
墨の濃淡だけで立体的に、花の細部まで表現した墨絵が天井を華やかに彩り、全体を見渡すと荘厳さに圧倒される。その美しさは、絵に見入るあまり、首を痛めてしまいそうなほどだ。

おじいちゃん思いの優しい投稿はユーザーたちの感動を呼び、5万3000を超える“いいね”を獲得した。(2月27日現在)
寺院の天井画にふさわしい繊細で美しい墨絵に対しては、「趣味ってレベルじゃないぞ。きれい!」「将来、文化財指定されてもおかしくない素晴らしさ」「思いのこもったいい絵で心が洗われる。実際に見てみたい」「私も墨絵を始めてみようかな」といったコメントが寄せられている。

墨絵が飾られているのは、静岡県にある随昌院の客殿(来客と面会するための建物)だというが、なぜ寺院に寄贈することになったのだろうか? また、細部まで描き込まれた作品は、どのようにして生み出されたのか?
現在、病気療養中のおじいちゃんが家族に語っていた作品へのこだわりや墨絵を描くことの楽しさを孫のつめさんに伺った。

自宅の天井に同様の天井画

ーー絵は金色の皿に描かれているの?

墨絵が描かれている土台は金色に塗ったお皿のように見えますが、これは「ドーサ引き」という滲み防止の処理をした色紙に絵を描き、その上に丸く抜かれた金色のマット台紙を重ねています。
縁が白く見えるのは、マット台紙の円の縁が斜めにカットされているためで、作品に具体的な題名はないようです。
色紙に墨だけで草花を描き、背景は金色の金泥(金粉をにかわで溶いたもの)を塗り、ところどころに金箔を貼っています。


ーーなぜお寺に寄贈されることに?

この作品の4分の1程の大きさですが、自宅の天井に同様の天井画を施していて、懇意にしているお寺の住職さんが来られた際にその天井画を見て、「お寺の庫裏(くり)を改装する予定があるので、是非そこに同じ天井画を作ってもらいたい」と言われたことがきっかけでした。
お寺の繁栄のために、絵はすべて寄贈したとのことです。

どこを見ても美しい天井

ーー植物をモチーフにした理由は?

あくまで「日常」にこだわったと聞いています。
いずれの植物も特別なものはなく、すべて四季折々、庭や畑に咲いているもの、家にある観葉植物を写生した上で描いたそうです。
食べるためでなく葉っぱを観察するためだけに、畑にいちごを植えたりもしていました(笑)


ーー天井に飾られた墨絵は全部で何枚ある?

横6×12列で合計72枚です。このように木を格子に組んで、その間を絵画や装飾で飾るのは、格天井(ごうてんじょう)という古くからある様式だそうです。
お寺の庫裏立替が決まってから、3年かけて49枚と予備で2枚を描き上げました。
ところが、完成した絵を見た宮大工さんが天井の設計変更をして枚数が増えたため、直前に追加の絵を毎日描いていました。
にかわを使うため乾きが悪く、1枚完成させるのに数週間かかっていたそうです。


ーー特に力を入れたのはどこ?

墨絵は、まず実際の植物を写生するところから始まります。写生が完成したら、それを見ながら薄墨で下絵を描きます。
次に、その下絵に薄い墨の付いた筆と、水のみを含ませた筆の2本を使って薄い墨を水筆でのばし、徐々に陰影をつけていきます。
そのため、すぐに墨が色紙に染み込まないようドーサの引き方が大事だといいます。

祖父は、「花弁の形や枚数など植物としての基本にはきちんと従うが、すべてを緻密に写し取るのではなく、自分が感じたことを絵の中に表現する」ということに重点を置いていました。
この天井画に関しては、特に背景に力を入れており、金泥と金箔の使い方を勉強するため、わざわざ金沢の加賀まで赴いたそうです。
墨以外には唯一、赤色を使うこともあるといいます。

墨絵を始めたのは50歳

『牡丹』:おじいちゃんは天井画の他にも植物を描いていた

これまでに制作した墨絵作品は、押し入れ2間に収納されるほどの点数だという。
その中でもお気に入りなのは大きな蘭の絵で、欲しいという人が後を絶たなかったが、手放さず大切にしているそうだ。最近では、『鳥獣人物戯画』の甲・乙・丙・丁と呼ばれる全4巻を模写した巻物を制作したことが自慢だった。

おじいちゃんが趣味の墨絵を始めたのは50歳の頃で、学生時代に励んでいた剣道を再開して宮本武蔵に興味を持つようになり、武蔵の“何か”に触れたいと武蔵が描いた『枯木鳴鵙図』を模写したことがきっかけだったようだ。
墨絵の大家であった下田舜堂氏と出会い、佐野美術館(静岡県三島市)で開かれていた墨絵教室に40年ほど通い、講師であった下田氏の後任として墨絵の指導をしていたという。

「ねちっこく描くところは似てるかもしれません…」という孫のつめさん。今回、おじいちゃんの墨絵をツイッターに投稿した理由と、おじいちゃんとの絵にまつわる思い出を聞かせてくれた。

おじいちゃんの自信作『鳥獣人物戯画』を模写した墨絵

「何か祖父が喜ぶような話題になればと」

ーー改めて、おじいちゃんの作品を投稿したのはなぜ?

健康と多趣味が自慢、そして人と話す事が大好きであった祖父だったのですが、昨年末に脳梗塞で倒れてしまい、半身不随となってしまいました。
筆を持つ事はもちろん、会話をすることも難しくなってしまったのですが、こちらの話す内容は理解して、うなづいたり、笑ったりと反応してくれるので、何か祖父が喜ぶような話題になれば良いなと思い、投稿してみました。


ーーおじいちゃんから絵を習ったことはある?

幼少期の夏休みは、祖父の家で過ごすことが恒例でした。
祖父に呼ばれて、私といとこが書斎に行くと、鉛筆と色紙、庭から摘んだ花を1輪挿した花瓶が用意されていて、「それぞれ違う角度から絵を描きなさい」と問答無用の指令(笑)が毎年出されました。
細かく指導された記憶はないのですが、どんなに自分で「へたくそだな…」と思う出来でも、必ず絵の中の良いところを見つけて、たくさん褒めてくれたことを覚えています。
このようなことがあってか、私もいとこ達も全員、今でも絵を描くことが好きです。

(左)『酒の精』:仕事で酵母の研究をしていたおじいちゃんが顕微鏡で見た酒の酵母を描いた作品 (右)『ピアノの話』:ピアノが好きだった青年が、特攻隊に行く話を聞いて制作

おじいちゃんは、米寿(88歳)と卒寿(90歳)を記念して、佐野美術館で個展を2回開催している。絵の具を用いた鮮やかな絵画ではなく、墨絵を描くことにこだわった理由を家族に話していた。

ーー墨絵の魅力とは?

白黒の世界でも色が見える墨絵に感動したそうです。元々、結婚前よりモノクロ写真を撮ることが趣味で、自分で現像と焼き込みもしていました。
レンズをなめてぼかしたり、強調する部分に長く光を当てて、その他の部分を型紙を作って隠したりと、白黒の表現には、かなりの知識と経験があったそうです。
徐々にカラー写真と写真屋に現像を頼むことが主流になっていき、「面白くないなぁ…」と思っていた中で墨絵と出会い、のめり込んだようです。
また、「白黒の方が表現したいものを強調できる」とも言っていました。


卒寿の個展の様子 手前に展示された『鳥獣人物戯画』は、個展の目玉作品だった

90歳を超えても精力的に作品制作に取り組んでいたおじいちゃんは、「次の個展は白寿(99歳)」と意気込んでいたが、体調のこともあり残念ながら開催は未定ということだ。

孫のつめさんと家族は、ツイッターでの反響を受けて「おじいちゃんすごい!」と驚いたという。「多くの方に褒めて頂き、様々な質問を頂けたことで、家族として改めて祖父がどのように絵に打ち込んできたか、向き合う時間が出来てとても良かったと感じています。何より、祖父に良い報告が出来そうなので、とても嬉しいです」と話してくれた。

家族の絆を深めたおじいちゃんの墨絵。年齢にとらわれず、真剣に作品作りに取り組んだ生き生きとした筆づかいが、人々の心を打つのだろう。

「IKIGAI~生きがい~」特集をすべて見る!

IKIGAI~生きがい~の他の記事