心理戦&贈り物で懐柔も?日露首脳モスクワ会談の舞台裏

カテゴリ:国内

  • 大統領の執務室から見える!?日本の今後の戦術は
  • 25回目は「杖」と「デスクセット」
  • 首脳会談進展のメルクマールは何か

プーチン大統領の素顔を垣間見た執務室

1月22日、安倍首相はロシアの首都モスクワでプーチン大統領との通算25回目の首脳会談に臨んだ。会談の焦点は北方領土問題を含む平和条約交渉の前進だ。両首脳にとっては、去年11月、シンガポールでの会談で約束した「日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させる」との合意に基づく交渉が本格始動してから、初めての会談だった。

日露首脳会談(1月22日 ロシア・モスクワ)

会談はプーチン大統領が安倍首相を自らの執務室に案内したところから始まった。きれいに整理整頓されていたいという執務室、そこには2枚の肖像画が飾られてあった。一つは水墨画で描かれたプーチン大統領の肖像画。そしてもう一つは、旧ソ連時代、潜水艦に乗っていたというプーチン大統領の父の肖像画だった。

それは何を意味するのか。執務室内の様子を聞いた交渉関係者は「軍人だった父の肖像画を飾るのは愛国心が強く、自画像は自己愛が強いことの象徴だと思う。我々は、そうした大統領と交渉を行っているということを頭に入れておかなければいけない」と分析した。

実は、政府は各国の首脳と交渉・会談を行う際、「サイコプロファイリング」と呼ばれる方法で、相手を分析し、交渉の材料としている。プーチン大統領の執務室一つをとっても、その人となりを分析し交渉を前進させるための材料となるのだ。

そして会談の中で両首脳はいつものように贈り物を交換した。安倍首相が贈ったのは1800年代ロシア帝国時代に作られた、柄に装飾の付いた杖だ。プーチン氏の心に響くように、外務省関係者が必死に探した貴重な骨とう品だという。

一方のプーチン大統領は、デスクマットとランプ、文房具に時計という書斎の一式を贈った。そして“愛国心も自己愛も強い”プーチン大統領と安倍首相の会談は、通訳だけを交えた50分間も含め、約3時間に及んだ。この中で様々な心理戦が繰り広げられたものとみられる。

首脳会談での交渉進展のメルクマールは何か

会談後の共同発表で両首脳からは、平和条約締結に向けた決意の表明こそあったものの、領土問題の解決に向けた具体策などの言及は一切なかった。このため「交渉加速で一致も具体的な進展は見られず」というのが大方の評価となった。

日露首脳の共同記者会見(1月22日 ロシア・モスクワ)

ただ、ある交渉関係者は今回の首脳会談後の両首脳の公式発言については、進展があったかどうかの「メルクマール(指標)にはならない」と指摘している。

その上で「今、ロシアは北方領土の主権があるとか、呼称を許さないとか主張しているが、その発言が今後どう変わるのかを注目した方がいい。発言が変わらなければ進展していないということかもしれないし、日本にとってそうしたネガティブな発言が減れば進展しているといえるかもしれない」と、今後のロシア側の発言が、交渉が前進しているかどうかを測る注目の指標になると話した。

現に首脳会談後の共同発表で両首脳は両国民を意識した「相互に受け入れ可能な解決策」に言及している

プーチン大統領:
相互が受け入れ可能な解決策を目指したいと思っている。そのためには日露関係の全面的な発展が必要だ。それによって、両国の国民が受け入れ可能な解決策を見出せると考えている。国民に支えられた解決策となるだろう」

安倍首相:
「戦後70年以上残された課題の解決は容易ではない。しかし私たちは、やり遂げなければなりません。日本国民とロシア国民が互いの信頼関係、友人としての関係をさらに増進し、そして相互に受け入れ可能な解決策を見出すための共同作業を、私とプーチン大統領のリーダーシップの下で力強く進めていく。本日、その決意をプーチン大統領と確認しました」

両首脳は平和条約交渉の責任者となる外相同士の会談を2月に、また外務次官級となる首脳特別代表の交渉の加速でも一致した。今後のこうした会談の後、両国はどんなメッセージを発信するのか、それが交渉の前進度を探る一つのバロメーターになるのかもしれない。

「台本なし」で交渉長期化の様相!?

ロシア国内では領土の引き渡しに反対するデモが起きるなど、プーチン政権に対する国内世論の批判の声も大きくなっている。ラブロフ外相をはじめ、ロシア政府関係者の日本へのけん制発言もこうした国内世論を意識していることを象徴している。

一方、今回の首脳会談について日本政府関係者は「日本も歴史問題を含めてロシアに反論している」と交渉の一端を説明する。そのうえで対ロシア交渉は「台本がない、難しい交渉だ」と口をそろえる。

首脳会談に向けては、両国の事務方がある程度、事前に合意内容を調整し、それを踏まえた共同会見時の首脳発言内容なども調整する。しかし、特にロシアとの交渉は、事前交渉で合意の大きな絵を描くことや、落としどころを探ることが難しいというのだという。そこで本番での首脳同士の信頼関係に頼らざるを得ないのが現実のようだ。

日本政府としては、2021年9月までの安倍首相の任期を踏まえ、今年6月大阪で開かれるG20サミットでのプーチン大統領との首脳会談で大枠合意することを目指している。しかし、今回の首脳会談の結果を見る限り、見通しが立ったとは言えない。

それゆえ政府関係者は、「総理がロシアに行けるとしたら4月下旬だ」と、6月の会談前に安倍首相が再びロシアを訪問し、首脳会談を行う可能性にも言及している。

2024年まで任期のあるプーチン大統領に比べ、安倍首相に残された時間は決して長くはない。しかし焦ればロシアに足元を見られるという難しい状況の中、安倍首相は平和条約締結に向けて今、どんな絵を描いているのだろうか。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 千田 淳一)

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