外国人旅行者の温泉人気…「タトゥー問題」の“着地点”はあるのか

カテゴリ:ワールド

  • 外国人旅行者に人気がある「日本の温泉」
  • 国内のホテル・旅館の過半数がタトゥー「入浴お断り」
  • 「受け入れを進めるためには“先進例”が必要」

2018年、約3,119万人にのぼった訪日外国人旅行者。彼らの間で人気の旅の目的の一つが「日本の温泉」だ。
国土交通省観光庁の訪日外国人消費動向調査(2017年)では、「訪日前に期待したこと」や「次回したいこと」を集計しているが、こちらでは「日本食を食べること」「ショッピング」「自然・景勝地観光」など、旅行時の定番的な行動に次いで「温泉入浴」がランクインしている。

訪日外国人消費動向調査(2017年)

前述の調査を要点別に調べた「トピックス分析」では、観光・レジャー目的のリピーターが多い、韓国、台湾、中国、香港の旅行者に特に人気。このうち、韓国、台湾、香港の旅行者においては、訪日回数に比例して温泉に入る比率が高くなっていた。入浴回数を重ねるごとに魅力が深まるということだろうか。

日本の温泉には、種類豊富な泉質や温泉街の風情など、一言では言い表せない魅力がある。
外国人旅行者には大いに楽しんでもらいたいと思う一方で、外国人旅行者と温泉を語る上では避けては通れない課題もある。それが「タトゥー」(刺青)がある人への対応だ。

国内のホテル・旅館の過半数が「入浴お断り」

タトゥーは、海外では反対層がいる中でも一定の市民権を得ており、ファッション感覚で彫る人もいる。
しかし日本では「刺青=反社会的」というイメージが根強く、国内でもタトゥーがある外国人旅行者が入浴拒否されたケースがある。

入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート結果(出典:観光庁)

国土交通省観光庁が2015年、全国のホテルや旅館を対象に行った調査では、回答施設の過半数がタトゥーがある人の入浴を断っている。
「お断り」した理由の6割近くが「風紀・衛生面で自主的に」というもの。また、回答施設の約半数が苦情を経験、約2割がトラブルに発展しているという。
以前、編集部でも「“タトゥーOK”温泉の理由にネット上で賛否…その施設に実状を聞いてみた」という取材をした。

近年では受け入れの動きも拡大

ただ、外国人旅行者の増加に伴い、近年タトゥーに関する状況は変わりつつある。
観光庁が2016年に発表したリリースでは、宗教や文化などの理由でタトゥーがある場合があること、衛生上の支障にはならないことが示されているほか、入浴に関する対応事例として「シールなどでの対応」「入浴時間の工夫」「貸切風呂の案内」を紹介し、施設側に対応の改善を促している。

入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例(出典:観光庁)

そして、2019年にラグビーワールドカップ、2020年に東京オリンピック・パラリンピックなどの開催を控え、多くの外国人旅行者が訪れるであろうこれらのイベントを機会に、タトゥーがある人の温泉利用を検討する自治体も出てきた。その筆頭が、温泉郷として知られる大分・別府市だ。

別府市は、市の外郭団体「B-biz LINK」(ビービズ リンク)の業務委託を通じて、外国人向けの温泉マップを制作。外国人向けの温泉紹介サイト「ENJOY ONSEN」への掲載を通じて、タトゥーがあっても入れる温泉や入浴マナーなどを紹介している。

「B-biz LINK」の担当者は「海外の方にとってタトゥーは自己表現の一種でもあり、入浴施設に来てから『利用できません』と断られるのが一番がっかりするはずです。入浴できるかできないかをしっかりと示してあげることも、温泉地ならではの“おもてなし”につながるのでは」と話す。

外国人向けの温泉マップ(1)
外国人向けの温泉マップ(2)

別府市内111軒の温泉施設が加盟する「別府市旅館ホテル組合連合会」は、タトゥーがある外国人の入浴可否を問うアンケート調査を実施。加盟施設のこれまでの対応やタトゥーへの考え方などを把握することで、受け入れの可能性を探ろうとしている。

別府市は、ラグビーワールドカップの試合会場の一つである大分市と隣接していて、同連合会は「加盟施設の利用客の比率は日本人が7割、外国人が3割。タトゥーがある外国人も気持ちよく温泉に入れる方法はないか、検討していきたい」と話す。

少しずつ理解が広がる中、タトゥーに寛容な温泉や宿泊施設の情報を掲載するウェブサイト「Tattoo Friendly」を運営する川崎美穂さんは、外国人のタトゥーと温泉を巡る問題をどう考えているのか聞いてみた。

「日本はタトゥーの情報を『知る手段』がない」

――「Tattoo Friendly」を開設した理由は?

私の友人も経験したことですが、現地に行ってから入浴を断られる訪日外国人旅行者が増えています。事前に施設の利用状況が確認できるサイトがあれば現地でのトラブルが最小限に食い止められると思い、開設しました。電話で利用状況を確認し、タトゥーを受け入れている施設に掲載の依頼をしています。
(2019年2月現在、1050件を掲載、日本語と英語に対応)


――外国人と日本人のタトゥーに関する考え方の違いは?

根本的な部分では同じで、海外でもタトゥーを好きな人もいれば嫌いな人もいます。ただし、海外では宗教的理由や民族文化としてタトゥーを施す国があり、独自の文化となっています。タトゥースタジオが舞台のリアリティ番組が放送されるなど、現代のタトゥー事情を「知る手段」も多く、抵抗感が少ないです。

日本が他国と決定的に異なるのは、タトゥーを見ることを徹底的に嫌う独自の感覚です。それを疑問に思っても「タトゥーを見ると暴力団を連想するから恐い」とステレオタイプの答えが返ってきますが、それでは、可愛い猫のタトゥーを入れた女の子は暴力団に間違われるのでしょうか?

日本には刺青文化があり、それは暴力団の証だと信じている人が非常に多いですが、刺青愛好家の方もほとんどが一般の方です。まずは日本人が、日本文化を理解してほしいと願います。しかしながら、日本の刺青を取り巻く状況を伝えるメディアがほぼないため、前述した「知る手段」もないのが今の日本の現状です。
 

――タトゥーがある人が利用できる入浴施設を増やすためには、どんな取り組みが必要?

どこかが先進例となることが必要ではないでしょうか。他の施設の動きを横目で見ながら「タトゥーをOKするにはまだ時期尚早」と考えている施設は多いです。施設側は利用者のクレームを避けようと、タトゥーがある人の利用を制限していますが、本質的に求めているのはトラブルがない入浴です。

タトゥーがなくても怖い人もいれば、優しい人もいるのと同じように、タトゥーがあっても怖くない人はいます。要はタトゥーを基準に何かを判断するのは非常に難しいということです。〝タトゥー=悪〟ではないという、当たり前のことが自覚できるような、変化が訪れてほしいと思います。

「Tattoo Friendly」のウェブサイト

今後も外国人旅行者・労働者が増えていくことを考えると、「外国人のタトゥー問題」は先送りできない課題だが難しい点は多々ある。
ただ、日本人と外国人、タトゥーの有無に関わらず、互いが共存できるよう、環境や考え方の変化が求められていることは確かだ。



「外国人に選ばれたいニッポン」特集をすべて見る!

外国人に選ばれたいニッポンの他の記事